アディポネクチンによるエクソソームを介した脂質排出機構を解明

アディポネクチンによるエクソソームを介した脂質排出機構を解明

2018-4-19生命科学・医学系

研究成果のポイント

・血中に多量に存在する善玉アディポサイトカイン であるアディポネクチンが、細胞内にてエクソソーム 産生を促進し、そのエクソソームを細胞外に放出するメカニズムを発見しました。
・エクソソームには脂質の一種であるセラミド が含まれていることから、アディポネクチンはエクソソームの放出を通してセラミドの排出を行っていることを明らかにしました。
・アディポネクチンによるセラミド排出機構に注目することで、各種臓器保護作用を模倣、あるいは強化する新しい抗老化、心血管疾患治療・予防戦略への応用が期待されます。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の喜多俊文寄附講座講師(肥満脂肪病態学)、前田法一寄附講座准教授(代謝血管学)、下村伊一郎教授(内分泌・代謝内科学)らの研究グループは、脂肪細胞に由来する分泌因子であるアディポネクチンの、エクソソーム産生を介したセラミドの排出メカニズムを解明しました。

これまで一般に、アディポネクチンのような分泌因子は、分泌因子の受容体分子から伝達されるシグナルを介して作用するものと考えられており、分泌因子が細胞内で集積し、エクソソームの産生を促進するメカニズムについては解明されていませんでした。

今回、研究グループは、生理的な構造を保ったアディポネクチンを精製する新しい手法を開発することにより、アディポネクチンは細胞表面のT-カドヘリン に結合することで、大動脈内皮細胞の内部に多量に取り込まれ、エクソソームの産生・放出を介してセラミドを排出し、細胞の新陳代謝を促進する分子メカニズムを解明しました。脂質の一種であるセラミドが過剰に細胞内に蓄積されると、血管障害や糖尿病が引き起こされると考えられており、また糖尿病になると臓器に様々な障害が起こります。今回発見したアディポネクチンによるセラミド排出機構に着目することによって、アディポネクチンの各種臓器保護作用を模倣、あるいは強化する抗老化、心血管疾患治療・予防戦略への応用が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「JCI insight」に、4月19日(木)22時(日本時間)に公開されました。

図1 アディポネクチンの作用メカニズム。
脂肪細胞から分泌されたアディポネクチンはT-カドヘリンと結合し、細胞内に入り、多胞体の中でエクソソームの生合成を行う。この時エクソソームはセラミドを含んでおり、これが排出されるメカニズムを今回明らかにした。

研究の背景

これまでに本研究グループは、脂肪細胞が多量に分泌するアディポサイトカインとしてアディポネクチンを同定し、内臓肥満に伴う血中アディポネクチン量の低下が、心血管障害などの肥満病態の形成に重要な役割を果たすことを報告してきました。アディポネクチンはT-カドヘリンと結合することが知られていますが、近年の遺伝子解析の進展によって、ヒトT-カドヘリン遺伝子一塩基多型は、血中アディポネクチン値や冠動脈疾患リスクと極めて強く関連することが示されてきました。また、本研究グループはこれまでに、T-カドヘリン欠損マウス等を用いた研究によって、アディポネクチンはT-カドヘリンを介して心血管保護作用を発揮することを示してきました。

アディポネクチンに関連する研究論文数は18000報以上に上りますが、典型的な分泌因子に比して極めて多量に血中に存在する理由は不明でした。また、分泌因子が細胞内で集積し、エクソソーム産生を促進する機構についてはこれまでに解明されていませんでした。

研究成果

研究グループはまず、生理的な構造を保ったアディポネクチンを精製する新しい手法を開発しました。アディポネクチンは細胞表面のT-カドヘリンに結合することで、大動脈内皮細胞の内部に多量に取り込まれ、エクソソーム産生を促進し、その作用はマウスの血中エクソソームレベルにも強く影響することを見出しました。さらにアディポネクチンはエクソソーム搬出を促進することで、培養内皮細胞のセラミドを低下させ、心血管のセラミド蓄積を低減することを見出しました。

アディポネクチンは血中に通常のホルモン・サイトカインの千倍から百万倍と非常に高濃度に存在する分泌因子です。エクソソームは細胞内不要物の排出・除去を通じて、細胞の恒常性維持や保護に働くことが知られていることから、アディポネクチンは細胞の恒常性維持に関わることが考えられます。また、セラミドの過剰な蓄積は糖尿病の原因の一つと考えられ、糖尿病になると様々な臓器に障害が起こることから、本研究で明らかにしたエクソソームを介したアディポネクチンによる新しい作用分子メカニズムは、アディポネクチンの多種多彩な臓器保護作用をも説明すると考えられます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、アディポネクチンの各種臓器保護作用を模倣する、あるいは強化する新しい治療・予防戦略への応用が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2018年4月19日(木)9時(米国東部時間)〔4月19日(木)22時(日本時間)〕に米国科学誌「JCI insight」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Adiponectin/T-cadherin system enhances exosome biogenesis and decreases cellular ceramidesby exosomal release”
著者名:Yoshinari Obata 1 , Shunbun Kita *,1,2 , Yoshihisa Koyama 3 , Shiro Fukuda 1 , Hiroaki Takeda 4 , Masatomo Takahashi 4 , Yuya Fujishima 1 , Hirofumi Nagao 1 , Shigeki Masuda 1 , Yoshimitsu Tanaka 1 , Yuto Nakamura 1 , Hitoshi Nishizawa 1 , Tohru Funahashi 1,5 , Barbara Ranscht 6 , Yoshihiro Izumi 4 , Takeshi Bamba 4 , Eiichiro Fukusaki 7 , Rikinari Hanayama 8 , Shoichi Shimada 3 , Norikazu Maeda 1,5 , and Iichiro Shimomura 1 (*責任著者)
所属:
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学
2. 大阪大学 大学院医学系研究科 肥満脂肪病態学
3. 大阪大学 大学院医学系研究科 神経細胞生物学
4. 九州大学 生体防御医学研究所 メタボロミクス分野
5. 大阪大学 大学院医学系研究科 代謝血管学
6. Sanford Burnham Prebys Medical Discovery institute
7. 大阪大学 大学院工学研究科 生命先端工学専攻
8. 金沢大学 医学系 免疫学

なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)基盤研究の一環として行われました。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 肥満脂肪病態学
http://www.med.osaka-u.ac.jp/introduction/research/internal/metabolic

用語説明

アディポサイトカイン

脂肪細胞はアディポネクチンなどの様々な生理活性物質を分泌しており、アディポサイトカインと総称されます。肥満状態におけるアディポサイトカインの発現・分泌異常は、肥満に伴う糖尿病や慢性炎症、動脈硬化性疾患と深く関連します。

エクソソーム

細胞内から産生分泌される直径100 nm前後の微粒子であり、様々な生理活性核酸やタンパク質を内包し、細胞間の情報伝達を担うことも知られます。一方、細胞内の余剰・不要物を細胞外に排出し、不要物を処理する細胞に受け渡す排出装置としての機能も着目されています。これまで、その血中濃度がどのように調節されているか殆ど知られていませんでした。

セラミド

脂質の一種で、その過剰な蓄積は血管障害や糖尿病の原因の一つと考えられています。

T-カドヘリン

細胞間接着やコミュニケーションに重要なカドヘリンの一種であるが、細胞内ドメインを有さず、脂質アンカーによって細胞膜に係留される特殊なカドヘリン分子です。本研究グループによって、T-カドヘリンは高親和性かつ高選択的にアディポネクチンと結合することが明らかにされています。