4倍以上の活性向上!炭素を加えてニッケル触媒を高機能化!

4倍以上の活性向上!炭素を加えてニッケル触媒を高機能化!

ポリマーや医薬品等の原料となるアミンを高効率に生産可能に

2024-1-17工学系
基礎工学研究科教授水垣共雄

研究成果のポイント

  • ニトリルの水素化反応を温和な条件下で促進する、高耐久性の炭化ニッケルナノ粒子触媒の開発に成功。常圧水素下において反応を促進し、繰り返し再使用が可能。
  • 従来用いられてきたニッケルナノ粒子を炭化することによって4倍以上の活性向上を実現。
  • 界面活性剤や医薬中間体、及びポリマー原料として必要不可欠なアミン類を、高効率かつ低コストで生産する次世代の環境調和型プロセスの開発に期待。

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の山口渉助教、清飛羅大樹さん(研究当時:大学院生)、川上大輝さん(大学院生)、満留敬人准教授、水垣共雄教授、産業技術総合研究所の多田幸平主任研究員、北海道大学大学院工学研究科の三浦章准教授らのグループは、これまでニトリル水素化反応に広く使われてきたニッケルナノ粒子に炭素を固溶した炭化ニッケルナノ粒子を調製し、触媒活性を大きく向上させることに成功しました。

今回、本研究グループは、ニッケルに炭素が固溶した、直径30ナノメートルの炭化ニッケルナノ粒子 (nano-Ni3C)を合成し、これを金属酸化物の一種である酸化アルミニウム(Al2O3)に分散担持した触媒(nano-Ni3C/Al2O3)(図1(a), (b))を開発しました。nano-Ni3C/Al2O3触媒は、ニトリルを高効率に水素化し、これまで広く使用されてきた炭化されていないニッケルナノ粒子(Ni NPs/Al2O3)よりも4倍以上高い触媒活性を示しました(図1(c))。また、nano-Ni3C/Al2O3は、常圧水素下においてもニトリルの水素化反応を促進し、選択的に1級アミンを与えることが出来ます。さらに、開発した触媒は固体触媒であるため、遠心分離によって容易に反応液から回収でき、触媒活性を維持したまま繰り返し使用可能です。

これらの成果から、比較的安価な非貴金属で構成された触媒を用いてニトリルをアミンへと高効率に変換する、次世代の環境調和型プロセスの開発が期待されます。本研究成果は、Wiley誌「Chemistry – A European Journal」に、1月5日(金)(日本時間)に公開されました。

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図1. (a)開発した炭化ニッケルナノ粒子担持触媒(nano-Ni3C/Al2O3)の写真、(b)電子顕微鏡像(黒い粒子が炭化ニッケル)、(c) nano-Ni3C/Al2O3と従来のニッケルナノ粒子担持触媒(Ni NPs/Al2O3)のニトリルの水素化反応における活性比較

研究の背景

金属炭化物は、高い電気伝導性、機械的強度と硬度、高い安定性などのユニークな特性を持っており、超伝導材料や太陽熱吸収体といったさまざまな分野で広く用いられています。最近のナノ化技術の進歩により、炭化金属ナノ粒子の精密合成が可能になり、その触媒機能の開拓が盛んに行われています。特に、炭化ニッケルナノ粒子は電極触媒や光触媒、メタン改質触媒として極めて優れた触媒能を示すことが知られていました。一方、高付加価値なファインケミカルズを合成する液相物質変換反応の触媒としては、これまで研究はあまり進んでおらず、その潜在能力の開発が期待されていました。

今回実施したニトリルの水素化は、溶媒や界面活性剤、医薬中間体、ポリマー原料等に用いられる重要な一級アミンを合成する重要な反応であり、これまで貴金属および非貴金属を用いた触媒の開発が活発に行われてきました。しかし、パラジウムや白金などの貴金属触媒は温和な反応条件下で優れた触媒活性を示すことが知られていますが、貴金属は希少資源であり高価な点が問題となっています。そのため、工業的にはより安価な非貴金属(ニッケルやコバルトなど)触媒が広く利用されてきました。一方で非貴金属触媒は活性が低く、一般に高温・高水素圧の厳しい反応条件が必要となってしまいます。したがって、反応プロセスの省エネルギー化が課題であり、温和な反応条件下でニトリル水素化を促進させる高活性な非貴金属触媒の開発が望まれていました。

研究の内容

本研究グループでは、約30ナノメートルの炭化ニッケルナノ粒子(nano-Ni3C)を合成し、このnano-Ni3Cをアルミナ上に分散担持した固体触媒(nano-Ni3C/Al2O3)を開発しました。nano-Ni3C/Al2O3はニトリルの水素化反応に炭化されていないニッケルナノ粒子よりも4倍以上高い触媒活性を示しました(図1(c))。また、本触媒は常圧水素下においても様々な種類のニトリルを目的の1級アミンへと選択的に変換することができます(図2)。さらに、反応後は遠心分離により反応液から触媒を容易に分離し、回収した触媒を再びニトリルの水素化反応に利用した場合にも触媒の活性低下は確認されませんでした。

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図2. 開発した触媒(nano-Ni3C/Al2O3)を用いた常圧水素下における様々なニトリルの水素化反応による1級アミンの合成

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究では、ニッケルに炭素を固溶した炭化ニッケルナノ粒子を用いることで高活性および高耐久性を兼ね備えた新規水素化触媒の開発に成功しました。ニトリルの水素化反応は、医薬中間体やポリマー原料として欠かすことのできないアミンを合成する重要な反応プロセスです。本触媒の開発は、アミンを高効率かつ低コストで生産する次世代の環境調和型プロセスの開発に繋がると期待されます。

特記事項

本研究成果は、Wiley誌「Chemistry – A European Journal」に、1月5日(金)(日本時間)に公開されました。
タイトル:“Nickel Carbide Nanoparticle Catalyst for Selective Hydrogenation of Nitriles to Primary Amines”
著者名:Sho Yamaguchi, Daiki Kiyohira, Kohei Tada, Taiki Kawakami, Akira Miura, Takato Mitsudome, Tomoo Mizugaki
DOI: 10.1002/chem.202303573

なお、本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(20H02523, 20K15177, 21K04776)、JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「未来材料」(研究総括:陰山 洋)JPMJPR21Q9、CREST「分解と安定化」(研究総括:高原 淳)JPMJCR21L5、および大阪大学・先導的学際研究機構(ICS-OTRI)の一環として行われました。

参考URL

大阪大学大学院 基礎工学研究科 化学工学領域 触媒設計学グループ(水垣研究室)
http://www.cheng.es.osaka-u.ac.jp/Mizugaki/home.html

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 13 気候変動に具体的な対策を
  • 15 陸の豊かさも守ろう

用語説明

炭化ニッケルナノ粒子触媒

粒子径がナノオーダーの、炭素およびニッケル原子で構成される触媒をいいます。今回の研究では、酸化アルミニウムという無機化合物の表面に、直径約30ナノメートルの炭化ニッケルナノ粒子を分散担持した炭化ニッケルナノ粒子担持触媒の開発に成功しました。この触媒が、ニトリルからアミンへの水素化反応を非常に効率よく促進させます。

固体触媒

化学反応を進行させる触媒は、反応液に溶け込む均一系触媒と溶け込まない不均一系触媒(=固体触媒)に大別できます。固体触媒は、粉末であるため反応溶液からろ過により簡単に取り除くことができるため、分離容易かつ再使用が可能となるなどの多くの実用的な利点があります。