
\鉄なのに高性能!/ アミン合成を革新する 高活性・高耐久性の鉄系固体触媒を開発
持続可能な社会をめざす、貴金属ゼロへの挑戦
研究成果のポイント
概要
大阪大学大学院基礎工学研究科 満留敬人 准教授と津田智広さん(博士後期課程3年:研究当時)らは、鉄とリンで構成されるリン化鉄ナノ結晶(Fe₂P NC)が、アミンの合成に重要な、カルボニル化合物の還元的アミノ化反応を高効率に促進させる触媒として機能することを見出しました。Fe₂P NCを酸化ジルコニウム上に担持させた触媒 (Fe₂P NC/ZrO₂) は、従来の鉄触媒(Fe/ZrO₂)の300倍以上の活性を示しました。本反応により、様々なカルボニル化合物から目的生成物である第一級アミンが高収率で得られ、反応後の触媒は高活性を維持したまま再使用することができます。
本研究成果は、米国科学誌「Journal of the American Chemical Society」に、4月16日(水)22時(日本時間)に公開されました。
研究の背景
アンモニアを窒素源とするカルボニル化合物の還元的アミノ化反応は、医薬品中間体やポリマー原料として欠かすことのできない第一級アミンを合成する工業的に重要な反応です。従来、本反応を促進させる触媒には稀少かつ高価な貴金属や、ニッケル、コバルトなどの枯渇が懸念される金属が使用されており、より低コストで汎用性の高い「鉄」を使った触媒の開発が望まれていました。
鉄は地球上に豊富に存在し、安価・低毒性であることから、持続可能な触媒材料として極めて有望です。しかし、従来の鉄触媒は、化成品合成を行う温度領域での水素化反応にはほとんど活性を示さず、さらに微量の酸素で容易に酸化失活するという、実用化を阻む深刻な課題を抱えていました。
研究の内容
研究グループは、独自の手法により多様な金属ナノ化合物の合成に取り組み、今回、鉄とリンからなるロッド状のリン化鉄ナノ結晶(Fe₂P NC)の合成に成功しました(図1a)。
このFe₂P NCは、アルデヒドの還元的アミノ化反応を促進する触媒として機能し、従来の鉄触媒(Fe/ZrO₂)と比較して77倍の触媒活性を示しました。さらに、Fe₂P NCは従来の鉄ナノ粒子と異なり、大気中で安定な性質を持つため、取り扱いやすく、触媒の改良が容易です。この特性を活かしてZrO₂との複合化を行ったところ、触媒活性が著しく向上し、従来の鉄触媒の313倍という極めて高い活性を実現しました(図1b)。また、Fe₂P NC/ZrO₂は、さまざまなカルボニル化合物の還元的アミノ化反応において高収率でアミンを得ることができ、これらのアミンは医薬品中間体やポリマー原料として活用できるため有用です(図1c)。
さらに、本触媒は固体であるため、反応後に遠心分離によって容易に回収でき、再使用後も高い活性を維持しました。このように、私たちは還元的アミノ化反応において高活性と耐久性を兼ね備えた鉄系触媒の開発に、世界で初めて成功しました。論文では、Fe₂P NC/ZrO₂の活性発現因子の解明や反応機構に関しても詳細に検討しています。
図1. (a) 開発したリン化鉄ナノ結晶(Fe₂P NC)の電子顕微鏡像: Fe₂P NCは縦66 nm×横10 nmの六角柱のナノロッド構造を有する. (b) 従来の鉄触媒(Fe/ZrO₂)と今回開発したリン化鉄触媒(Fe₂P NC)の還元的アミノ化反応における活性比較.(c) Fe₂P NC/ZrO₂を用いた様々なカルボニル化合物の還元的アミノ反応による1級アミンの合成.
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究は、豊富で安価な鉄の触媒利用に新たな可能性を拓き、資源循環型社会の実現に貢献する成果です。従来、活性と安定性の制限により限定的であった鉄触媒に高性能を付与することで、化成品合成を含む幅広い分野への応用展開を可能にしました。また、毒性の低い鉄を触媒として活用するため、反応後に残る毒性の金属不純物が大きな問題となるファインケミカルズ合成化学分野にも大きく貢献できることが期待されます。
特記事項
掲載される論文誌:Journal of the American Chemical Society」(オンライン)
タイトル:Highly Active and Air-stable Iron Phosphide Catalyst for Reductive Amination of Carbonyl Compounds Enabled by Metal–support Synergy
著者名:Tomohiro Tsuda, Hiroya Ishikawa, Min Sheng, Motoaki Hirayama, Satoshi Suganuma, Ryota Osuga, Kiyotaka Nakajima, Junko N. Kondo, Sho Yamaguchi, Tomoo Mizugaki, and Takato Mitsudome
DOI:https://doi.org/10.1021/jacs.4c18611
なお、本研究は、JST戦略的創造研究推進事業 さきがけ「未来材料」(研究総括:陰山 洋)JPMJPR21Q9、JPMJPR21Q6、CREST「分解と安定化」(研究総括:高原 淳)JPMJCR21L5、及び科学研究費補助金(基盤研究(B))などの支援の元に行われました。
参考URL
大阪大学大学院 基礎工学研究科 化学工学領域 触媒設計グループ(水垣研究室)
http://www.cheng.es.osaka-u.ac.jp/Mizugakilabo/home.html
参考記事
〇プレスリリース
・ついに実現!“鉄”から高活性・高耐久性触媒を開発(2023.9.28)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20230928_1
・高い耐硫黄性を示す新規水素化触媒の開発に成功(2023.4.17)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20230417_1
・貴金属触媒の硫黄耐性の大幅向上に成功(2022.1.12)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2022/20220112_1
・化学工業で重要なカルボニル化合物のアミノ化反応に革新(2021.4.9)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210409_3
・食品添加物、化粧品原料等に使われるソルビトールをより安全・省エネ・低コストで生産可能に(2021.2.4)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210204_1
・発火性がなく、高活性!化学工業で重要な水素化反応に革新(2020.6.10)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2020/20200610_1
〇特集記事
「辿りついた“スマート触媒”の開発」(大阪大学NewsLetter 85号)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2021/nl85_research02