副腎腫瘍の発症機構を解明

副腎腫瘍の発症機構を解明

手術以外の治療法として新規薬剤開発に期待

2022-8-19生命科学・医学系
医学系研究科助教奥野陽亮

研究成果のポイント

  • 副腎腫瘍の一部は、がん抑制遺伝子であるARMC5の変異により発症することが知られているが、その分子機能は未知であった。
  • 本研究では、ARMC5の分子機構を解明し、ARMC5の変異がコレステロール合成を誘導することにより副腎腫瘍を発症することを明らかにした。
  • コレステロール合成経路を標的とした、副腎腫瘍の新規薬剤の開発が期待される。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の奥野陽亮助教、下村伊一郎教授(内分泌・代謝内科学)らの研究グループは、がん抑制遺伝子であるARMC5による副腎腫瘍の一種である両側大結節性副腎皮質過形成(BMAH)の発症機構を明らかにしました。

これまで、BMAHはARMC5の遺伝子異常が原因であることが知られていました。ARMC5は、がん抑制遺伝子として知られていますが、その詳細な分子メカニズムは不明であり、どの様にARMC5が副腎腫瘍を発症させるかは解明されていませんでした。

今回、研究グループは、ARMC5が脂質代謝を制御する転写因子SREBPと結合して、SREBPを分解することを見出しました。SREBPは、細胞内のコレステロールが低下すると核へ移行し、コレステロールの合成遺伝子や脂質合成遺伝子の発現を誘導します。ARMC5は、SREBPに結合し、分解を促進することでSREBPの活性を制御し、コレステロールの維持をしていることが示唆されます。また、ARMC5が欠損すると、SREBPの量が増加し、コレステロール合成が誘導されることも明らかにしました。すなわち、ARMC5の変異によりコレステロール合成が誘導され、細胞増殖が刺激されることにより副腎腫瘍が発症することがわかりました(図1)。これまで手術以外に治療方法が無かったBMAHに対する新規薬剤の開発が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「JCI Insight」に、7月21日に公開されました。

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図1. ARMC5の変異による、BMAH発症機序

研究の背景

これまで、ARMC5遺伝子の変異により、副腎腫瘍の一種である両側大結節性副腎皮質過形成(BMAH)が発症することが知られていました。しかし、ARMC5の機能は未知であり、何故、ARMC5の変異により副腎腫瘍が発症するかは分かっていませんでした。

研究の内容

研究グループでは、生化学的精製という分子生物学的手法により、ARMC5がSREBPと結合することを明らかにしました。さらに、ARMC5がたんぱく質のユビキチン化を担う酵素であるCUL3と結合し、SREBPをユビキチン化して分解することを解明しました(図2)。また、ARMC5に変異が生じると、SREBPの量が増加し、ターゲット遺伝子であるコレステロール関連遺伝子の発現が高くなっていることが分かりました。コレステロール合成が促進されることで、細胞増殖が誘導され、腫瘍を発症することを明らかにしました。

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図2. ARMC5はSREBPと結合し、さらに、CUL3と結合することでSREBPを分解する

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

これまで、BMAHは、手術以外の治療法がありませんでしたが、本研究成果により、細胞内コレステロールを抑制することにより、内科的に治療できる可能性が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2022年7月21日に米国科学誌「JCI Insight」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“ARMC5-CUL3 E3 ligase targets full-length SREBF in adrenocortical tumor”
著者名:Yosuke Okuno(*責任著者), Atsunori Fukuhara, Michio Otsuki and Iichiro Shimomura
所属:
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学
DOI: 10.1172/jci.insight.151390

参考URL

奥野陽亮助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/en/a8947e3a06ddd118.html

用語説明

両側大結節性副腎皮質過形成(BMAH)

両側副腎に1cm以上の腫瘍が多発する疾患。腫瘍はステロイドを過剰産生し、クッシング症候群という、糖尿病・脂質異常症・高血圧・骨粗鬆症・易感染性などの症候を呈する。

SREBP

Sterol regulatory element binding proteinの略。コレステロール合成遺伝子や脂質合成遺伝子の発現調節に中心的役割を果たす転写因子。

ユビキチン化

タンパクに小分子であるユビキチンを付加すること。ユビキチン化されたタンパクは、プロテアソーム経路により、積極的に分解されて除去される。