天然に多く存在するカルボン酸から 有用なアルキルアミンを合成する新触媒
環境にやさしく、より安全で省エネルギーな触媒プロセスの開発に期待
お読みいただく前に
アルキルアミンは、医薬品やポリマー、農薬、界面活性剤等として幅広く利用される機能性化学品です。持続可能なアルキルアミン合成の実現に向けて、天然に豊富に存在するカルボン酸を炭素源とする、カルボン酸の還元的アミノ化反応が注目されています。しかし通常、カルボン酸の還元的アミノ化によるアルキルアミン合成は、数十~数百気圧の高圧水素や数百度の高温といった厳しい反応条件下で行われており、多大なエネルギーを消費することや危険を伴うといった問題を抱えています。したがって、温和な条件下でカルボン酸の還元的アミノ化を促進する高活性触媒の開発が望まれていました。
研究成果のポイント
概要
大阪大学大学院基礎工学研究科の大学院生 硲田捷将さん、山口渉 助教、大学院生の本城一樹さん、北河康隆 教授、満留敬人 准教授、水垣共雄 教授らの研究グループは、カルボン酸をアルキルアミンへと変換する、カルボン酸の還元的アミノ化反応(図1)に極めて高い活性を示す担持金属ナノ粒子触媒の開発に成功しました。
アルキルアミンは医薬品やポリマー、農薬、界面活性剤等として幅広く利用される重要な化合物です。今回、水垣教授らの研究グループは、天然に豊富に存在するカルボン酸をアルキルアミンへと選択的に変換する触媒の開発に取り組みました。そして、白金ナノ粒子とモリブデン酸化物を酸化アルミニウム上に担持した触媒(Pt-Mo/γ-Al2O3)(図2)が、常圧(1気圧)~20気圧の水素圧下という極めて温和な条件で、カルボン酸の還元的アミノ化によるアルキルアミン合成を促進することを見出しました。この反応では、水素を還元剤に用いることで目的のアミン以外には水のみが副生する、環境に優しいクリーンな合成プロセスです。また、開発した触媒は固体触媒であるため、生成物と触媒は容易に分離ができ、回収した触媒の再使用もできます。
これらの成果から、再生可能資源から安全かつ省エネルギーでアルキルアミンを作り出す、環境に優しい触媒プロセスの開発が期待されます。本研究成果は、英国王立化学会誌「Green Chemistry」(オンライン)に、2024年1月3日(水)21時(日本時間)に公開されました。
図1. カルボン酸の還元的アミノ化反応
図2. (a)開発した担持金属ナノ粒子触媒(Pt-Mo/γ-Al2O3)の写真、(b)電子顕微鏡像(黒い粒子が白金)
研究の背景
アルキルアミンは、医薬品やポリマー、農薬、界面活性剤等として幅広く利用される機能性化学品です。持続可能なアルキルアミン合成の実現に向けて、天然に豊富に存在するカルボン酸を炭素源とする、カルボン酸の還元的アミノ化反応が注目されています。カルボン酸の還元的アミノ化によるアルキルアミン合成は、数十~数百気圧の高圧水素や数百度の高温といった厳しい反応条件下で行われており、多大なエネルギーを消費することや危険を伴うといった問題を抱えています。したがって、温和な条件下でカルボン酸の還元的アミノ化を促進する高活性触媒の開発が望まれていました。
研究の内容
本研究グループでは、約2.3ナノメートルの白金ナノ粒子とモリブデン酸化物を酸化アルミニウム上に担持した固体触媒(Pt-Mo/γ-Al2O3)が、温和な反応条件下で様々なカルボン酸とアミンの組み合わせからアルキルアミンへ変換できることを見出し、世界で初めてカルボン酸の還元的アミノ化を常圧水素下でも行うことに成功しました(図3)。また、開発した触媒は油脂等のバイオマスから得られる高級脂肪酸に適用可能であり、界面活性剤として有用な高級脂肪族アミンを高収率で得ることができました(図4)。さらに、反応後は遠心分離により生成物と触媒を簡単に分離でき、生成物を取り出すことができます。回収した触媒を再使用しても触媒の活性低下はほとんど見られず繰り返し使用可能であり、実用的な観点からも非常に有用性の高い触媒です。
図3. 常圧水素下でのカルボン酸の還元的アミノ化反応
図4. 開発した触媒を用いた高級脂肪酸から還元的アミノ化による高級脂肪族アミン合成
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
今回私たちは、天然に豊富に存在するカルボン酸の還元的アミノ化を温和な条件下で促進する触媒の開発に成功しました。本研究成果は、医薬品や界面活性剤等として重要なアルキルアミンを安全かつ省エネルギーで製造する環境調和型化学プロセスの構築、さらに再生可能資源を有効利用する循環型低炭素社会の実現につながると期待されます。
特記事項
本研究成果は、英国王立化学会誌「Green Chemistry」に、2024年1月3日(水)21時(日本時間)に公開されました。
タイトル:“Reductive amination of carboxylic acids under H2 using a heterogeneous Pt–Mo catalyst”
著者名:Katsumasa Sakoda, Sho Yamaguchi, Kazuki Honjo, Yasutaka Kitagawa, Takato Mitsudome, Tomoo Mizugaki
DOI: https://doi.org/10.1039/D3GC02155F
なお、本研究は、日本学術振興会特別研究員奨励費(23KJ1473)、同科学研究費補助金(20H02523, 21K04776,22H02050)、JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「未来材料」(研究総括:陰山 洋)JPMJPR21Q9、CREST「分解と安定化」(研究総括:高原 淳)JPMJCR21L5、および大阪大学・先導的学際研究機構(ICS-OTRI)の一環として行われました。
参考URL
大阪大学大学院 基礎工学研究科 化学工学領域 触媒設計学グループ(水垣研究室)
http://www.cheng.es.osaka-u.ac.jp/Mizugaki/home.html
参考記事(プレスリリース)
新たな固体触媒を開発!温和な条件でエステルからエーテルへ(2022.2.24)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2022/20220224_2
SDGsの目標
用語説明
- 高級脂肪酸
化学構造式としては長鎖炭化水素基とカルボキシ基で構成されます。植物油などの油脂の加水分解により得られる再生可能資源であり、近年では、使用済みてんぷら油から製造したバイオディーゼル燃料や有用化合物への変換が注目されています。
- 高級脂肪族アミン
長鎖炭化水素基とアミノ基から構成されます。陽イオン界面活性剤として、身近なところでは柔軟剤等に使用されています。
- 担持金属ナノ粒子触媒
粒子径が数ナノメートルの金属微粒子を高分散に担持した触媒をいいます。今回の研究では、酸化アルミニウムという無機酸化物担体の上に、直径約2.3ナノメートルの白金ナノ粒子とモリブデン酸化物微粒子を分散担持した白金-モリブデン担持触媒の開発に成功しました。この触媒が、カルボン酸の還元的アミノ化反応を非常に効率よく促進させます。
- 固体触媒
化学反応を進行させる触媒は、反応液に溶け込む均一系触媒と溶け込まない不均一系触媒(=固体触媒)に大別できます。固体触媒は、粉末であるため反応溶液からろ過により簡単に取り除くことができ、生成物との分離や再使用が容易になるなどの実用的な利点があるため、工業プロセスでも多く用いられています。