高い硫黄耐性をもつ新触媒を開発
硫黄原子を含むカルボニル類のアミノ化反応を効率的に促進
研究成果のポイント
- 触媒毒となる硫黄に対して高い耐性を示すリン化ルテニウム触媒を開発。
- 硫黄含有カルボニル化合物のアミノ化を温和な反応条件で効率的に促進。
- 医薬品原薬・中間体として重要な硫黄含有アミンを省エネルギー・省資源で製造する新規触媒プロセスの開発に期待。
概要
大阪大学大学院基礎工学研究科の満留敬人准教授と石川浩也さん(博士後期課程3年生)らは、触媒毒となる硫黄に対して高い耐性を示すリン化ルテニウムナノ粒子を開発しました。また、開発したリン化ルテニウムナノ粒子は、硫黄原子を含む様々なカルボニル化合物をアミンへと変換する還元的アミノ化反応を効率的に進行させる触媒として機能することを見出しました。
カルボニル化合物をアミンへと変換する還元的アミノ化反応は、医農薬・染料・合成樹脂・機能性材料などの原料となる一級アミンを与える、化学工業において重要な反応です。しかしながら、従来の金属触媒は本反応を効率よく進行させるために高水素圧などの過酷な反応条件を必要とします。また、硫黄原子は金属に強く吸着し、触媒能を失わせる触媒毒となるため、硫黄原子を含むカルボニル化合物のアミノ化反応を促進させることは難しく、高い硫黄耐性をもつ触媒の開発が望まれていました。
今回、満留敬人准教授らの研究グループは、直径約5 nm(ナノメートル)のリン化ルテニウムナノ粒子 (Ru2P/C, 図1)が還元的アミノ化反応において、高い活性と硫黄耐性を兼ね備えた固体触媒として機能することを見出しました。還元的アミノ化反応を促進させることで知られている触媒(Pd/C)は、硫黄原子を含むカルボニル化合物をアミンに変換することはできません(図2a)。開発したRu2P/Cは高い硫黄耐性を有し、アミノ化反応を効率的に促進させます(図2a)。本触媒を用いることで、硫黄原子を含む様々なカルボニル化合物をアミンへと変換することができます(図2b)。また、反応後のRu2P/Cは反応溶液から遠心分離により分離・回収でき、活性の低下なく再使用できます。硫黄含有アミンは医薬品原薬・中間体に広くみられる重要な化合物であるため、今回開発したRu2P/Cは、硫黄含有アミンを高効率・低環境負荷で製造する新規触媒プロセスの開発に貢献すると期待されます。
本研究成果は、米国化学会誌「ACS Catalysis」(オンライン)に、3月12日(火)21時(日本時間)に公開されました。
図1. 開発したリン化ルテニウム触媒(Ru2P/C)の電子顕微鏡像.
図2. (a) 開発したRu2P/Cと従来の触媒(Pd/C)との性能比較. (b) Ru2P/Cを用いた硫黄含有カルボニル化合物の還元的アミノ化反応.
研究の背景
カルボニル化合物をアミンへと変換する還元的アミノ化反応は化学工業において重要な反応の一つです。これまでの触媒は、反応を促進させるために高水素圧の過酷な反応条件が必要でした。また、硫黄が触媒毒となり触媒活性を著しく低下させるため、硫黄原子を含むカルボニル化合物をアミンへと変換することは困難とされていました。上記背景のもと、本研究では、高い活性と硫黄耐性を兼ね備えた新触媒の開発に取り組みました。
研究の内容
本研究グループでは、カーボン担体上に直径約5 nmのリン化ルテニウムナノ粒子を固定化した触媒(Ru2P/C)が、還元的アミノ化反応に対して高い活性・硫黄耐性を示すことを見出しました。開発したRu2P/Cは高難度反応である硫黄含有カルボニル化合物の還元的アミノ化を温和な条件で効率的に促進させます。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究では、還元的アミノ化反応に高い活性・硫黄耐性を示す新触媒の開発に成功しました。硫黄による被毒は、様々な触媒プロセスで問題となっており、プロセスの高効率化・長寿命化を達成するには硫黄耐性向上の技術開発が必要不可欠です。本研究で得られた知見は、硫黄耐性向上の技術開発および持続可能な新規触媒プロセスの実現に貢献すると期待されます。
特記事項
本研究成果は、米国化学会誌「ACS Catalysis」(オンライン)に、3月12日(火)21時(日本時間)に公開されました。
タイトル:“Highly Active and Sulfur-tolerant Ruthenium Phosphide Catalyst for Efficient Reductive Amination of Carbonyl Compounds”
著者名:Hiroya Ishikawa, Sho Yamaguchi, Tomoo Mizugaki, Takato Mitsudome*
DOI: 10.1021/acscatal.3c06179
なお、本研究は、科学研究費補助金(20H02523、21K04776、23KJ1484、23H01761)、JST戦略的創造研究推進事業 さきがけ「未来材料」(研究総括:陰山 洋) (JPMJPR21Q9)、CREST「分解と安定化」(研究総括:高原 淳) (JPMJCR21L5)などの支援の元に行われました。
参考URL
大阪大学大学院 基礎工学研究科 化学工学領域 触媒設計グループ(水垣研究室)
http://www.cheng.es.osaka-u.ac.jp/Mizugaki/home.html
参考記事
〇プレスリリース
・\ついに実現!/ “鉄”から高活性・高耐久性触媒を開発(2023.9.28)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20230928_1
・\ 76倍の活性向上!/ 高い耐硫黄性を示す新規水素化触媒の開発に成功(2023.4.17)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20230417_1
・貴金属触媒の硫黄耐性の大幅向上に成功(2022.1.12)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2022/20220112_1
・世界最高効率で麦芽糖の水素化反応に成功!!(2021.4.22)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210422_2
・化学工業で重要なカルボニル化合物のアミノ化反応に革新(2021.4.9)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210409_3
・食品添加物、化粧品原料等に使われるソルビトールをより安全・省エネ・低コストで生産可能に(2021.2.4)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210204_1
・発火性がなく、高活性!化学工業で重要な水素化反応に革新(2020.6.10)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2020/20200610_1
〇特集記事
「辿りついた“スマート触媒”の開発」(大阪大学NewsLetter85号)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2021/nl85_research02
SDGsの目標
用語説明
- 触媒毒
触媒の活性、選択性、耐久性などの性能を低下させる原子や分子のことを指す。触媒毒は、触媒表面に吸着して反応部位を塞ぐことにより、触媒が反応物に対して効率的に作用するのを妨げる。これにより、触媒の活性が低下し、反応速度が遅くなることがある。硫黄原子や有機硫黄化合物は強力な触媒毒となることが知られており、ppb(パーツ・パー・ビリオン, 1 ppbは1%の1000万分の1)オーダーの濃度でも触媒活性を著しく低下させる場合がある。
- ナノ粒子
100 nm(ナノメートル)以下の直径の粒子。 1 nmは、1 m(メートル)の10億分の1という長さを示す単位。
- 固体触媒
化学反応を進行させる触媒は、溶液に溶け込む均一系触媒と溶け込まない不均一系触媒(=固体触媒)に大別される。固体触媒は、反応後に反応液からろ過や遠心分離により簡単に分離することができる他、再使用ができるなどの多くの実用的な利点がある。