職場での心身のストレス反応は体重増加のリスクに
10,036人の長期間追跡で判明
研究成果のポイント
概要
大阪大学大学院医学系研究科の大学院生 松村雄一朗さん(博士課程)と大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センターの山本陵平教授らの研究グループは、2016〜2021年度にストレスチェックを受けた大阪大学の教職員10,036人を2022年度まで追跡し、ストレスチェックの結果と体重増加の関連を調査しました。その結果、ストレスチェックの3領域(仕事のストレス要因(A項目)、心身のストレス反応(B項目)、周囲のサポート(C項目))のうち、心身のストレス反応の点数が高くなるにつれ、10%以上の体重増加のリスクが高まることが分かりました(図1)。その他の領域と体重増加の関連は認められませんでした。
これまで、大規模集団を長期間追跡して、職場のストレスと体重増加の関連を評価した疫学研究は皆無でした。
本研究は、1万人強の大規模データを利用し、職場での心身のストレス反応が高い人ほど体重増加のリスクが高いことを明らかにしました。職場環境改善によるストレス軽減が、肥満予防に繋がる可能性を示唆する研究成果です。今後、職場でのストレス対策の重要性について議論が高まることが期待されます。
本研究成果は、2024年10月2日に米国科学誌「Journal of Occupational and Environmental Medicine」に公開されました。
図1. 心身のストレス反応(B項目)と10%以上の体重増加の累積発症率。Q75-89、Q90-100群で有意に発症率が増加している。
研究の背景
これまでにも、職場における心身のストレスが体重増加のリスクである可能性が示唆されていましたが、大規模集団を長期間追跡した研究報告は皆無であり、その関連性は明らかではありませんでした。
研究の内容
研究グループは、2016〜2021年度にストレスチェックと職員健診を受けた19〜65歳の大阪大学教職員10,036人を2022年度まで追跡し、ストレスチェックの結果と体重増加の関連を評価しました。
その結果、ストレスチェックの3領域(仕事のストレス要因(A項目17問)、心身のストレス反応(B項目29問)、周囲のサポート(C項目9問))のうち、心身のストレス反応が高い教職員は10%以上の体重増加のリスクが高いことが明らかになりました。ここでの「心身のストレス反応」とは、「不安だ」、「ゆううつだ」、「動悸や息切れがする」、「眠れない」といった状況を指します。
心身のストレス反応の点数に基づいて、下位から0~49%、50~74%、75~89%、90~100%の4群(Q0-49、Q50-74、Q75-89、Q90-100)に分類し、10%以上の体重増加リスクを算出しました(図2)。心身のストレス反応が最も低い教職員(Q0-49)に比較して、Q50-74、Q75-89、Q90-100の教職員の体重増加リスクは、1.0倍(95%信頼区間0.8–1.2)、1.3倍(1.0–1.6)、1.4倍(1.1–1.8)であり、Q75-89およびQ90-100の教職員の体重増加リスクが上昇していました。一方、仕事のストレス要因と周囲のサポートは体重増加のリスクではありませんでした。
図2. 心身のストレス反応(B項目)の点数分布と10%以上の体重増加のリスク。B項目の点数が上がるにつれてリスクが増加している。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果は、職場での心身のストレス反応が高い人は体重増加のリスクが高いことを示しています。肥満は、第3次健康日本21で対策が必要とされている非感染性疾患(NCDs: Non-Communicable Diseases)の重要な原因の一つです。国民一人一人の健康を維持するためには、肥満防止対策は根幹をなす施策だと言えます。職場の心身のストレスが肥満のリスクであるという啓発を通じて、職場環境への介入により職場のストレスを低下させ、従業員の方々の健康リスク低減が達成されることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、2024年10月2日に米国科学誌「Journal of Occupational and Environmental Medicine」公開されました。
タイトル:“Association of psychological and physical stress response with weight gain in university employees in Japan: a retrospective cohort study”
著者名:Yuichiro Matsumura, Ryohei Yamamoto, Maki Shinzawa, Yuko Nakamura, Quiyan Li, Masayuki Mizui, Isao Matsui, Yusuke Sakaguchi, Haruki Shinomiya, Chisaki Ishibashi, Kaori Nakanishi, Daisuke Kanayama, Hiroyoshi Adachi, and Izumi Nagatomo.
DOI:https://doi.org/10.1097/JOM.0000000000003238
参考URL
山本陵平教授 Research Map
https://researchmap.jp/yamamotor