
モバイルヘルスアプリを始めた人は歩数が増加
大阪府健康アプリ「アスマイル」のAI分析で効果を実証
研究成果のポイント
- 大阪府民のためのモバイルヘルスアプリ「アスマイル」を開始したユーザーは、1日あたりの歩数が平均約360歩増加した。
- これまで、モバイルヘルスアプリ利用による行動変容の効果については、効果検証のためのデータが十分に集まらないことなどの課題があったが、8万人以上のパーソナルヘルスレコード(PHR)と人工知能(AI)モデルを用いることで分析可能に。
- アスマイルの利用推進によって、大阪府民の日常的な運動量の増加、さらには生活習慣病の予防および健康寿命延伸につながることに期待。
概要
大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センターの大山飛鳥特任助教(現招へい研究員)、土岐博名誉教授、山本陵平教授らの研究グループは、大阪府が運営するモバイルヘルスアプリ「アスマイル」(図1)のパーソナルヘルスレコード(PHR)データを利用し、アプリ利用開始後の歩数の増加量をAIモデルで分析しました。
モバイルヘルスアプリを利用した研究は、これまで小規模な研究が多く、その歩数増加効果を科学的に分析することは困難でした。研究グループは、ユーザー(アスマイル会員)のPHRデータを利用して、アプリ利用開始前後の歩数の変化をAIモデルで分析しました(図2A)。その結果、アプリ利用開始後に歩数が1日あたり約360歩(図2B)、28日間で累積約1万歩(図2C)増加することが明らかになりました。モバイルヘルスアプリ利用を推進することで、大阪府民の身体活動量が増加し、生活習慣病の予防や健康寿命延伸につながることが期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Journal of Medical Internet Research」に、2025年5月21日(水)14時(日本時間)に公開されました。
図1. 大阪府が運営する大阪府民の健康をサポートするスマホアプリ「アスマイル」(iPhone・Android対応) https://www.asmile.pref.osaka.jp
図2. 歩数増加効果の推定結果:(A)実際の歩数と予測歩数、(B)1日あたりの歩数増加量、(C)4週間の累積歩数増加量
研究の背景
これまで、モバイルヘルスアプリの利用によって健康意識の向上に効果的であることは示されてきましたが、行動変容への効果は十分に研究されていませんでした。特に、スマートウォッチなどのウェラブルデバイスやスマホアプリを用いた研究では、研究に参加可能な人数や対象集団が限定され、効果検証のためのデータが十分に集まらないといった課題や、研究目的でデバイスを利用することによって、日頃よりも健康に意識した行動を取りやすくなるといった心理的要因によるバイアスが生じやすいという課題がありました。
研究の内容
研究グループでは、大阪府が運営するモバイルヘルスアプリ「アスマイル」の会員80,689名を対象にして、アスマイル利用開始前後の日常的な歩数の変化を分析し、その歩数増加効果を推定しました。従来の統計手法では、アプリ利用開始による歩数増加効果を推定するために、アプリを利用していない対照群が必要です。本研究では、Causal Impactと呼ばれる因果推論AIモデルを用いて、アスマイル利用開始前の歩数や天候等のデータからアスマイル利用開始後の擬似対照歩数を推定しました。擬似対照歩数と実際の歩数を比較することによって、アスマイル利用開始後の歩数増加効果を分析しました。その結果1日あたり約360歩、28日間の累積で約1万歩の歩数増加効果が認められました(図2)。特に、アスマイル利用開始前の歩数が少ない集団や若年者(図3)で歩数増加効果が大きく、季節も大きく影響することが明らかになりました。
図3. 層別解析による年代ごとの累積歩数増加効果の比較
アスマイルによる歩数の増加効果は20代が最も大きかった。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究はモバイルヘルスアプリによる短期的な歩数増加効果を明らかにしました。モバイルヘルスアプリの利用推進が、身体活動量の増加、さらには生活習慣病の予防や健康寿命延伸に繋がることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、2025年5月21日(水)14時(日本時間)に米国科学誌「Journal of Medical Internet Research」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:Effects of Mobile Healthcare Application “Asmile” on Physical Activity of 80,689 Users in Osaka Prefecture, Japan: Longitudinal Observational Study
著者名:Asuka Oyama, Kenshiro Taguchi, Hiroe Seto, Reiko Kanaya, Jun’ichi Kotoku, Miyae Yamakawa, Hiroshi Toki, and Ryohei Yamamoto
DOI:https://doi.org/10.2196/65943
なお、本研究は、JSPS科学研究費(24K10918、23K17228、22H05108)及びJST戦略的創造研究推進事業ERATO(JPMJER2102)の一環として行われ、大阪府国民健康医療部健康推進室国民健康保険課の協力を得て行われました。
参考URL
SDGsの目標
用語説明
- アスマイル
大阪府民一人ひとりが自律的に健康を推進することを目的として大阪府が運営をおこなっているスマートフォン用の健康アプリ。毎日の歩数や体重、血圧などを記録することができ、日々掲載される健康に関する記事を通じて健康に対する留意点を学ぶことも出来る。さらに大阪府の市町村国保加入者であれば、特定健診結果の自動連携や生活習慣病の発症予測AIを利用することも出来る。
- Causal Impact
ベイズ構造時系列モデルに基づく因果推論モデル。介入前のデータから介入後の半事実データを推定することで、対照群のない研究デザインであっても、介入群の時系列データのみから介入効果を推定することが出来る。