尿で動脈硬化の隠れたリスクを評価できる指標を発見

尿で動脈硬化の隠れたリスクを評価できる指標を発見

尿による簡便なリスク評価の実現に期待

2021-12-21生命科学・医学系
医学部附属病院特任助教(常勤)早川友朗

研究成果のポイント

概要

大阪大学医学部附属病院 早川友朗 特任助教(常勤)、大学院医学系研究科 下村伊一郎 教授(内分泌・代謝内科学)、福原淳範 寄附講座准教授(肥満脂肪病態学)らの研究グループは、尿中のエクソソームを調べることで動脈硬化のリスク因子を評価できる可能性を示唆しました。

ホルモンの一つであるアルドステロンがミネラロコルチコイド受容体に結合し、受容体が過剰に活性化することで、動脈硬化や血圧上昇、血液のミネラルバランスの異常を引き起こすことが知られていました。アルドステロンが過剰になる病気、原発性アルドステロン症では、普通の高血圧の方より動脈硬化に関連する脳や心臓の病気に罹りやすいことが知られています。

原発性アルドステロン症をはじめとした高血圧の方や肥満、糖尿病の患者さんにおいて、これまでの診療ではアルドステロン濃度の測定は可能でしたが、アルドステロン濃度が正常でもミネラロコルチコイド受容体の活性も正常とは限らないことがわかっていました。しかしながら、ミネラロコルチコイド受容体の活性を測定する方法がなかったため、医師の経験と複数のデータを組み合わせて動脈硬化リスクを予想していました。

今回、実際の患者さんの尿中のエクソソームに含まれるナトリウムチャネルたんぱく質(塩分を調整するたんぱく質)の量が、血液中のアルドステロン濃度と相関すること、さらに、ミネラロコルチコイド受容体活性を阻害するお薬の内服により、このナトリウムチャネルたんぱく質の量が低下することを見出しました(図1)。したがって、尿中のエクソソームに含まれるナトリウムチャネルたんぱく質の量はミネラロコルチコイド受容体活性を表す指標であることを発見しました。

本手法は、体を傷つけることなく、尿を用いた動脈硬化の新しいリスク評価因子になり得ると考えられます。さらに、ミネラロコルチコイド受容体阻害薬による治療の効果判定や高血圧治療薬を選択する際の診断の補助に用いることが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Journal of Endocrinology」に、11月10日(日本時間)に公開されました。

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図1. 新規アルドステロン作用測定方法
尿に含まれるエクソソームを調べることでリスク因子を評価

研究の背景

アルドステロンは副腎という臓器から分泌されるホルモンで、ミネラロコルチコイド受容体に結合し、受容体を活性化することで作用します。例えば、腎臓ではミネラロコルチコイド受容体はナトリウムチャネルという塩分調整たんぱく質を介して尿に排出される塩分・水分を調節し、人体のミネラルバランスや血圧をコントロールする働きがあります。しかし、生活習慣病や肥満の方は、ミネラロコルチコイド受容体活性が不必要に高まり、人体各所で過剰作用することで動脈硬化を悪化させていることが予想されます。これまではミネラロコルチコイド受容体活性を測定するために腎臓のナトリウムチャネルたんぱく質を測定したくても、腎臓の組織を取ってくる必要があったため、日常診療では実現困難でした。

本研究の成果

本研究グループは、細胞から放出されるエクソソームという小胞に着目し、この中に含まれるたんぱく質の中でミネラロコルチコイド受容体の活性指標になる因子を探索しました。そして、γENaC(γ-epithelial sodium channel)というナトリウムチャネルが血中のアルドステロン濃度と良好な相関を示すことを発見しました。

さらに、実際の診療においてミネラロコルチコイド受容体阻害薬の内服治療を受けた方では、本指標が低下しており、ミネラロコルチコイド受容体阻害薬による治療の効果判定にも使用できる可能性を示しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、人の検体で測定可能であり、日常診療で用いられる既存の検査手法に置き換わる可能性があることから、臨床応用できる素因を有した研究です。今後の研究の進展によって、例えば高血圧、肥満、糖尿病をお持ちの方に実際に診療現場で測定を行い、患者さんの動脈硬化リスクの評価や治療での改善を確認する評価指標として社会還元されることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2021年11月10日(日本時間)に英国科学誌「Journal of Endocrinology」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】“γENaC/CD9 in urinary extracellular vesicles as a potential biomarker of MR activity”
【著者名】Tomoaki Hayakawa1, Atsunori Fukuhara1,2, Aya Saiki1, Michio Otsuki1, and Iichiro Shimomura1
【所属】
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学
2. 大阪大学 大学院医学系研究科 肥満脂肪病態学
【DOI】 10.1530/JOE-21-0228

用語説明

動脈硬化

血管が加齢や糖尿病・高血圧・肥満といった生活習慣病で硬くなってしまうことをいいます。硬くなった血管は破れたり、細くなったり、詰まったりすることで脳卒中や心筋梗塞、足の壊疽といった病気を引き起こします。

アルドステロン作用(=ミネラロコルチコイド受容体活性)

アルドステロンは人のホルモンの一つで副腎という組織から分泌されます。分泌されたアルドステロンは人体各所のミネラロコルチコイド受容体に結合し、作用します。アルドステロンと結合したミネラロコルチコイド受容体は活性化し、例えば腎臓においてはナトリウムチャネルと呼ばれる塩分調節たんぱく質を増やすことで塩分を体内に保持する作用があります。しかし、過剰にミネラロコルチコイド受容体が活性化すると動脈硬化や高血圧といった負の影響を及ぼします。そのためアルドステロンというホルモンよりもミネラロコルチコイド受容体の活性を測定する方がより直接的にリスクが評価できると考えられています。

エクソソーム

細胞が自身の一部を細胞の外に放出する時に形成する小胞です。エクソソームは、放出元の細胞の特徴を有していることが近年、解明されてきており、がんの診断などの分野でも着目されています。