
職場での心身のストレス反応は 月経不順の発生リスクを高める
大阪大学女性教職員2,078人の追跡で判明
研究成果のポイント
概要
大阪大学大学院医学系研究科の大学院生 松村雄一朗さん(博士課程)と大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センターの山本陵平教授らの研究グループは、2019〜2021年度にストレスチェックを受けた大阪大学の女性教職員2,078人を2022年度まで追跡し、ストレスチェックの結果と月経不順の関連を調査しました。その結果、ストレスチェックの3領域(仕事のストレス要因(A項目)、心身のストレス反応(B項目)、周囲のサポート(C項目)のうち、心身のストレス反応の点数が高くなるにつれ、月経不順の発生リスクが高まることが分かりました(図1)。その他の領域と月経不順発生との関連は認められませんでした。
これまで、職場のストレスと月経不順の関連を評価した疫学研究はありませんでした。本研究では、2000人超のデータを利用することで、職場でのストレス反応と月経不順リスクとの関係を明らかにしました。
この研究成果は、職場環境改善によるストレス軽減が、月経不順発生の予防に繋がる可能性を示唆するものです。今後、職場でのストレス対策の重要性について議論が高まることが期待されます。
本研究成果は、2025年4月19日に日本の英文科学誌「Journal of Epidemiology」に公開されました。
図1. 心身のストレス反応(B項目)と月経不順の累積発症率。Q50-74、Q75-89、Q90-100群で有意に発症率が増加している。
研究の背景
これまでにも、職場における心身のストレスが月経不順のリスクである可能性が示唆されていましたが、大規模集団を長期間追跡した研究報告はなく、その関連性は明らかではありませんでした。
研究の内容
研究グループは、2019〜2021年度にストレスチェックと職員健診を受けた19〜45歳の大阪大学の女性教職員2,078人を2022年度まで追跡し、ストレスチェックの結果と月経不順の発生リスクの関連を評価しました。
その結果、ストレスチェックの3領域(仕事のストレス要因(A項目17問)、心身のストレス反応(B項目29問)、周囲のサポート(C項目9問))のうち、心身のストレス反応が高い女性教職員は月経不順の発生リスクが高いことが明らかになりました。ここでの「心身のストレス反応」とは、「不安だ」、「ゆううつだ」、「動悸や息切れがする」、「眠れない」といった状況を指します。
心身のストレス反応の点数に基づいて、下位から0~49%、50~74%、75~89%、90~100%の4群(Q0-49、Q50-74、Q75-89、Q90-100)に分類し、月経不順の発生リスクを算出しました(図2)。心身のストレス反応が最も低い教職員(Q0-49)に比較して、Q50-74、Q75-89、Q90-100の教職員の月経不順の発生リスクは、1.4倍(95%信頼区間1.0–1.9)、1.5倍(1.0–2.2)、2.2倍(1.4–3.4)であり、ストレスへの曝露が増えるにつれ、女性教職員の月経不順の発生のリスクが上昇していました。一方、仕事のストレス要因と周囲のサポートは月経不順との関連は認められませんでした。
図2. 心身のストレス反応(B項目)の点数分布と月経不順の発生リスク。B項目の点数が上がるにつれてリスクが増加している。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果は、職場での心身のストレス反応が高い人は月経不順の発生リスクが高いことを示しています。昨今、社会進出がめざましい女性の健康対策は重要な課題として挙げられておりますが、すべての分野がカバーされているとは言いがたい状況です。職場の心身のストレスが月経不順の発生リスクであるという啓発を通じて、職場環境への介入により職場のストレスを低下させ、女性の生活の質の改善がなされることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、2025年4月19日に日本の英文科学誌「Journal of Epidemiology」に公開されました。
タイトル:“Psychological and physical stress response and incidence of irregular menstruation in female university employees: a retrospective cohort study”
著者名:Yuichiro Matsumura, Ryohei Yamamoto, Maki Shinzawa, Yuko Nakamura, Sho Takeda, Masayuki Mizui, Isao Matsui, Yusuke Sakaguchi, Asami Yagi, Yutaka Ueda, Chisaki Ishibashi, Kaori Nakanishi, Daisuke Kanayama, Hiroyoshi Adachi, Izumi Nagatomo.
DOI:https://doi.org/10.2188/jea.JE20240424
参考URL
山本陵平教授 Research Map
https://researchmap.jp/yamamotor