アディポネクチンとエクソソームを介した脂肪組織による新しい代謝調節概念を提唱

2019-10-4生命科学・医学系

研究成果のポイント

・細胞間の情報伝達を担うエクソソームを介した代謝調節の新概念を提唱。
アディポネクチンによるエクソソーム産生制御を解明したことにより、新しい概念を提唱するに至った。
・エクソソーム産生制御機構をより詳しく研究することで、新しい治療・診断技術の開発につながる。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の喜多俊文寄附講座講師、前田法一寄附講座准教授、下村伊一郎教授(内分泌・代謝内科学)らの研究グループは、脂肪組織から産生される生理活性物質のアディポサイトカイン の1つであるアディポネクチン が骨格筋や心筋、血管内皮細胞などのT-カドヘリン 発現細胞に作用し、エクソソーム 産生を促進することで全身の内分泌・代謝調節に重要な役割を担うことを新たに提唱しました。

これまで脂肪組織は、エネルギー貯蔵とアディポサイトカインの分泌によって全身的代謝調節に寄与すると考えられていましたが、脂肪組織自体やアディポネクチンを介して産生されるエクソソームによる代謝調節については解明されていませんでした。

今回、下村教授らの研究グループは、脂肪組織自体のエクソソーム産生に関する研究に加えて、アディポネクチンによるエクソソーム産生制御を解明することにより、脂肪組織が全身のエクソソーム産生を制御しており、産生されたエクソソームが細胞間情報伝達や新陳代謝を促進するという概念を提唱しました。今後、血中のエクソソームレベルを調べることにより、代謝性疾患やその合併症に対する新しい診断・治療の発展が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Journal of Clinical Investigation」に、10月4日(金)午後10時(日本時間)に公開されました。

図1 エクソソームを介した情報・代謝物の伝達による全身的代謝調節(喜多ら、JCI2019)
脂肪組織を中心として、様々な組織・細胞はmiRNAやセラミド、中性脂質などをエクソソームを介して伝達することで情報交換を行っている。脂肪由来分泌因子アディポネクチンはT-カドヘリンを発現する様々な組織・細胞に働き、エクソソーム産生を促進することで、全身の代謝調節及び臓器保護を担っている。

新規概念を提唱するに至った経緯

これまで、ホルモンやサイトカインなどが臓器間の情報伝達に直接的に働き、全身的な代謝調節を担っていると考えられてきました。しかしながら、近年、脂肪組織自体のエクソソーム産生が全身的な代謝制御に寄与することが幾つか報告されました。さらに、下村教授らの研究グループは、脂肪細胞由来のアディポネクチンが骨格筋や心筋、血管内皮細胞などのT-カドヘリン発現細胞に働き、エクソソーム産生を制御していることを見出しました。これらのことから、脂肪組織による直接またはアディポネクチンを介したエクソソーム産生制御が全身の内分泌・代謝調節において重要な役割を担うと考えられます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、エクソソームを新しい内分泌因子として捉える新しい研究と、エクソソーム産生制御に根差した診断・治療の発展が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2019年10月4日(金)午後10時(日本時間)に米国科学誌「Journal of ClinicalInvestigation」に掲載されました。

【タイトル】“Interorgan communication by exosomes, adipose tissue, and adiponectin inmetabolic syndrome”
【著者名】 Shunbun Kita 1,2 , Norikazu Maeda 1,3 , and Iichiro Shimomura 1
【所属】
1.大阪大学医学系研究科 内分泌・代謝内科学
2.大阪大学医学系研究科 肥満脂肪病態学
3.大阪大学医学系研究科 代謝血管学

なお、本研究は、JST基盤研究の一環として行われました。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 第3研究室
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/endmet/www/home/labo3.html

用語説明

エクソソーム

細胞内から産生分泌される直径 100nm 前後の微粒子であり、様々な生理活性核酸やタンパク質を内包し、細胞間の情報伝達を担うことも知られます。一方、細胞内の余剰・不要物を細胞外に排出し、不要物を処理する細胞に受け渡す排出装置としての機能も着目されています。これまで、その血中濃度がどのように調節されているか殆ど知られていませんでした。

アディポネクチン

脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカインの1つで、内臓肥満に伴う血中アディポネクチンの低下が心血管障害などの肥満病態の形成に重要な役割を果たすと考えられています。

アディポサイトカイン

脂肪細胞はアディポネクチンなどの様々な生理活性物質を分泌しており、アディポサイトカインと総称されます。肥満状態におけるアディポサイトカインの発現・分泌異常は、肥満に伴う糖尿病や慢性炎症、動脈硬化性疾患と深く関連します。

T-カドヘリン

細胞間接着やコミュニケーションに重要なカドヘリンの一種であるが、細胞内ドメインを有さず、脂質アンカーによって細胞膜に係留される特殊なカドヘリン分子です。本研究グループによって、T-カドヘリンは高親和性かつ高選択的にアディポネクチンと結合することが明らかにされています。