糖尿病集中治療により歯周病が改善!

糖尿病集中治療により歯周病が改善!

医科歯科連携のさらなる促進に期待

2024-9-4生命科学・医学系
歯学研究科教授久保庭 雅恵

研究成果のポイント

  • 糖尿病集中治療により、歯周病の炎症状態が改善することを明らかにした。
  • 糖尿病と歯周病には相互関係があると考えられている。これまで、歯周病治療により血糖コントロールが改善することは明らかになっていたが、糖尿病治療の歯周病への影響はほとんど明らかになっていなかった。
  • 糖尿病と歯周病の相互関係のメカニズムの解明、糖尿病初期からの医科歯科連携が促進されることが期待される。

概要

大阪大学大学院歯学研究科の大学院生の井上 萌さん(博士課程、日本学術振興会特別研究員DC1)、久保庭雅恵教授、大学院医学系研究科 片上直人講師、西澤均准教授、下村伊一郎教授、大学院工学研究科 福﨑英一郎教授らの研究グループは、糖尿病集中治療のみで歯周病の炎症状態が改善すること、また、糖尿病治療前の全身状態によって糖尿病集中治療に伴う歯周組織の反応性が異なることを明らかにしました。

これまでの研究で、糖尿病と歯周病は相互関係にあり、歯周病治療により血糖コントロールが改善することが明らかになっています。しかし、糖尿病治療による歯周病への影響についてはほとんど解明されていませんでした。

今回、研究グループは、2型糖尿病患者に対し、入院下での糖尿病集中治療を行い、糖尿病治療前後の全身的な臨床指標や歯科的指標を計測し、詳細に解析しました。その結果、糖尿病治療により、血糖コントロールだけでなく、歯周病の炎症状態の指標であるPISAも改善することを明らかにしました。さらに、PISAの改善には、糖尿病治療前のインスリン分泌能や糖尿病合併症や併発症の重症度が関与していることも明らかになりました。これらの結果から、糖尿病患者における歯周病の改善には、早期の糖尿病への介入が重要であることがわかりました。

この研究により、糖尿病と歯周病の相互関係のメカニズムの解明、糖尿病初期からの医科歯科連携が促進されることが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Diabetes, Obesity and Metabolism」に、8月15日(木)14時(日本時間)に公開されました。

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図1. 糖尿病治療のみで歯周病の炎症状態が改善

研究の背景

糖尿病と歯周病は相互関係があると考えられています。これまでの研究で、歯周病治療により血糖コントロールの指標であるHbA1cが低下し、糖尿病が改善することが明らかになっています。また一方で、糖尿病は歯周病のリスク因子であり、糖尿病患者の歯周病罹患率は、健康な人に比べて2~3倍高いことが知られています。しかし、糖尿病治療のみを行い、歯周病の状態がどのように変化するか観察した研究はほとんどなく、糖尿病治療そのものの歯周病への直接的な影響は明らかになっていませんでした。

研究の内容

研究グループは、29人の2型糖尿病患者に対し、2週間の入院下での糖尿病集中治療を行い、糖尿病治療前後の全身的な臨床指標や歯科的指標を計測し、詳細に解析しました。なお、本研究では、歯科的な介入は一切行わず、糖尿病治療のみを行いました。

その結果、糖尿病治療により、2週間の血糖コントロール状態を反映するグリコアルブミンだけでなく、歯周病の炎症程度を示すPISAも改善しました。そして、PISAの改善度の大小により被験者を2群に分け比較、解析を行ったところ、PISAが大きく改善した群では、糖尿病治療前のインスリン分泌能を示すCペプチドが有意に高値を示し、かつ糖尿病性神経障害の指標であるCVRRや末梢血管障害の指標であるABIが有意に高値(低い重症度)を示しました。このことから、糖尿病患者において歯周病が大きく改善する群には、インスリン分泌能が高く、糖尿病性神経障害や末梢血管障害の重症度が低い特徴があることが明らかになりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

これらの研究結果は、糖尿病と歯周病の相互関係のメカニズムの解明の一助となることが考えられます。さらに、本研究によって、糖尿病患者における歯周病の改善には、歯周病治療のみならず、早期の糖尿病治療が重要であることが示されました。この研究成果により、糖尿病患者における歯周病の発症、重症化予防のために、糖尿病初期からの医科歯科連携が促進されることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2024年8月15日(木)14時(日本時間)に英国科学誌「Diabetes, Obesity and Metabolism」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Periodontal Tissue Susceptibility to Glycemic Control in Type 2 Diabetes”
著者名:Moe Inoue, Akito Sakanaka, Naoto Katakami, Masahiro Furuno, Hitoshi Nishizawa, Kazuo Omori, Naohiro Taya, Asuka Ishikawa, Shota Mayumi, Emiko Tanaka Isomura, Hiroki Takeuhi, Atsuo Amano, Iichiro Shimomura, Eiichiro Fukusaki, Masae Kuboniwa
DOI:http://doi.org/10.1111/dom.15835

なお、本研究は、AMED課題番号A154〈JP22ym0126809〉、科学研究費補助金22H03300、21K18281、20K18827、23KJ15250の支援を受け、大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科(下村研)、同工学研究科生物工学専攻メタボロミクス研究室(福崎研)との共同研究により実施されました。

参考URL

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を

用語説明

PISA

歯周病における炎症状態を定量的に表すことができる指標です。歯と歯茎の境の歯周ポケットの深さや出血の割合を用い、算出します。炎症が強いほど値が大きくなります。

Cペプチド

膵臓のβ細胞がインスリンを分泌する能力を表す指標です。膵臓の働きが悪くなると、値が小さくなります。

CVRR

心電図の心拍の間隔の変動を表す指標です。生理的に呼吸により心拍は変動しますが、糖尿病性神経障害ではこの変動が小さくなり、CVRRの値が小さくなります。

ABI

下肢の血流障害を示す指標です。末梢血管障害が生じると、値が小さくなります。