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準安定物質“ε–炭化鉄”の簡便な合成法を開発

準安定物質“ε–炭化鉄”の簡便な合成法を開発

未知の触媒機能を引き出し、資源循環型社会に貢献

2025-4-28工学系
基礎工学研究科准教授満留 敬人

研究成果のポイント

  • 通常は超高圧下でしか安定しない“ε(イプシロン)-炭化鉄”を常圧で選択的に合成する手法の開発に成功。さらに、これまで未解明だったε-炭化鉄の特異な触媒機能を発見。
  • ε-炭化鉄は熱力学的に13 GPaもの超高圧下で安定に存在する特異な物質(準安定物質)であり、常圧・低温条件での合成は極めて困難とされてきた。
  • 準安定物質の自在合成は、基盤技術として新たな機能性材料の創出につながる。また、鉄のように豊富で安価な元素の潜在的な触媒機能を引き出すことで、貴金属依存からの脱却に寄与し、資源循環型社会の構築に貢献できる。

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科 満留敬人 准教授と平山雄麻さん(博士前期課程2年)らの研究グループは、鉄と炭素で構成される準安定物質“ε(イプシロン)-炭化鉄”を常圧で簡便に合成できる新たな非平衡合成手法を開発しました。また、合成したε-炭化鉄のナノ粒子はアミンの合成に重要なカルボニル化合物の還元的アミノ化反応を高効率に促進させる触媒機能を持つことを発見しました。本研究成果は、学術誌「Small」に、4月24日(木)19時(日本時間)に公開されました。

研究の背景

ε-炭化鉄(ε‐FexC; x = 2–3)は鉄と炭素からなり、通常は13 GPaという超高圧下においてのみ熱力学的に安定な相をとる特別な物質です。このような準安定物質は、常圧かつ低温で選択的に合成することはこれまで極めて困難とされてきました。

研究の内容

本研究では、鉄の前駆体とハロゲン化物、さらに通常は炭化鉄の合成に使わないホウ素化合物(B₂pin₂)を用いて、常圧下220℃という温和な条件で、単相のε-炭化鉄ナノ粒子を合成する手法を開発しました(図1a)。この手法において、B₂pin₂の添加が鉄の炭化過程で重要な役割を果たしており、その働きや炭化鉄生成の仕組みについても明らかにしました。

合成されたε-炭化鉄は平均28ナノメートルの粒子であることが分かり(図1b)、さらに、アルデヒドとアンモニアを用いた還元的アミノ化反応を高効率で進める触媒機能をもつことも発見しました。これは、従来の鉄触媒(Fe/SiO₂)には見られない新しい特性です(図1c)。

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図1. (a) ε-炭化鉄の新合成法 (b)ε-炭化鉄ナノ粒子の電子顕微鏡像 (c)ε-炭化鉄ナノ粒子の触媒特性、従来の鉄触媒(Fe/ZrO₂)との比較.

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究は、これまで困難とされてきた準安定物質の自在合成に新たな道を拓く成果です。この基礎技術は、準安定物質に内在する未知の機能を引き出す起点となり、機能性材料の創出に大きく貢献すると期待されます。

実際に本研究では、従来の鉄触媒には見られなかった新たな触媒特性をε-炭化鉄で実現し、鉄を用いた触媒材料の可能性を大きく広げました。鉄のように安価で豊富な元素を活用できれば、貴金属依存からの脱却が進み、持続可能な資源循環型社会の実現にもつながります。

特記事項

本研究成果は、2025年4月24日(木)19時(日本時間)に学術誌「Small」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“One-step Low-Temperature Synthesis of Metastable ε-Iron Carbide Nanoparticles with Unique Catalytic Properties Beyond Conventional Iron Catalysts”
著者名:Yuma Hirayama, Akira Miura, Motoaki Hirayama, Hiroyuki Nakamura, Koji Fujita, Hiroshi Kageyama, Sho Yamaguchi, Tomoo Mizugaki and Takato Mitsudome
DOI:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/smll.202412217

なお、本研究は、JST戦略的創造研究推進事業 さきがけ「未来材料」(研究総括:陰山 洋)JPMJPR21Q9、JPMJPR21Q8、JPMJPR21Q6、CREST「分解と安定化」(研究総括:高原 淳)JPMJCR21L5、及び科学研究費補助金(基盤研究(B))などの支援の元に行われました。

参考URL

大阪大学大学院 基礎工学研究科 化学工学領域 触媒設計グループ(水垣研究室)
http://www.cheng.es.osaka-u.ac.jp/Mizugaki/home.html

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