体内の飽和脂肪酸を減らし 不飽和脂肪酸を増やす因子を発見
研究成果のポイント
- がん抑制遺伝子であるARMC5が、脂肪組織において飽和脂肪酸を減らし、不飽和脂肪酸を増やすことを明らかに。
- 飽和脂肪酸は健康に悪く、不飽和脂肪酸は健康に良いことが知られているが、脂肪組織の飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸の量を制御する因子は明らかでなかった。
- ARMC5に着目することで、体内の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸をターゲットとした新規薬剤の開発が期待される。
概要
大阪大学大学院医学系研究科の大学院生 魚田晃史さん、奥野陽亮助教、下村伊一郎教授(内分泌・代謝内科学)らの研究グループは、がん抑制遺伝子であり、SREBP1分解因子であるARMC5が、脂肪組織において飽和脂肪酸を減らし、不飽和脂肪酸を増やすことを明らかにしました。
近年、研究グループは、脂質代謝において中心的役割を担うSREBP1を分解するユビキチンリガーゼARMC5を同定していました(Okuno Y et al. JCI Insight. 2022)が、その生理機能は良く分かっていませんでした。(2022年プレスリリースhttps://www.med.osaka-u.ac.jp/activities/results/2022year/shimomura-08-19)
今回、研究グループは、脂肪細胞に特異的にARMC5を欠損させたマウスにおいて、脂肪酸不飽和化酵素SCDの発現がほぼ消失すること、その結果、脂肪組織の飽和脂肪酸が増加し、不飽和脂肪酸が減少することを見出しました。もともと、SREBP1はSCAPと結合して活性化され、SCDを発現誘導することが知られていましたが、研究グループは、ARMC5がSCAPと結合していないSREBP1を選択的に分解することにより、SREBP1を活性化することを示しました(図1)。
これまで、飽和脂肪酸の摂取は血液中の悪玉コレステロールを増加させ動脈硬化性疾患のリスクを高めるなど健康に悪く、不飽和脂肪酸の摂取は逆に悪玉コレステロールを低下させるなど健康に良いことが分かっていました。ARMC5を標的とすることで、体内の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸量を調整できる新規薬剤の開発が期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Journal of Biological Chemistry」に、11月2日に公開されました。
図1. ARMC5欠損により脂肪組織の脂肪酸不飽和度が変化するメカニズム
研究の背景
近年、研究グループは、脂質代謝において中心的役割を担うSREBP1を分解する因子ARMC5を同定していました(Okuno Y et al. JCI Insight. 2022)が、その生理機能は良く分かっていませんでした。
研究の内容
研究グループは、脂肪細胞特異的にARMC5を欠損させたマウスにおいて、脂肪酸不飽和化酵素SCDの発現がほぼ消失すること、その結果、脂肪組織の飽和脂肪酸が増加し、不飽和脂肪酸が減少することを見出しました。もともと、SREBP1はSCAPと結合して活性化され、SCDを発現誘導することが知られていましたが、今回研究グループは、ARMC5がSCAPと結合していないSREBP1を選択的に分解することにより、SREBP1を活性化することを示しました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
これまで、飽和脂肪酸の摂取は健康に悪く、不飽和脂肪酸の摂取は健康に良いことが分かっていましたが、ARMC5を標的とすることで、体内の飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸量の調整を目的とした新規薬剤の開発が期待されます。
特記事項
本研究成果は、2024年11月2日に米国科学誌「Journal of Biological Chemistry」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“ARMC5 selectively degrades SCAP-free SREBF1 and is essential for fatty acid desaturation in adipocytes”
著者名:Akifumi Uota, Yosuke Okuno(*責任著者), Atsunori Fukuhara, Shugo Sasaki, Sachiko Kobayashi and Iichiro Shimomura
所属:
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jbc.2024.107953
参考URL
用語説明
- ARMC5
16 番染色体上に存在するがん抑制遺伝子
- SREBP
Sterol regulatory element binding proteinの略。コレステロール合成遺伝子や脂質合成遺伝子の発現調節に中心的役割を果たす転写因子。
- ユビキチンリガーゼ
タンパクに小分子であるユビキチンを付加するタンパク。ユビキチン化されたタンパクは、プロテアソーム経路により、積極的に分解されて除去される。