日本腎臓学会会員へのアンケート調査により 紅麹関連製品摂取後に生じた腎障害の実態を解明
研究成果のポイント
- 紅麹関連製品摂取後に生じた腎障害の実態について、日本腎臓学会の会員医師を対象にアンケート調査を実施。4月、5月に報告済みの中間報告内容に加え、その後行ったフォローアップ調査の内容を踏まえ実態を詳細に検討した。
- ファンコニー症候群を伴った腎機能障害が主要な病態であることが明らかに。
- 摂取中止によりファンコニー症候群関連所見の多くは改善したが、腎機能障害は残存した。
概要
大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センター 新澤真紀 講師(兼 大学院医学系研究科)、大学院医学系研究科 松井功 講師、 土井洋平 特任助教(常勤)、 猪阪善隆 教授(腎臓内科学)らの研究グループは、日本腎臓学会の会員医師を対象に、紅麹関連製品摂取後に生じた腎障害の実態に関する2段階のアンケート調査を行いました。その結果、ファンコニー症候群を伴った腎機能障害が主要な病態であることが明らかになりました (図1)。紅麹関連製品摂取中止により、多くの患者さんにおいてファンコニー症候群関連所見は改善しましたが、フォローアップ調査時点において87.0%の患者さんに腎機能障害が残存していました。この結果は、紅麹関連製品摂取後に生じた腎機能障害が長期間にわたって体にどのような影響を及ぼすのか、更なる調査が必要であることを示しています。
本研究成果は、国際腎臓学会誌 「Kidney International」 に、12月19日(木)(日本時間)に公開されました。
図1. アンケート調査の主要な結果を示す
研究の背景
2023年末から2024年初めにかけて、特定の紅麹関連製品を摂取した方に腎障害が発生したことが、2024年3月22日に報道されました。しかしながら、詳細については不明な点が多く、医学的見地から当該製品摂取後に生じた病態や当該製品中止後の経過などを明らかにする必要がありました。
研究グループでは、この報道を受け、日本腎臓学会会員を対象に、2024年3月27日―4月30日に、紅麹関連製品摂取後に腎障害を生じたと会員医師が判断した患者さんの検査所見などの情報を収集しました(図2)。診療現場において早急に病態などを把握する必要があったため2024年4月1日に中間報告を行い (https://jsn.or.jp/medic/newstopics/formember/post-557.php)、初回調査の対象となった192名の患者さんに関する情報は中間報告第二弾として2024年5月7日に報告しています (https://jsn.or.jp/medic/newstopics/formember/2-10.php)。
図2. アンケート調査の流れを示す
研究の内容
本研究は、4月の中間報告、5月の中間報告第二弾、その後に行ったフォローアップ調査の結果を踏まえ、紅麹関連製品摂取後に生じた腎機能障害の実態を詳細に検討したものです。
初回調査では、対象となった192名のうち95.3%に腎機能障害(腎臓における老廃物の排泄障害: eGFR < 60ml/min/1.73m2)を認めました(図1)。腎臓は大きく糸球体・尿細管という2つの構造に分けることができ、糸球体障害時と尿細管障害時には、それぞれ認められやすい血液・尿検査値異常が異なります。対象患者さんの血液・尿検査所見を集計したところ、尿細管障害時に特徴的な低カリウム血症・低リン血症・低尿酸血症・尿糖・代謝性アシドーシスを有する方(ファンコニー症候群)を多く認めました(図1)。腎臓に生じている病態を直接観察可能な腎生検検査は102名に行われており、血液・尿検査所見に合致して尿細管が障害された所見(尿細管間質性腎炎 50.0%、尿細管壊死 32.0%)を認めました。また、患者さんの尿細管細胞において糖の再吸収を担う分子の発現が低下することにより尿糖が出現することを免疫組織化学染色で明らかにしました。
フォローアップ調査では、初回調査対象患者さんのうち114名の情報を収集しました。その結果、多くの患者さんでファンコニー症候群に関連する尿細管機能の検査値異常は改善していましたが、腎機能障害(eGFR < 60ml/min/1.73m2)は87.0%の方で持続していました (図1)。初診時の腎機能(eGFR)で患者さんを3つのグループに分け、腎機能(eGFR)の経過をモデル化したところ、初診時の腎機能(eGFR)が悪い方ほど回復が不十分でした(図3)。また、尿細管間質性腎炎において一般的に用いられるステロイド療法は、本病態では有効であるとは言えませんでした(図3)。
図3. 腎機能の経過をモデル化
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、紅麹関連製品摂取後に生じた腎障害の病態および摂取中止後約2か月時点での転帰が明らかになりました。フォローアップ調査においても、腎機能障害(eGFR < 60ml/min /1.73m2)が持続している患者さんが多く存在しており、長期に経過を追う必要性が明らかになりました。
特記事項
本研究成果は、2024年12月19日(木)(日本時間)に国際腎臓学会誌「Kidney International」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“A nationwide questionnaire study evaluated kidney injury associated with Beni-koji tablets in Japan.”
著者名: 新澤真紀1、松井功2、土井洋平2、松本あゆみ2、高橋篤史2、南學正臣3、猪阪善隆*2、およびアンケートにご協力いただいた日本腎臓学会会員の先生方 (*責任著者)
所属:
1. 大阪大学 キャンパスライフ健康支援・相談センター
2. 大阪大学 大学院医学系研究科 腎臓内科学
3. 東京大学 大学院医学系研究科 腎臓・内分泌内科
DOI:https://doi.org/10.1016/j.kint.2024.11.027
参考URL
SDGsの目標
用語説明
- ファンコニー症候群
腎臓の基本的な機能単位は「ネフロン」と呼ばれ、一つの腎臓に約100万個存在します。このネフロンは、「糸球体」と「尿細管」という二つの主要な部分から構成されています。尿の生成過程では、まず血液が糸球体で濾過され原尿となります。この原尿には、糖やリンなど、生体にとって必要不可欠な成分が含まれています。そのため、これらの重要な成分は尿細管、特に近位尿細管において再吸収され、体内に戻されます。近位尿細管に障害が生じると、本来体内に戻されるべき成分が尿中に漏出してしまう「ファンコニー症候群」という状態になります。
- 腎機能障害
本文書では、eGFR (estimated glomerular filtration rate: 推算糸球体濾過量) < 60ml/min/1.73m2を腎機能障害と定義しています。eGFRは腎臓における老廃物の排泄指標であり、基準値は90ml/min/1.73m2以上です。eGFRの低下は、機能しているネフロンの数が減少していることを示しています。