解明!新型コロナウイルス感染症が引き起こす組織ダメージや代謝異常のメカニズム

解明!新型コロナウイルス感染症が引き起こす組織ダメージや代謝異常のメカニズム

2022-6-27生命科学・医学系
医学系研究科助教シンジフン

研究成果のポイント

  • 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染が組織ダメージや代謝異常をきたすメカニズムを解明
  • SARS-CoV-2感染により、細胞内転写因子であるIRF1の発現が誘導され、組織修復や代謝制御に重要であるインスリン/IGF シグナリング経路の障害が誘導されることが原因である可能性を示唆
  • デキサメタゾンやジヒドロテストステロンのホルモン療法がIRF1発現抑制及びインスリン/IGFシグナリング経路の改善に効果的であったことから、COVID-19の予防や治療への応用に期待

概要

大阪大学大学院医学系研究科のシンジフン助教(糖尿病病態医療学)、下村伊一郎教授(内分泌・代謝内科学)らの研究グループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染が組織ダメージや代謝異常をきたす理由として、SARS-CoV-2感染によりIRF1(Interferon regulatory factor 1) の発現が誘導され、組織修復や代謝制御に重要であるインスリン/IGFシグナリングが障害されるためである可能性を見出しました。

IRF1は、ヒトではウイルスの感染や炎症性サイトカインによって発現が調節され、さまざまな標的遺伝子の転写活性化因子または抑制因子として機能することが知られています。今回、研究グループは、IRF1の発現がCOVID-19の危険因子として知られている高齢や男性、肥満、糖尿病の環境で高発現していることを明らかにしました。また、重症化した患者において、IRF1の発現の上昇とともに、インスリン/IGFシグナリング経路にかかわる遺伝子の発現が低下していることが分かりました。さらに、デキサメタゾンやジヒドロテストステロンを用いたホルモン療法の効果・可能性を提唱しています。

本研究成果は、COVID-19病態の科学的な理解を深めると共に、今後の新たな予防・治療法の創出につながることが期待されます。

本研究成果は、「Metabolism」に、6月7日(火)(オンライン)に公開されました。

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図. SARS-CoV-2感染による組織損傷や代謝異常の病態形成メカニズム

研究の背景

新型コロナウイルスの感染は肺を含む様々な組織・細胞の損傷と共に全身の代謝異常を来すことが知られていますが、そのメカニズムは不明でした。

本研究の成果

今回、ヒトの組織サンプル及び動物・細胞モデルのトランスクリプトーム解析から、肺や肝臓、脂肪組織、膵臓細胞へのSARS-CoV-2の感染が、組織修復や代謝制御に重要であるインスリン/IGF シグナリング経路の異常を来すことを発見しました。そのメカニズムとして、細胞内転写因子IRF1 がSARS-CoV-2感染時にインターフェロンや炎症性サイトカインと関連して誘導され、インスリン/IGF シグナリング経路に関わる因子の発現及びシグナルを抑制し、組織損傷や代謝異常を誘発することが分かりました。さらに、IRF1の発現は高齢や男性、肥満、糖尿病のヒトで高く、新型コロナウイルス感染時の病態形成に相乗的に作用する可能性が示唆されました。IRF1の発現制御機構の結果から、デキサメタゾンやジヒドロテストステロンのホルモン療法がIRF1発現抑制及びインスリン/IGF シグナリング経路の改善に効果的であることが分かりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

COVID-19は2019年、最初の感染が報告されて以来、世界的に5億人以上の感染と6百万人以上の死亡者を出しています。その研究期間はまだ短く、COVID-19に関する基礎知識や治療法などへの情報は不足しています。本研究はSARS-CoV-2感染時の組織ダメージや代謝異常がIRF1によるInsulin/IGFシグナリングの破綻と関連していることを見出しました。その病態は臨床的に副作用の少ないDexamethasoneやDihydrotestosteroneのホルモン療法により改善できたことから、今後のCOVID-19の予防や治療ターゲットとしての応用が期待されます。

特記事項

本研究成果は、Metabolismに、6月7日(火)(オンライン)に公開されました。

【タイトル】 “SARS-CoV-2 infection impairs the insulin/IGF signaling pathway in the lung, liver, adipose tissue, and pancreatic cells via IRF1”
【著者名】 Jihoon Shin1,2*, Shinichiro Toyoda1, Shigeki Nishitani1, Toshiharu Onodera1,Shiro Fukuda1, Shunbun Kita1,3, Atsunori Fukuhara1,3 and Iichiro Shimomura1
(*責任著者)
【所属】
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学
2. 大阪大学 大学院医学系研究科 糖尿病病態医療学寄附講座
3. 大阪大学 大学院医学系研究科 肥満脂肪病態学寄附講座