健診や医療機関で腎臓の検査を受けていない 高齢男性は透析のリスクが高いことが明らかに

健診や医療機関で腎臓の検査を受けていない 高齢男性は透析のリスクが高いことが明らかに

大阪府寝屋川市の69,147人を5年間追跡した疫学研究

2021-10-26生命科学・医学系
キャンパスライフ健康支援センター特任助教芦村龍一

研究成果のポイント

  • 過去1年間に健診でも医療機関でも腎臓の検査(尿定性検査または血清クレアチニン検査)を受けていない高齢男性は、透析のリスクが高いことが明らかになった。
  • これまで健診を受けていない人は死亡のリスクが高いことが知られていたが、健診を受けていない人の透析のリスクは不明であった。
  • 健診でも医療機関でも腎臓の検査を受けていない高齢男性は、透析のリスクが高く、健診の受診勧奨の重点対象候補として注目すべきである。

概要

大阪大学キャンパスライフ健康支援センターの芦村龍一特任助教と山本陵平准教授らの研究グループは、大阪府寝屋川市と共同で、健診でも医療機関でも腎臓の検査を受けていない高齢男性は、透析のリスクが高いことを明らかにしました。

これまで、健診を受けていないことは死亡のリスクであることが報告されていますが、透析治療が必要な末期腎不全に及ぼす影響は不明でした。

本研究グループは、寝屋川市の国民健康保険と後期高齢者医療制度の加入者69,147人を5年間追跡した結果、過去1年間に健診を受けた人と比較して、健診でも医療機関でも腎臓の検査を受けていない人は、透析に至るリスクが高く(男性1.66倍、女性1.51倍)、特に75歳以上の高齢男性では、健診でも医療機関でも腎臓の検査を受けていない人の透析のリスクは2.72倍に上昇していることが明らかになりました。これにより、末期腎不全を予防する上で、健診でも医療機関でも腎臓の検査を受けていない高齢男性は、健診の受診勧奨の重点対象候補となることが期待されます。

本研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」に、10月26日(火)18時(日本時間)に公開されました。

20211026_1_0.png

図. 健診受診歴・医療機関での腎臓の検査歴と透析の累積発症率

研究の背景

透析治療が必要な末期腎不全を予防する上で、腎臓病の早期発見が重要です。健診は、生活習慣病に加えて腎臓病の早期発見の役割を担っていますが、特定健診と後期高齢者健診の受診率はそれぞれ50%、30%と低いことが知られています。これまで、健診を受けていない人は死亡のリスクが高いことが知られていましたが、透析治療を必要とする末期腎不全への影響は報告されていませんでした。

研究の内容

本研究グループでは、寝屋川市の国民健康保険と後期高齢者医療制度の加入者69,147人を、2012年度の健診受診の有無と医療機関での腎臓の検査(尿定性検査と血清クレアチニン検査)の有無に基づいて、①健診あり、②健診なし・腎臓の検査なし、③健診なし・腎臓の検査ありの3群に分類し、透析のリスクを評価しました。傾向スコアマッチング法を用いて①健診ありと②健診なし・腎臓の検査なしの2群の対象者の特徴(年齢など)を揃えて解析を行った結果、男性では、①健診あり(5,332人)のうち11人(0.2%)が透析を発症し、②健診なし・腎臓の検査なし(5,332人)のうち24人(0.5%)が透析を発症しました(図)。女性では、①健診あり(7,573人)のうち6人(0.1%)が透析を発症し、②健診なし・腎臓の検査なし(7,573人)のうち9人(0.1%)が透析を発症しました。

多変量解析の結果、男性では、①健診あり(9,474人)と比較して、②健診なし・腎臓の検査なし(9,833人)の透析のリスクは1.66倍に上昇していました。特に、75歳以上の高齢男性では、①健診あり(2,951人)と比較して、②健診なし・腎臓の検査なし(1,412人)の透析のリスクは2.72倍に著しく上昇していました。女性では、①健診あり(14,145人)と比較して、②健診なし・腎臓の検査なし(10,311人)の透析のリスクは1.51倍に上昇していました。男性と異なり、75歳以上の高齢女性では、①健診あり(4,265人)と比較して、②健診なし・腎臓の検査なし(2,809人)の透析のリスクは0.84倍でリスクの上昇は認めませんでした。

本研究は、過去1年間に健診でも医療機関でも腎臓の検査を受けていなかった75歳以上の高齢男性は、透析のリスクが高いことを報告しました。女性については、透析の発症数が少なかったため(2017年度末までの透析発症者数:男性246人、女性124人)、より大規模な研究で評価をする必要があります。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、健診でも医療機関でも腎臓の検査を受けていない高齢男性は、透析のリスクが高く、末期腎不全の予防のために、健診の受診勧奨の重点対象候補となることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2021年10月26日(火)18時(日本時間)に国際科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Associations of kidney tests at medical facilities and health checkups with incidence of end-stage kidney disease: a retrospective cohort study”
著者名:Ryuichi Yoshimura, Ryohei Yamamoto, Maki Shinzawa, Rie Kataoka, Mina Ahn, Nami Ikeguchi, Natsuki Wakida, Hiroshi Toki, and Toshiki Moriyama
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-021-99971-w

SDGSの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を