慢性腎臓病では尿中尿酸排泄マーカーにも注目せよ

慢性腎臓病では尿中尿酸排泄マーカーにも注目せよ

尿中尿酸排泄率の低値は慢性腎臓病の進展と関連する

2024-4-10生命科学・医学系
医学系研究科教授猪阪善隆

研究成果のポイント

  • 本研究では慢性腎臓病(CKD)患者において、尿中尿酸排泄マーカーである尿中尿酸排泄率 (FEUA)や尿中尿酸クレアチニン比の低値とCKDの進展が関連することを世界で初めて明らかにした。この関連は、これまでCKD診療で着目されてきた血清尿酸値とは独立していた。
  • 一方、FEUAや尿中尿酸クレアチニン比は高値であっても、腎予後とは関連しなかった。
  • 本研究より、ヒト尿酸トランスポーター1(URAT1)阻害薬などの尿酸排泄を促進させる治療がCKD患者に対して有効ではないかと期待される。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の朝比奈 悠太医員、坂口 悠介 特任助教(常勤)、貝森 淳哉 招へい教授、猪阪 善隆 教授(腎臓内科学)らの研究グループは、CKD患者において尿中尿酸排泄マーカーである尿中尿酸排泄率(FEUA)や尿中尿酸クレアチニンの低値がCKDの進展と関連することを世界で初めて明らかにしました。

生体内で代謝・生成された尿酸は大半が尿から排泄されることで血清尿酸値が維持されます。CKD患者では尿中尿酸排泄が低下するため、高尿酸血症を生じやすいことが知られています。しかしこれまで、尿中尿酸排泄と腎障害の関係については殆ど分かっていませんでした。

今回、本研究グループは、1,042例のCKD患者のデータを解析し、FEUAや尿中尿酸クレアチニン比が低値であるとCKDの進展と関連する一方、FEUAや尿中尿酸クレアチニン比は高値であっても、腎予後とは関連しないことを明らかにしました(図1)。これらの関連は、これまでCKD診療で着目されてきた血清尿酸値とは独立していました。

これらの発見により、血清尿酸値が正常でもFEUAや尿中尿酸クレアチニン比が低値であればCKDの進展のリスクとなることが示唆されます。また、URAT1阻害薬などの尿酸排泄を促進させる治療がCKD患者に対して有効ではないかと期待されます。

本研究成果は、2024年3月1日(金)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

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図1. FEUA(尿中尿酸排泄率)や尿中尿酸クレアチニン比と腎予後の関連

研究の背景

高尿酸血症はCKD患者で高頻度に合併します。尿酸による腎障害として、痛風患者で生じる痛風腎が古くから知られています。痛風患者では一般的に尿酸が体内で過剰に産生され、血中の尿酸値を維持するために、尿中の尿酸排泄が亢進します。尿中の尿酸排泄が過剰になると、特に酸性尿の状態では尿細管で尿酸結晶が形成されやすくなり、尿酸結晶による腎障害が生じやすくなると考えられています。このような背景もあり、高尿酸血症を合併したCKD患者に対しては、血清尿酸値を下げる治療がCKDの進展予防につながるのではないかと考えられてきました。しかしながら、近年の大規模ランダム化比較試験では、高尿酸血症の治療薬である尿酸合成阻害薬の腎保護効果は示されておりません。従って、血清尿酸値を低下させるだけではCKD患者にとって有益ではない可能性があります。

これまで血清尿酸値が注目されてきましたが、尿中尿酸排泄と腎障害の関係については殆ど分かっていませんでした。動物実験では尿細管で再吸収された尿酸が腎障害の進展に寄与することが報告されています。この知見に我々は注目し、尿細管で尿酸再吸収が亢進しているCKD患者ではCKDが進展しやすいのではないかと仮説を立てました。一方で、尿中尿酸排泄が過剰になると、特に酸性尿の状態で尿酸結晶が形成されやすくなり、結晶尿による腎障害が懸念されてきました。尿酸再吸収が亢進した状態か、あるいは尿中尿酸排泄が過剰な状態のどちらが、腎障害に影響しているかは不明でした。

研究の内容

本研究グループは大阪大学医学部附属病院腎臓内科外来に通院する1,042例のCKD患者を対象とした後ろ向きコホート研究を実施し、尿酸排泄マーカーであるFEUAや尿中尿酸クレアチニン比とCKDの進展との関連を検討しました。

年齢、性別、合併症、検査値、薬剤等で調整したベースライン多変量解析Cox回帰モデルにおいて、開始時のFEUAの上位25パーセンタイルの群に対して、下位25パーセンタイルの群ではCKDの進展リスクが有意に上昇しました(ハザード比 1.68, 95%信頼区間:1.13–2.50; P = 0.01)。また、FEUA同様に尿中尿酸クレアチニン比が低いとCKDの進展と関連しました。これらの関連は血清尿酸値とは独立していました。一方、FEUAや尿中尿酸クレアチニン比が高くても腎予後とは関連しませんでした。この関係は酸性尿を呈していた患者のみを対象としても同様でした。

最後に、FEUAや尿中尿酸クレアチニン比と腎予後との関係について時系列データを用いて解析しました。時系列データの解析にあたり時間依存性交絡を考慮する必要があります。腎機能はFEUAや尿中尿酸クレアチニン比に影響を及ぼす一方、FEUAや尿中尿酸クレアチニン比は未来の腎機能に影響を及ぼす可能性があります。この時間軸上での双方向性の関係を制御した上で、FEUAや尿中尿酸クレアチニン比が腎予後とどのように関連するのかを推定する必要があります。時間依存性交絡が生じている際に従来の回帰モデルで解析すると効果量が正しく推定されません。そこで我々は時間依存性交絡に対処する為、周辺構造モデルを用いました(図2)。解析の結果、ベースライン多変量Cox回帰モデルと同様に、FEUAや尿中尿酸クレアチニン比が低いとCKDの進展と関連し、頑健な結果が得られたことを確認しました。

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図2. 周辺構造モデル

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果を受けて、血清尿酸値が正常でも FEUAや尿中尿酸クレアチニン比が低値であればCKD進展のリスクとなることが示唆されます。また、URAT1阻害薬などの尿酸排泄を促進させる治療がCKD患者に対して有効ではないかと期待されます。

特記事項

本研究成果は、2024年3月1日(金)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Association between urinary uric acid excretion and kidney outcome in patients with CKD”
著者名:Yuta Asahina, Yusuke Sakaguchi, Tatsufumi Oka, Koki Hattori, Takayuki Kawaoka, Yohei Doi, Ryohei Yamamoto, Isao Matsui, Masayuki Mizui, Jun-Ya Kaimori, Yoshitaka Isaka
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-024-55809-9

参考URL

用語説明

尿中尿酸排泄率(FEUA)

糸球体で濾過された尿酸のうち、尿中に排泄された尿酸の割合。FEUAが低いと尿酸が尿細管で再吸収される割合が高く、尿中に排泄される割合が低いことを表す。

尿中尿酸クレアチニン比

尿中尿酸濃度と尿中クレアチニン濃度の比。成人の1日あたりの尿中クレアチニン排泄量は一定であることから、尿中尿酸クレアチニン比は尿中尿酸排泄量の指標となる。

ヒト尿酸トランスポーター1(URAT1)阻害薬

高尿酸血症治療薬。近位尿細管において尿酸の再吸収を担うヒト尿酸トランスポーター1(URAT1)を阻害し、尿中の尿酸排泄を促進させることで血清尿酸値を低下させる作用を有する。

尿細管

腎臓を構成する組織。糸球体で濾過された血液は原尿となり、近位尿細管・遠位尿細管・集合管からなる尿細管で水分や電解質、栄養素などの再吸収・分泌が行われ、尿として体外に排泄される。

尿酸合成阻害薬

高尿酸血症治療薬。生体内で尿酸合成に関与するキサンチンオキシダーゼという酵素を阻害することで、血清尿酸値を低下させる作用を有する。

時間依存性交絡

暴露因子(ここではFEUAや尿中尿酸クレアチニン比)と交絡因子(ここでは腎機能など)が互いに影響しながら時間の経過と共に変化するときに、時間依存性交絡が生じる。時間依存性交絡の存在下では、通常の回帰モデルでは偏った効果推定値が得られる。

周辺構造モデル

時間依存性交絡に対処可能な統計モデル。与えられた集団に逆確率重み付け法を行い、時間依存性交絡を取り除かれた仮想の集団を作り出すことで効果推定を行う。