良い入れ歯使用者は死亡リスクが低い

良い入れ歯使用者は死亡リスクが低い

大阪府の後期高齢者186,893人を追跡したビッグデータ解析で判明

2024-12-25生命科学・医学系
歯学研究科教授池邉一典

研究成果のポイント

  • 奥歯の噛み合わせが悪化するほどに死亡リスクは高くなり、状態の悪い入れ歯の使用者や入れ歯を使用していない者は、死亡リスクがさらに高まる(奥歯の噛み合わせが良い人と比べて、最大で1.8倍)ことを解明。
  • これまで、入れ歯の状態と死亡リスクとの関連を調べた大規模調査はなかった。今回、約18万7千人のビッグデータを分析することで、様々な歯の残り方のパターンと入れ歯の状態を網羅した検証が可能に。
  • 高齢者の健康維持に、入れ歯の適切な使用が重要であることが明らかに。

概要

大阪大学大学院歯学研究科の豆野智昭助教、池邉一典教授、キャンパスライフ健康支援・相談センターの山本陵平教授らの研究グループは、大阪府の後期高齢者186,893人において、奥歯の噛み合わせが悪化するほどに死亡の頻度が高くなるとともに、状態の悪い入れ歯の使用者や入れ歯を使用していない者は、奥歯の噛み合わせが良い人と比べて、同じ期間内に死亡する確率が高い(最大で1.8倍)ことを明らかにしました(図)。

高齢化が進むにしたがい、歯を喪失した高齢者の数は増加しています。入れ歯は、歯を失うことにより低下した食事の機能を補助し、健康維持に役立つと考えられてきました。しかし、入れ歯の状態が高齢者の死亡リスクにどの程度影響するのか、その関連性を大規模な追跡研究によって詳細に検討したものはありませんでした。

今回、研究グループは、大阪府後期高齢者医療広域連合、大阪府歯科医師会と協力し、大阪府の後期高齢者歯科健康診査の受診者186,893人、平均観察期間3.2年のデータを分析することで、入れ歯の状態が死亡リスクに与える影響を解明しました。これにより、入れ歯の状態は死亡リスクに関連しており、特に、奥歯の噛み合わせが少ないグループにおいて、状態の良い入れ歯を使用している者の死亡リスクは、他のグループよりも低いことが明らかとなりました。自分の歯を保つことに加えて、歯を失った場合でも、適切に入れ歯を使用することが、高齢者の健康において重要な役割を果たすことを示しています。

本研究成果は、国際科学誌「Journal of Prosthetic Dentistry」に、2024年11月29日に公開されました。

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図. 入れ歯の状態と死亡リスクの関連(アイヒナーの分類別)

研究の背景

これまで、入れ歯を使用することは、健康維持に関与すると考えられてきました。しかし、様々な歯の残り方のパターンと入れ歯の状態を網羅した大規模調査によって、両者の関連を検討した研究はありませんでした。

研究の内容

研究グループでは、大阪府の後期高齢者医療歯科健康診査を受けた186,893人を対象とした平均3.2年間の追跡研究より、奥歯の噛み合わせの状態が悪化するほどに死亡の頻度が高くなることを明らかにしました。また、入れ歯の状態で細分化した分析の結果、もっとも死亡の確率が高かった群は、アイヒナーの分類C3の適合不良群(アイヒナーの分類A1~A3群を基準として1.83倍)、続いてC3の不使用群(1.79倍)でした。さらに、どのアイヒナー分類群においても、適合良好群は、適合不良群や不使用群よりも低い死亡確率を示しました(A1~A3群を基準として、適合良好のB1群で0.98倍、B2群で1.02倍、B3群で1.11倍、B4群で1.14倍、C1群で1.15倍、C2群で1.28倍、C3群で1.58倍)。これは、慢性疾患の有無(高血圧、糖尿病、高脂血症、認知症)、喫煙習慣、BMIといった全身の要因の影響や、残っている歯の状態(奥歯での噛み合わせを失っている程度)を考慮したうえで、入れ歯の状態と死亡リスクとの間に、統計学的に意義のある関連があることを示しています。これらの結果から、奥歯の噛み合わせの状態が悪い者の中でも、状態の悪い入れ歯を使用している者や、入れ歯を使用していない者では、死亡の確率がさらに高まる可能性が示されました。

本研究では、大阪府後期高齢者医療広域連合、大阪府歯科医師会の協力の下、大規模な歯科健康診査データを分析することにより、歯の残り方のパターンを詳細に分けて、入れ歯の状態と死亡リスクを解析することが可能になりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究は、奥歯による噛み合わせを守ることや、失った食事の機能を補う入れ歯の適切なケアやメインテナンスを受けることが、高齢者の健康維持のために重要であることを示しています。「口は健康の入り口」として、口腔健康への注目度が高まっています。特に歯の喪失予防は、高齢社会におけるヘルスプロモーション戦略として重要視されています。本研究成果は、歯科医療と連携した介護支援プログラムの推進や、入れ歯の適切な使用や管理に関する啓発活動の基礎資料として、広く活用されることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、国際科学誌「Journal of Prosthetic Dentistry」に、2024年11月29日に公開されました。

タイトル:“Removable denture use, fit, and all-cause mortality in older adults with reduced occlusal support: The OHSAKA study”
著者名:Tomoaki Mameno, Naoko Otsuki, Satoko Takeuchi, Ryohei Yamamoto and Kazunori Ikebe
DOI:https://doi.org/10.1016/j.prosdent.2024.10.037

なお、本研究は、大阪府後期高齢者医療広域連合の委託事業の一環として行われ、日本学術振興会科学研究費補助金(24K02764)の助成を受けて実施されました。

参考URL

池邉一典教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/0cb4cd7825160081.html

山本陵平教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/5483155cff49bf0a.html

豆野智昭助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/e83db22b2095120b.html

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を

用語説明

アイヒナーの分類

奥歯の噛み合わせの状態を分類する方法。上下の奥歯(小臼歯・大臼歯)による噛み合わせの残り方に基づいて、A(全て保たれている)、B(部分的に失われている)、C(全て失われている)の3つのタイプに分け、噛み合わせの多い順にさらに細かく分類する(A1、A2、A3、B1、B2、B3、B4、C1、C2、C3)。