\空間利用、AIに聞け!?/ オープンオフィス空間におけるゾーンごとの占有状況測定システムを開発

\空間利用、AIに聞け!?/ オープンオフィス空間におけるゾーンごとの占有状況測定システムを開発

3次元姿勢推定を活用し、低コストで高信頼性データを提供

2025-8-6工学系
工学研究科教授福田 知弘

研究成果のポイント

  • 開放型オフィス内の細かいエリアごとの使用状況をリアルタイムで精緻・定量的に把握するフレームワークを構築。
  • 細かいエリアごとの占有状況を的確に把握する有効な手法は未確立だったが、複数視点からのビデオカメラ画像について人体関節位置による3次元姿勢推定(3DPE)を行うことで、ゾーンごとの占有状態を判定することが可能に。
  • オープンオフィス環境における信頼性の高い空間利用データの提供により、レイアウトの最適化、資源管理、エネルギー制御などオフィス環境における持続可能な設計・運用の高度化支援の発展に期待。

概要

大阪大学大学院工学研究科の陳思樺さん(博士後期課程)、福田知弘教授、矢吹信喜名誉教授(現・東京都市大学特任教授)の研究グループは、開放型オフィス空間を対象とする、低コストかつマルチスケールな占有測定手法を提案しました。本研究では、3次元姿勢推定(3DPE)技術を建築空間の占有調査に先駆的に導入することで、空間全体の占有把握を実現するとともに、機能区画レベルの占有調査における空白を埋める成果を示しました。

従来の占有測定手法は、主に部屋、フロア、あるいは建物全体を単位としたマクロスケールでの占有状況の把握に焦点を当てていました。そのため、追加機器への依存、利用者の行動への高い要求、実際の人体による占有データの取得が困難といった課題を抱えていました。そこで本研究では、ミクロスケールにおける占有調査の空白を補い、既存手法の限界を克服するために、オープンオフィス空間内の機能区画占有調査に対応した占有測定システムの設計フレームワークを提案します。本フレームワークは、マルチビューRGB画像を入力とし、マルチパーソン3DPE技術を用いて各人物の関節位置をリアルタイムに三次元空間上で推定します。さらに、関節の投影座標と各機能区画の範囲との重なりを解析することで、空間全体および各機能区画における占有状態および関連指標を定量的に算出します(図1)。

本研究では、本フレームワークの実現可能性を検証するために、小規模なオープンオフィス空間を対象としてプロトタイプシステムを開発しました。本システムは占有状態の測定タスクにおいて100%の精度および89.19%のF1スコアを達成しました。この結果は、提案手法が機能区画における占有調査に有効であり、実際の建築環境においても高い応用可能性を有していることを示しています。

本研究成果は、2025年6月25日(日本時間)に、学術雑誌「Journal of Building Engineering」(Elsevier社)にオンライン掲載されました。

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図1. 占有測定システムのために提案された設計フレームワークの主要なメカニズム

研究の背景

過去数十年にわたり、オープンレイアウトは創造性の喚起、コミュニケーションの促進、不動産コストの削減といった利点から、組織のオフィス形態として主流の選択肢となってきました。なかでも、特定の機能を持つマイクロゾーン(機能区画)の占有データは、オープンオフィス空間におけるレイアウトの最適化、資源管理、エネルギー制御にとって極めて重要です。しかしながら、現時点において機能区画レベルの占有状況を的確に把握する有効な手法は未だ確立されておらず、空間分解能の高い占有測定技術の開発は、室内オープンオフィス環境の持続可能な設計と運用を実現するうえでの重要な課題の一つとなっています。

従来の占有測定手法は、主に部屋、フロア、あるいは建物全体を単位としたマクロスケールでの調査が中心であり、実際の運用においては、追加機器への依存、利用者の行動への高い要求、実際の人体による占有データの取得困難といった課題に直面しています。そのため、既存手法の限界を克服しつつ、オープンオフィス空間内の異なる機能区画に対する占有状況の把握を可能にする、新たな測定手法の開発が強く求められています。

研究の内容

本研究では、オープンオフィス空間内の全体および機能区画の占有調査に対応可能な占有測定システムの設計フレームワークを提案します。本フレームワークは、マルチビューRGB画像シーケンスを入力とし、3DPEを用いて人体関節の空間位置を抽出します。さらに、関節の投影座標と各機能区画の境界との重なり関係を解析することにより、空間全体および各機能区画における占有状態と関連指標を出力します。図2aに示すように、本フレームワークは「準備作業」、「データ収集および前処理」、「データ処理」、「占有状態の計算」のプロセスから構成されます。以下に、本手法における主要な技術的要素を示します。

・準備作業においては、カメラパラメータが不明または不正確な場合に対応するために、屋内マルチカメラシステムのグローバルキャリブレーションワークフローを構築しています。このワークフローでは、カメラキャリブレーション法およびPerspective-n-Point(PnP)法を用いてカメラパラメータを取得し、再投影誤差によってその精度を評価します。
・データ処理のパートでは、3DPEフレームワークに基づき、屋内環境におけるリアルタイム多点位置推定のための戦略を構築しています。このうち、3DPEフレームワークにおける2DPEおよび視点間の人物対応(CVA)の処理は、それぞれ深層学習ツールキットMMPoseおよびTorchreidにより実装されています。また、3D姿勢再構成(3DPR)の段階では、三角測量法を用いて関節の三次元座標を推定しています。
・占有測定モデルは、グローバル座標系における人体関節の床面投影座標と、各機能区画の頂点座標を入力とし、両者の交差関係を解析することで、連続フレームにわたる空間全体および各機能区画の占有状態を識別し、関連する指標を算出します

実証実験と考察

本研究では、本フレームワークの実現可能性を検証するために、小規模なオープンオフィス空間(図2b)を対象としてプロトタイプシステムを構築しました。本システムでは、3DPEタスクにおいて、Real-Time Object Detectors(RTMDet)、Deeppose、Omni-Scale Network(OsNet)をそれぞれ人物検出器、姿勢推定器、特徴量抽出器として適用しています(図3a)。

開発されたシステムは、占有状態の測定タスクにおいて100%の精度および89.19%のF1スコアを達成し、さらに占有時間・空席時間、占有頻度、数量および面積ベースの区域占有率など、複数の占有指標を出力可能であることが示されました(図3b-g)。

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図2. キャプション:システム設計フレームワークと実証実験
(a) 占有測定システムの設計フレームワークの概要。
(b) 実験空間の構成とカメラ設置:床面マーカーを用いて平面図を3つのマイクロゾーンに区分し、4台のカメラによるデータ収集をリモート操作で実施。

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図3. 占有測定システムのコアコンポーネントと出力結果
(a) 3D姿勢推定および2D投影抽出の概要
(b) 占有状況(19:58:40~19:59:39)
(c) 占有状況(19:59:40~20:00:39)
(d) 占有および空席の継続時間(19:58:40~20:00:39)
(e) 数量および面積ベースの占有ゾーン比率の変化(19:58:40~20:00:39)
(f) 占有頻度の変化(19:58:40~20:00:39、測定結果)
(g) 占有頻度の変化(19:58:40~20:00:39、Ground Truth)

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究で提案された手法は、従来のオープンスペースにおける占有データと平面機能レイアウトとの関連性の欠如という課題を解決するものであり、それによって得られた高粒度な占有データは、優れた解釈性と実用性を備え、オープンオフィス環境におけるレイアウトの最適化、資源管理、エネルギー制御などに対して信頼性の高い空間利用データを提供します。これらのデータは以下のことを可能にします。

・実証データに基づいた合理的な施設・空間の設計。
・実際の利用パターンに応じたスペース割り当てを行うことで、限られた空間リソースを有効活用できる。
・きめ細やかなユーザー需要に基づいたエネルギー制御戦略を行うことで、コストの削減と快適なオフィス空間の提供を両立できる。

本研究成果は、監視カメラ映像を活用した空間占有測定手法の開発に理論的基盤を提供するだけでなく、室内オープンオフィス環境の持続可能な設計および運用に向けた意思決定に対して、定量的なデータ支援を可能とするものです。

特記事項

本研究成果は、2025年6月25日(日本時間)に、学術雑誌「Journal of Building Engineering」(Elsevier社)にオンライン掲載されました。

タイトル: “Development of an occupancy measurement system for micro-zones within open office spaces based on multi-view multi-person 3D pose estimation (多視点多人数3D姿勢推定に基づくオープンオフィス内マイクロゾーンの占有率計測システムの開発)”
著者名: Sihua Chen, Tomohiro Fukuda and Nobuyoshi Yabuki
DOI: 10.1016/j.jobe.2025.113037

参考URL

博士後期課程 陳 思樺 研究者情報
https://scholar.google.com/citations?user=KxaWdmsAAAAJ&hl=en

福田 知弘教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/d2782e4b9c864b39.html

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用語説明

3DPE

3次元姿勢推定(3D Pose Estimation)。画像や映像から人体の各関節の三次元空間における位置を推定する技術。

CVA

視点間の人物対応(Cross-View Association)。複数のカメラ視点において、異なる視点から観測された同一人物を正確に識別・対応付ける処理のことを指します。

MMPose

MMPose は、PyTorch に基づくオープンソースの人体姿勢推定ツールボックスであり、OpenMMLab プロジェクトに属し、最先端モデルの開発・学習・評価をサポートします。

Torchreid

Torchreid は、PyTorch に基づくオープンソースの人物再識別(Re-ID)ツールキットであり、さまざまな主要アルゴリズムの学習・評価・デプロイをサポートします。

3DPR

3D姿勢再構成(3D Pose Reconstruction)。複数の視点から取得した2D関節位置に基づき、人体の関節の三次元空間における座標を再構成するプロセスである