睡眠時間が短い大学生は喫煙開始のリスクが高い
大阪大学の学生26,373人を6年間追跡した疫学研究
研究成果のポイント
概要
大阪大学大学院医学系研究科の大学院生の李琴燕さん(博士過程)、キャンパスライフ健康支援・相談センターの山本陵平教授らの研究グループは、2007~2015年度に入学した大阪大学の学生26,373人を最大6年間追跡し、睡眠時間が5時間未満の大学生は喫煙開始のリスクが高く、特に女性でその傾向が顕著である事を明らかにしました(下図)。
図.2007〜2015年度に大阪大学に入学した学生26,373人の睡眠時間と喫煙リスク
これまで若年者における睡眠時間と喫煙の関連を報告した疫学研究の多くは、喫煙者と非喫煙者の睡眠時間を単純に比較した研究であり、非喫煙者を長期間追跡した大規模な疫学研究はほとんど報告されていません。
今回、山本教授らの研究グループは、大阪大学に入学した学生のうち非喫煙者を最大6年間追跡することによって、6時間未満の短時間睡眠の学生は在学期間中に喫煙を開始するリスクが高い事を明らかにしました。これにより、喫煙リスクの高い大学生の特徴が明らかになり、大学生に対する喫煙予防教育を推進する上で重要な知見が得られました。
本研究成果は、国際科学誌「sleep and Breathing」に、4月19日に公開されました。
研究の背景
これまで、若年者における睡眠時間と喫煙の関連を報告した疫学研究の多くは、喫煙者と非喫煙者の睡眠時間を単純に比較した研究であり、短(長)時間睡眠が喫煙開始のリスクとなるのか、それとも喫煙が短(長)時間睡眠のリスクとなるのかが明らかではありませんでした。また、若年者の非喫煙者を追跡して、睡眠時間が喫煙に及ぼす影響を評価した少数の研究は、小規模あるいは追跡期間が短く、十分な検討がなされていません。
研究の内容
山本陵平教授らの研究グループでは、2007〜2015年度に大阪大学に入学した学生26,373人(男性17,493人、女性8,880人)を最大6年間追跡しました。その結果、入学時健康診断において睡眠時間が5時間未満であると回答した学生は、在学期間中に喫煙を開始するリスクが高く、特に女性でその傾向が顕著である事が明らかになりました(図:男性における睡眠時間5時間未満、5-6時間、6-7時間(比較基準)、7-8時間、8時間以上の喫煙リスク:1.49倍、1.11倍、1.00倍、0.92倍、1.00倍;女性における5時間未満、5-6時間、6-7時間(比較基準)、7時間以上の喫煙リスク:2.50倍、1.18倍、1.00倍、1.22倍)。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果は、睡眠時間が短い大学生は将来的な喫煙開始のリスクが高く、喫煙予防教育の重点対象候補である可能性を示唆するものです。適切な睡眠時間の確保は、生活習慣病の予防において重要です。本研究成果によって、その主要な生活習慣リスクである喫煙の予防にも繋がることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、2024年4月19日に国際科学誌「Sleep and Breathing」に掲載されました。
タイトル: “Short sleep duration and smoking initiation in university students: a retrospective cohort study”
著者名: Qinyan Li, Ryohei Yamamoto, Maki Shinzawa, Naoko Otsuki, Yuichiro Matsumura, Yuko Nakamura, Masayuki Mizui, Isao Matsui, Yusuke Sakaguchi, Haruki Shinomiya, Chisaki Ishibashi, Hiroyoshi Adachi, Kaori Nakanishi, and Izumi Nagatomo
DOI: https://doi.org/10.1007/s11325-024-03014-3