インターネットを介した研究参加者とのコミュニケーションの実装のための倫理的枠組みを提案

インターネットを介した研究参加者とのコミュニケーションの実装のための倫理的枠組みを提案

2022-4-20生命科学・医学系
医学系研究科助教古結敦士

研究成果のポイント

  • インターネットを介して研究参加者とコミュニケーションを取る際に留意すべき事項として、「情報通信技術を用いた医学研究のガバナンスのための枠組み」を提唱
  • これまで電子的同意やオンラインでの参加者募集をはじめとする、研究参加者との様々なコミュニケーションに電子的手法を用いる際の包括的なルールや指針は存在しなかったが、本研究で提唱した倫理的枠組みに基づき、実践的ガイダンスを提案
  • 本研究の成果によりインターネットを用いた医学研究のより良い形での実践が期待される

概要

大阪大学大学院医学系研究科の古結敦士助教、加藤和人教授(医の倫理と公共政策学)らの研究グループは、医学研究の研究参加者とのインターネットを介したコミュニケーションに関する倫理的課題を分析し、「情報通信技術を用いた医学研究のガバナンスのための枠組み」を提唱しました(図1)。さらに、研究者、患者パートナー、倫理審査委員会、研究助成機関といった各関係者がこの枠組みをどのように利用すれば良いかを示したフローチャートと併せて、実践的ガイダンスを提案しています(図2)。

これまでインターネットを介した研究参加者とのコミュニケーションについては「電子的同意」「オンラインでの参加者募集」など、個別に倫理的な課題の同定やそれに対する取り組みの提案が行われてきました。しかしながら、これらを包括する、インターネットを介した研究参加者とのコミュニケーションの実践のためのルールや指針は存在しませんでした。

今回、研究グループは、医学研究の研究倫理原則を用いた倫理的分析により、医学研究においてインターネットを介して研究参加者とコミュニケーションを取る際に留意すべき事項を同定・整理し、実装のための倫理的枠組みとして提唱しました。さらに、この枠組みの利用方法を併せて実践的ガイダンスとして提案しました。これにより、インターネットを用いた新しい形の医学研究がより倫理的に進められることが期待されます。

本研究成果は、カナダ科学誌「Journal of Medical Internet Research」に、4月20日(水)午後11時45分(日本時間)に公開されました。

20220420_2_1.png

図1. 情報通信技術を用いた医学研究のガバナンスのための枠組み

20220420_2_2.png

図2. 研究参加者とのオンラインコミュニケーションの実装のためのフローチャート

研究の背景

近年、医学研究への情報通信技術の応用が広まりつつあります。その一例としてオンラインでの研究参加者の募集、電子的なインフォームドコンセントといった、インターネットを介した研究参加者との様々なコミュニケーションが挙げられます。このような医学研究におけるインターネットの活用は、一部の地域では研究参加者を十分に募ることが難しい希少疾患研究や、研究参加者との長期的なコミュニケーションが重要となるようなゲノム研究にとって特に有用になると期待されています。

インターネットを用いることで、空間的な制約のない、継続的なコミュニケーションが可能になると期待されている一方で、デジタルデバイド、プライバシー侵害の懸念、提示された情報に関する理解を確認する方法、参加者の認証方法など、新たな倫理的課題に取り組む必要があります。これまでの研究は個別の倫理的課題に焦点を当てており、インターネットを介して研究参加者とコミュニケーションを取る上で留意すべき事項を概観する試みはありませんでした。また、実装に際してどのようなことに留意すべきかをまとめたルールや指針も存在しませんでした。

研究の内容

研究グループでは、医学研究の研究倫理原則(Emanuelらが提唱した倫理的な臨床研究のための8つの原則)を用いた倫理的分析により、医学研究においてインターネットを介して研究参加者とコミュニケーションを取る際に取り組むべき倫理的課題を同定・整理しました。その結果をもとに、「研究デザイン」「研究参加者の募集」「インフォームドコンセント」「データ通信」「研究成果の普及・解析結果の返却」という5つの研究プロセス、「研究へのアクセスとオンラインでの対話」「対象となる集団の参画」「独立審査」という全ての研究プロセスに関わる3つの観点の合計8つの要素からなる「情報通信技術を用いた医学研究のガバナンスのための枠組み」を提唱しました。各要素には、どのような留意点が含まれているかを示すベンチマークが記述されています(図1、ベンチマークは主なもののみ記載)。

さらに、この倫理的枠組みを研究者、患者パートナー、倫理審査委員会、研究助成機関といった各関係者が実践に際してどのように利用すれば良いのかを示したフローチャートと併せて実践的ガイダンスを提案しています(図2)。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、インターネットを用いた新しい形の医学研究を進める際に関係者がどのような点に留意すべきかが明確になり、そのような研究をより倫理的に進められるようになることが見込まれます。その結果、情報通信技術が医学研究にもたらす利点を最大限に活用して、より良い研究がより効果的に進められることに繋がることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2022年4月20日(水)午後11時45分(日本時間)にカナダ科学誌「Journal of Medical Internet Research」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Framework and practical guidance for the ethical use of electronic methods for communication with participants in medical research”
著者名:Atsushi Kogetsu1* and Kazuto Kato1(*責任著者)
所属:
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 医の倫理と公共政策学
DOI:https://doi.org/10.2196/33167

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業(先導的ELSI研究プログラム、平成28~30年度、課題番号18km0405301h0003)の一環として行われました。

参考URL

用語説明

患者パートナー

患者の立場で研究実施に関わる人のこと

デジタルデバイド

インターネットやコンピューターを使える人と使えない人との間に生じるさまざまな格差のこと