貴金属触媒の硫黄耐性の大幅向上に成功

貴金属触媒の硫黄耐性の大幅向上に成功

触媒の長寿命化による持続可能な化学プロセス開発に期待

2022-1-12工学系
基礎工学研究科准教授満留敬人

研究成果のポイント

  • 触媒被毒を引き起こす硫黄化合物に高い耐性を示す合金ナノ粒子触媒の開発に成功。
  • 金属とリンとを合金化することによって触媒性能が著しく向上することを発見。
  • 開発した触媒はスルホキシドからスルフィドへの脱酸素反応において世界最高の耐久性を示す。
  • 被毒による触媒活性の低下を抑えた、高効率かつ長寿命な次世代型触媒プロセスの開発に期待。

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の満留敬人准教授らは、触媒活性の低下を引き起こす硫黄化合物に対して高い耐性を示す新しい合金ナノ粒子触媒を開発しました。今回開発した、リンとルテニウムとの合金ナノ粒子触媒は、硫黄化合物の変換反応の一つであるスルホキシドの脱酸素反応において、世界最高の耐久性を示します。また、本触媒は高い活性・選択性を兼ね備えており、複雑な構造を持つ生理活性物質の合成にも適用できることを明らかにしました。

石油などの化学製品の原料に不純物として含まれている硫黄成分、または、硫黄を含む有機化合物は金属に強く吸着し、触媒活性を著しく低下させることが知られています。したがって、硫黄耐性の高い触媒の開発が求められてきました。

今回、満留敬人准教授らの研究グループは、貴金属とリンとを合金化すると、貴金属の硫黄耐性が著しく向上することを見出しました。中でも、ルテニウムとリンとを合金化した、組成式Ru2Pで表される直径約3ナノメートルのナノ粒子触媒(Ru−P/SiO2)は、スルホキシドからスルフィドへの脱酸素反応において、リン化していないルテニウムナノ粒子に比べ10倍の活性を示し、その触媒回転数は世界最高値(12,500)を示しました(図1a)。 

硫黄化合物の脱酸素反応は、化学工業や医薬品合成において重要です。このRu−P/SiO2触媒の高いスルホキシド脱酸素能は、複雑な構造を持つ 生理活性物質の合成に適用できます。現在、これらのスルホキシドの脱酸素反応には有害な金属試剤やハロゲン化物が脱酸素剤として用いられているのに対して、本触媒系は水素を用い、反応後に水のみを副生するため、より環境にやさしい反応系であると言えます(図1b)。

リン化の効果を検討するため、Ru−P/SiO2触媒とリン化していないルテニウムナノ粒子(Ru/SiO2)を用いて、ルテニウムに対して200等量の化合物(スルフィド)を添加した条件下、スルホキシドの脱酸素反応を実施したところ、Ru/SiO2では触媒反応が全く進行しないのに対して、Ru−P/SiO2では高収率で目的生成物を得ることができました(図2)。この結果から、Ru−P/SiO2では硫黄による触媒被毒が抑えられ、高い耐久性が発現していることがわかりました。分光学的手法による触媒の構造解析や理論計算から、Ru−P/SiO2では、硫黄が強く吸着するサイトの数がルテニウムに比べて8分の1と少ないため、触媒表面への硫黄化合物の吸着が起きにくく、高い耐久性が発現していることを明らかにしました。

このように、貴金属とリンを合金化すると、貴金属は硫黄化合物に対して高い耐性を示すことから、触媒被毒の影響を抑えた高効率かつ長寿命な次世代型触媒プロセスの構築が期待できます。本研究成果は、米国化学会誌「JACS Au」(オンライン)に、1月12日(水)午前2時(日本時間)に公開されました。

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図1. リン化ルテニウム合金ナノ粒子触媒によるスルホキシドの脱酸素反応

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図2. 硫黄化合物(スルフィド)存在下での触媒活性の比較

研究の背景

硫黄化合物の変換反応は、化学工業や医薬品合成において重要です。しかしながら、硫黄化合物は金属に強く吸着し、著しく触媒を劣化させます。また、化成品の原料に不純物として含まれている硫黄分も触媒被毒の原因となります。したがって、硫黄化合物による被毒に対して高い耐性を示す触媒の開発が求められていました。

研究の内容

本研究グループでは、ルテニウムとリンとを合金化した直径約3ナノメートルのリン化ルテニウムナノ粒子触媒(Ru−P/SiO2)を開発し、この触媒がスルホキシドからスルフィドへの脱酸素反応に高い触媒活性・選択性を示すことを見出しました。ルテニウムをリン化することにより触媒活性が10倍向上し、著しい硫黄耐性効果が発現することを明らかにしました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

硫黄化合物は貴金属に強く吸着し、触媒活性を著しく低下させることが知られていましたが、貴金属をリン化すると硫黄耐性が著しく向上することがわかりました。したがって、貴金属をリンと合金化することにより、触媒毒に対して高い耐性をもつ長寿命な触媒の開発及び持続可能な化学プロセスの開発が期待できます。

特記事項

本研究成果は、米国化学会誌「JACS Au」(オンライン)に、1月12日(水)午前2時(日本時間)に公開されました。https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacsau.1c00461(オープンアクセス)
タイトル:“Phosphorus-Alloying as a Powerful Method for Designing Highly Active and Durable Metal Nanoparticle Catalysts for the Deoxygenation of Sulfoxides: Ligand and Ensemble Effects of Phosphorus”
著者名:Hiroya Ishikawa, Sho Yamaguchi, Ayako Nakata, Kiyotaka Nakajima, Seiji Yamazoe, Jun Yamasaki, Tomoo Mizugaki, Takato Mitsudome*
DOI:10.1021/jacsau.1c00461

なお、本研究は、科学研究費補助金(基盤研究(B)研究代表者:満留敬人)、JST 、さきがけ「未来材料」などの支援の元に行われました。

参考URL

大阪大学 大学院基礎工学研究科 化学工学領域 触媒設計グループ(水垣研究室)
http://www.cheng.es.osaka-u.ac.jp/Mizugaki/home.html

参考記事

〇プレスリリース
・化学工業で重要なカルボニル化合物のアミノ化反応に革新(2021.4.9)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210409_3
・食品添加物、化粧品原料等に使われるソルビトールをより安全・省エネ・低コストで生産可能に
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210204_1
・発火性がなく、高活性!化学工業で重要な水素化反応に革新(2020.6.10)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2020/20200610_1

〇特集記事
「辿りついた“スマート触媒”の開発」(大阪大学NewsLetter85号)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2021/nl85_research02

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 11 住み続けられるまちづくりを

用語説明

触媒被毒

硫黄などを含む化合物が触媒に強く吸着し、触媒の本来持っている活性・選択性・耐久性などの能力を低下させること。

ナノ粒子

100ナノメートル(nm)以下の直径の粒子を指します。 1ナノメートルは、1メートルの10億分の1という長さを示す単位。

触媒回転数

触媒の活性点あたり反応した分子の数。今回では使用したルテニウムのmol数あたり生成したスルフィドのmol数を表す。