研究運営に患者も参加。オンライン研究プラットフォーム RUDY JAPAN で 表皮水疱症患者の登録・質問票への回答受付を開始

研究運営に患者も参加。オンライン研究プラットフォーム RUDY JAPAN で 表皮水疱症患者の登録・質問票への回答受付を開始

2020-7-2生命科学・医学系

研究のポイント

・患者とともに進める研究プラットフォームRUDY JAPANに新たな難病・稀少疾患 である表皮水疱症(EB: Epidermolysis Bullosa) の患者登録、及びQOL(Quality of Life:生活の質)に関する質問票の回答受付を開始した。
・表皮水疱症患者のQOLの長期的経過や季節変動の影響は、これまで十分に把握されていなかった。
・患者のQOLを詳細に調査することで、患者の抱える困難を正確に理解し、医療ケアの質向上や効率化につなげるとともに、疾患がもたらす困難を社会に広く知らせることができると期待される。
・今後は患者と研究者の協働による、表皮水疱症独自の新たなQOL質問票の作成も予定している。

概要

大阪大学大学院医学系研究科 加藤和人教授(医の倫理と公共政策学)は、玉井克人寄附講座教授(再生誘導医学)、松村泰志教授(医療情報学)、高橋正紀教授(臨床神経生理学)、同人間科学研究科山本ベバリー・アン教授(兼・NPO法人遺伝性血管性浮腫患者会 HAEJ)、広島大学大学院医歯薬保健学研究科の秀道広教授(皮膚科学)らと共に、情報通信技術(ICT)を用いた医学研究プラットフォームRUDY JAPAN(ルーディ ージャパン)に難病・稀少疾患である表皮水疱症の登録を新たに開始しました。

2020年6月30日(火)12時(日本時間)よりウェブサイト (図1) 上にて、患者情報の登録および、QOLに関する質問票の回答受付を開始しました(URL: https://rudy.hosp.med.osaka-u.ac.jp )。今後、RUDY JAPANでこの研究を進めることで、表皮水疱症患者への理解が進み、医療ケアの質向上や効率化につながると期待されます。

図1 RUDY JAPANトップページ
( https://rudy.hosp.med.osaka-u.ac.jp )登録を希望する患者さんは、"登録される方"より情報を入力することができる。

研究の背景

従来、難病・稀少疾患の研究は、対象となる患者数が非常に少ないことから、1つの医療機関や研究機関で研究を進めていくことが難しい状況でした。一方で、近年、英米を中心にICTを利用した医学研究が広がりつつあり、当事者としての患者が主体的に研究に参加する例が報告されています。そのため本研究グループはRUDY JAPANというオンライン研究プラットフォームを立ち上げ、ICTを利用した医学研究を実践する活動を、難病・稀少疾患の患者、複数の疾患領域の専門家、医療情報やICTの専門家など多様な人々と協働して実施してきました。

RUDY JAPANは、難病・稀少疾患の患者の病気や日常生活に関する情報を収集し、研究を進めるためのオンライン研究プラットフォームです。2017年12月に骨格筋チャネル病を対象に公開し、2018年10月には遺伝性血管性浮腫を対象に追加しました。現在の機能としては、(1)プロフィール、(2)アンケート、(3)タイムラインがあります。(1)プロフィール機能では、登録した患者さんはプロフィール機能で自分の情報の更新や、データの提供範囲、二次的研究参加といった同意内容の変更を行うことができます。システム内では登録者自身が後日詳細な同意内容を変更することができる、ダイナミックコンセントという仕組みを採用しています。(2)アンケート機能では、自己記入式質問(眠気、日常動作のほか、疾患に合わせたQOLや重症度に関する質問)に回答することができます。(3)タイムライン機能では、過去に回答した質問票の種類や日時を確認することができます。また、RUDY JAPANは、患者・市民とパートナーシップを築きながら進める新しい医学研究を目指しており、患者と研究者の両者が参画してシステムの改善や今後の研究の進め方についての意見交換を行う運営ミーティングを、定期的にウェブ会議として開催しています。

今回新たに研究対象とする表皮水疱症は、生まれつき皮膚がはがれやすく、やけどを負ったような水ぶくれやただれが全身に広がる遺伝性の難病です。赤ん坊のころから繰り返し皮膚がはがれ、手足の指が癒着してしまうなどの重篤な皮膚症状を呈します。現在のところ有効な治療法はなく、治療法の開発に加えて医療ケアの充実も重要な課題です。しかしこれまで、表皮水疱症の皮膚症状が患者のQOLにどのような影響を及ぼしているかは十分に把握されていませんでした。また表皮水疱症の皮膚症状は夏に悪化し冬に軽快する傾向がありますが、季節の変化が表皮水疱症患者のQOLに与える影響については十分に検討されていませんでした。

本研究の内容(表皮水疱症の登録開始について)

今回、RUDY JAPANに難病・稀少疾患である表皮水疱症を新たに追加し、患者登録を開始しました。また、システムには、表皮水疱症患者を対象とした調査項目として、「WHO-QOL 26(WHO Quality of Life 26)」と「DLQI (Dermatology Life Quality Index)」の2種類のQOL質問票を実装しました (図2) 。「WHO-QOL 26」は、疾患の種類に関わらない全般的な生活の質を測定する質問票で、「DLQI」は皮膚疾患による日常生活の障害度を測定する質問票です。これらの質問票に定期的に答えてもらうことで、表皮水疱症患者のQOLの長期的な経過、および季節変動によるQOLへの影響を把握することが期待されます。さらに今後は、表皮水疱症患者と研究者の協働により、表皮水疱症独自のQOL質問票を新たに作成することを予定しています。これまで表皮水疱症独自のQOL質問票は存在しなかったことから、本研究によって表皮水疱症患者の詳細なQOL調査が可能となると考えられます。

図2 表皮水疱症・質問票選択画面
研究に参加する表皮水疱症患者は、3か月に1度、DLQI、WHO-QOL26 の2種類の質問票に回答することになる。

本研究が社会に与える影響(本研究の意義)

これまで十分に把握されていなかった表皮水疱症患者のQOLを詳細に調査することで、患者が抱えている困難の本質を研究者・医療者がより正確に把握し、医療ケアの質向上や効率化につなげることが可能になります。それだけなく、QOLの詳細な把握によって、社会全体に対して疾患がもたらす困難を提示することも可能になります。特に、表皮水疱症患者が抱えている日常の困難に及ぼす温度や湿度などの環境要因の影響を明らかにすることで、学校や職場、さらには社会環境の改善につながると期待しています。

このRUDY JAPANプロジェクトは世界で始まりつつある新しい研究の進め方の、日本における数少ない取り組みの1つです。本研究のように、患者・市民と研究者の両方が参画して研究を進めていくことで、当事者の視点を反映した医学研究の実現が期待されます。

特記事項

このたび表皮水疱症について、患者登録およびQOLに関する質問票への回答の受付を2020年6月30日(火)12時(日本時間)よりウェブサイト上にて開始しました。
【URL】 https://rudy.hosp.med.osaka-u.ac.jp

なお、本研究は、科研費挑戦的研究(萌芽)「患者・市民の主体的参加による新しい医学研究ガバナンスの構築に向けた研究」(平成29年度〜)、大阪大学国際共同研究促進プログラム(平成29年度~)、JST-RISTEX科学技術イノベーション政策のための科学研究開発プログラム「医学・医療のためのICTを用いたエビデンス創出コモンズの形成と政策への応用」(平成30年度~)の支援を受けて行われました。

研究者のコメント

玉井克人寄附講座教授

生まれた直後から全身熱傷様の皮膚症状が生涯続く、表皮水疱症という皮膚難病を抱えながら日々の生活をおくっておられる患者さんの辛さは、いくら想像してもしきれるものではありません。この度RUDY JAPANに参加することで、表皮水疱症の症状と共に日々を過ごすことの辛さをQOL調査という形で具体的に評価し、医療従事者のみならず、多くの一般の皆さんに知っていただくことにより、表皮水疱症の患者さんを取り巻く医療環境の改善につなげていきたいと願っております。

参考URL

RUDY JAPANトップページ
https://rudy.hosp.med.osaka-u.ac.jp

用語説明

難病・稀少疾患

病気の原因が特定されておらず、治療方法が確立されていない、慢性の経過をたどる疾患がいまだ存在しています。このような疾病を難病(稀少疾患)と呼んでいます。現在、患者数が人口の0.1%より少ない333種類のこのような疾患が「指定難病」として厚生労働省により指定されています。

表皮水疱症(EB: Epidermolysis Bullosa)

表皮と真皮をつなぐ基底膜の接着分子が遺伝的に欠損ないし機能破綻することにより、日常生活の軽微な外力で表皮が真皮からはがれて全身熱傷様の水疱、びらん、潰瘍を生じる遺伝性水疱性皮膚難病です。現在根治的な治療法は無く、厚生労働省の指定する「指定難病」の一つです。