
温室効果ガスを都市ガスに変換! 金属3Dプリンターで低温メタネーション自己触媒反応器を開発
炭素循環社会に貢献するCO2リサイクル技術
研究成果のポイント
- 二酸化炭素(CO2)を原料としたメタン(CH4)合成反応(メタネーション)について、1気圧140ºCという低温において高い活性と100%近い選択性を示す粉末状ルテニウム(Ru)触媒を開発。
- カチオン性のRun+種 (0 < n < 4)が低温反応を駆動する真の活性であるという新学説を立証。
- レーザー金属3Dプリンティング技術と表面改質技術を組み合わせることで、粉末状触媒の局所構造を再現し、早期実現に資する金属製自己触媒反応器(SCR: Self Catalytic Reactor)の作製に成功。
概要
大阪大学大学院工学研究科KIM Hyojin特任助教、森浩亮教授、中野貴由教授、山下弘巳名誉教授、大阪大学超高圧電子顕微鏡センターの市川聡特任教授(常勤)らの研究グループは、レーザー金属3Dプリンティング技術と表面改質処理を組み合わせることで、ほぼ100%の選択性で、温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)を都市ガスの主成分であるメタン(CH4)に変換できる金属製自己触媒反応器の作製に成功しました。
従来のルテニウム(Ru)触媒を用いて同等の活性を達成するには、20気圧の加圧が必要であるのに対して、本触媒は1気圧140ºCという低温において高活性・高選択性を示す非常に優れた特徴を有します。
さらに高活性なRu活性種の微細構造について詳細な調査を行ったところ、負に帯電した(Ti3O7)2-層が低酸化状態の孤立したRun+種(0 < n < 4)の生成と安定化を促進し、大気圧の穏やかな条件下でのCO2活性化を可能とするという学説を立証できました。
本研究成果は、カーボンニュートラルを指向した触媒分野のみならず、金属3Dプリンティング技術を基盤とした先進的なマテリアルサイエンス分野へも多大な波及効果をもたらすことが期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications (ネイチャーコミュニケーションズ)」(オンライン)に、4月2日(水)午後6時(日本時間)に公開されました。
図1. レーザー金属3Dプリンティングで作製した金属製自己触媒反応器
(SCR: Self Catalytic Reactor)と、表面改質で生成したNa2Ti3O7ナノファイバー構造
研究の背景
CO2のメタネーション反応 (CO2 + 4H2 → CH4 + 2H2O、ΔH = −165.0 kJ· mol−1) は、高密度でエネルギーを貯蔵する方法としてだけでなく、CO2を無毒で豊富なC1原料として利用することで大気中のCO2削減を指向したカーボンニュートラルサイクルを実現する手法としても有望視されています。第6次エネルギー基本計画では合成メタンの供給量を2050年までに326億m3、価格を液化天然ガスと同水準まで下げることが目標値として掲げられています。最近ではPower-to-Gasプロジェクトが世界中で展開されていますが、その成否の鍵となるが高活性触媒の開発にあると言っても過言ではありません。
安定性の高いCO2変換を達成するためには、大きなエネルギー障壁を克服する必要があり、高温の熱エネルギーの投入が要求されます。一方で、本反応は発熱反応であるため、反応の進行に伴い高転化率領域では熱マネジメントが難しく、平衡論的制約から吸熱反応の逆水性ガスシフト反応(CO2 + H2 → CO + H2O、ΔH = 42.1 kJ· mol−1)が優先して進行してしまうことが課題となっています。そのため、低温域で高いCO2転化率、CH4選択性を示す触媒の開発が不可欠です。さらに現状では、粉末状の金属担持触媒を充填した反応器が用いられていますが、化学プラントの省エネルギー化に向けて新たな触媒形状を提案する必要があります。
研究の内容
層状化合物のNa2Ti3O7層間のNaイオンをRuイオンで交換した触媒が、1気圧140 ºCという低温においてCO2メタネーションを進行させ(メタン生成速度33.6 mmol gcat-1 h-1、空間速度24,000 mL g-1 h-1)、ほぼ100%の選択性でメタンが得られるだけでなく、220時間後もほとんど活性が低下しないことも見出しました。従来のRu触媒を用いて同等の活性を達成するには、20気圧の加圧が必要であるのに対して、本触媒は1気圧下で高活性・高選択性を示す非常に優れた特徴を有します。さらに、XAFS、XRD、XPS等のその場観察実験を通して高活性なRu活性種の微細構造について詳細な調査を行ったところ、負に帯電した(Ti3O7)2-層が低酸化状態の孤立したRun+種(0 < n < 4)の生成と安定化を促進し、大気圧の穏やかな条件下でのCO2活性化を可能とするという学説を立証できました。
さらに、この高活性な粉末状Ru触媒の知見を応用することで、触媒機能と反応管としての機能を併せ持った金属製自己触媒反応器(SCR: Self Catalytic Reactor)の開発に成功しました。具体的には、Ti-6Al-4V合金粉末を原料とし、レーザー金属3Dプリンティングによりチャンネル構造を付与した触媒反応管をまず造形します。これを酸化処理、NaOH中で水熱処理すると、表面にNa2Ti3O7ナノファイバーを形成させることができます。このNa2Ti3O7ナノファイバーにRuイオンを導入すると、CO2メタン化反応において粉末触媒と同様の低温活性が発現することを明らかにしました。
図2. 粉末状Ru担持Na2Ti3O7触媒の調製、CO2メタンネーションにおける耐久性、および局所構造解析(WT-EXAFS)
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
今回開発した触媒は、「調製が簡便である」「工場廃熱を利用可能な低温(140℃付近)でも駆動する」「長時間の耐久性に優れる」など実用化に不可欠な基盤要素を兼ね備えています。また、金属3Dプリンターで造形した金属製自己触媒反応器は、高い機械的強度、熱伝導性に加え、多様な触媒プロセスに最適な構造を提案できることから、カーボンニュートラルを指向した触媒分野のみならず、金属3Dプリンティング技術を基盤とした先進的なマテリアルサイエンス分野へも多大な波及効果をもたらすことが期待されます。さらに、これまでCO2メタン化反応にはRu0ナノ粒子が触媒活性種として有効であると考えられてきましたが、反応条件下での様々な分光学的手法を駆使した触媒微細構造解析を通して、孤立したRun+種(0 < n < 4)が低温活性を駆動する真の活性種であるという新たな学説も明らかにしており、学術的な意義も極めて高いものです。
特記事項
本研究成果は、2025年4月2日(水)午後6時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications (ネイチャーコミュニケーションズ)」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Layered Na2Ti3O7-supported Ru catalyst for ambient CO2 methanation”
著者名:Hyo-Jin Kim, Kohsuke Mori*, Satoshi Ichikawa, Takayoshi Nakano, Hiromi Yamashita
DOI: 10.1038/s41467-025-57954-9
なお、この成果は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託業務(未踏チャレンジ)の結果得られたものです。また、3Dプリンターを利用した金属触媒反応器の造形は、大阪大学大学院工学研究科附属 異方性カスタム設計・AM研究開発センターの支援のもと行われました。
参考URL
SDGsの目標
用語説明
- 金属3Dプリンティング
電子ビームまたはレーザーにより必要な部分の金属粉末を溶解し、凝固させて金属部品を製作する技術である。複雑な形状や強度の高い金属などの難しい成形を可能にし、緻密な3D形状を造形することができるため、航空宇宙産業、自動車分野、医療分野等に幅広く適用されている。特に金属粉末を敷き詰め、溶融・凝固を繰り返すことで造形する手法をパウダーベッド方式という。
- Power-to-Gas
太陽光発電や風力発電などは、気象条件によって発電量が大きく変動するため、発電量が電力需要を上回るときは余剰電力を貯蔵する必要がある。そこで、余剰電力を水の電気分解に利用して水素(H2)に変換して貯蔵・利用したり、二酸化炭素(CO2)と反応させてメタン(CH4)やメタノール(CH3OH)などの形で貯蔵した後、輸送用燃料などに利用したりすること。