新たな固体触媒を開発!温和な条件でエステルからエーテルへ

新たな固体触媒を開発!温和な条件でエステルからエーテルへ

香料や化粧品等に使われるエーテルを、安全・省エネで生成可能に

2022-2-24工学系
基礎工学研究科教授水垣共雄

研究成果のポイント

  • “エステルからエーテルへの直接水素化脱酸素反応”を温和な条件下で促進する固体触媒の開発に成功。
  • 新たな白金-モリブデン担持触媒を開発し、常圧水素下でのエステル脱酸素化を実現。
  • 従来法では合成困難であった非対称エーテルを入手容易なエステルから安全かつ省エネルギーでつくり出す、環境に優しい触媒プロセスの開発に期待。

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の水垣共雄教授らは、入手容易なエステルを原料として、香料や潤滑剤、界面活性剤および化粧品などの様々な高機能化学品として有用な、対称・非対称エーテルへの水素化脱酸素反応(図1)に極めて高い活性を示す担持金属ナノ粒子触媒の開発に成功しました。

今回、水垣教授らの研究グループは、約2.4ナノメートルの白金ナノ粒子とモリブデン酸化物を酸化ジルコニウム上に担持した触媒(Pt-Mo/ZrO2)(図2)が、常圧(1気圧)~5気圧程度の水素圧下という極めて温和な条件で、エステルから高効率でエーテルを生成することを見出しました。開発した触媒は固体触媒であるため、生成物と触媒は容易に分離ができ、回収した触媒の再使用もできます。

これらの成果から、安全かつ省エネルギーでほしいものだけをつくり出す、環境に優しい触媒プロセスの開発が期待されます。本研究成果は、米国化学会誌「JACS Au」(オンライン)に、2月24日(木)15時(日本時間)に公開されました。

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図1. 従来のエーテル合成法と本研究での水素化脱酸素反応(目的生成物であるエーテルと水のみが副生する。)

研究の背景

エーテルは、香料や潤滑剤、溶剤、界面活性剤、化粧品等として幅広く利用される機能性化学品です。これまで、対称エーテルの一般的な合成法として、硫酸等の酸触媒を用いた一級アルコールの脱水縮合、非対称エーテルの合成には有機ハロゲン化合物を用いたウィリアムソンエーテル合成法やウルマンエーテル反応が知られています。しかし、これらの方法は、強酸を用いることや、過剰量の強塩基が添加剤として必要であるため、反応後に多量の無機塩が副生するなど環境負荷が高い問題がありました。

これらに代わるエーテル合成法として、エステルの脱酸素反応があります。エステルは自然界にも多く存在し、入手容易な化合物です。これまでエステルの脱酸素によるエーテル合成では、高価な金属水素化物を還元剤として用いる必要があり、また、多量の無機塩が副生する問題がありました。これに対して、水素(H2)を還元剤として用いることができれば、無害な水のみが副生するため、環境に優しいエーテル合成法となります。しかし、これまでに報告された例では水素圧60気圧、反応温度160°Cの高温・高圧条件や強酸性の添加剤を必要とし、生成物との分離、触媒の回収が困難な均一系触媒が用いられていました。そのため、これらの問題を解決する環境に優しく高効率な固体触媒の開発が望まれていました。

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図2. (a)開発した担持金属ナノ粒子触媒(Pt-Mo/ZrO2)の写真、(b)電子顕微鏡像(黒い粒子が白金)

研究の内容

本研究グループでは、約2.4ナノメートルの白金ナノ粒子とモリブデン酸化物を酸化ジルコニウム上に担持した固体触媒を開発し、この触媒が1~5気圧の水素圧、100℃の温和な反応条件下で、様々なエステルをエーテルへ高選択的に還元できることを見出しました。さらに、バイオマス由来の脂肪酸エステル(バイオディーゼルやトリグリセリド)を、対応するエーテルへと効率的に変換するなど、これまでの合成法では困難であった様々な非対称エーテルの合成が可能となりました。反応後は、遠心分離により生成物と触媒を簡単に分離でき、生成物を取り出すことができます。さらに、回収した触媒を再使用しても触媒の活性低下は見られず、繰り返し使用可能であり、実用的な観点からも非常に有用性の高い触媒です。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今回開発した触媒は、クリーンな還元剤である水素を用いて入手容易な様々なエステルをエーテルへ変換する世界で初めての固体触媒です。選択的な水素化脱酸素反応は、化石資源を原料とする現在の化学プロセスをバイオマス由来の再生可能資源に転換するために欠かすことのできない技術です。本研究成果により、有害な試薬や廃棄物を伴わず、温和な条件下で有用な対称・非対称エーテル類の合成が可能になったことから、省エネルギーかつ安全な環境調和型化学プロセスの構築、さらに低炭素社会の実現につながると大いに期待されます。

特記事項

本研究成果は、米国化学会誌「JACS Au」(オンライン)に、2月24日(木)15時(日本時間)に公開されました。

タイトル:“Selective Hydrodeoxygenation of Esters to Unsymmetrical Ethers over a Zirconium Oxide-Supported Pt–Mo Catalyst”
著者名:Katsumasa Sakoda, Sho Yamaguchi, Takato Mitsudome, Tomoo Mizugaki

なお、本研究の一部は、科学研究費補助金(基盤研究(B)研究代表者:水垣共雄)の支援の元に行われました。

大阪大学大学院 基礎工学研究科 化学工学領域 触媒設計学グループ(水垣研究室)URL:
http://www.cheng.es.osaka-u.ac.jp/Mizugaki/home.html

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 13 気候変動に具体的な対策を
  • 15 陸の豊かさも守ろう

用語説明

担持金属ナノ粒子触媒

粒子径が数ナノメートルの金属微粒子を高分散に担持した触媒をいいます。今回の研究では、酸化ジルコニウムという無機酸化物担体の上に、直径約2.4ナノメートルの白金ナノ粒子とモリブデン酸化物微粒子を分散担持した白金-モリブデン担持触媒の開発に成功しました。この触媒が、エステルからエーテルへの水素化脱酸素反応を非常に効率よく促進させます。

固体触媒

化学反応を進行させる触媒は、反応液に溶け込む均一系触媒と溶け込まない不均一系触媒(=固体触媒)に大別できます。固体触媒は、粉末であるため反応溶液からろ過により簡単に取り除くことができるため、生成物との分離や再使用が容易になるなどの多くの実用的な利点があります。