私が太りやすい理由
生理・病態・環境・ホルモン・遺伝子などの影響を一つの因子で説明!
研究成果のポイント
- ヒートショックプロテインHSP47の発現は脂肪組織に高く、体脂肪量と相関する。
- HSP47は食事、運動、ホルモンなどにより制御される。
- HSP47はコラーゲンのフォールディング・分泌に必須の因子であり、HSP47の欠損や活性阻害によって細胞接着シグナルが阻害され、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体PPARγタンパクの安定性が低下することで、脂肪量が減少する。
概要
大阪大学大学院医学系研究科の下村伊一郎教授(内分泌代謝内科学)、福原淳範寄附講座准教授(肥満脂肪病態学)、シン ジフン寄附講座助教(糖尿病病態医療学)(研究当時)らの研究グループは、ヒトの脂肪組織量を規定する因子としてHSP47を同定しました。ヒトやマウスのトランスクリプトームの解析から、HSP47の発現は体脂肪量と相関しており、摂食や過食、肥満など太りやすい環境では上昇し、運動や絶食、食事制限など痩せやすい環境では低下します。遺伝的に脂肪組織のHSP47発現が高いヒトは太りやすい傾向があり、脂肪細胞特異的HSP47の欠損マウスや薬剤的HSP47阻害モデルマウスでは脂肪重量が減少します。メカニズムの解析によって、HSP47の欠損や活性障害によって脂肪細胞のコラーゲンタンパクのフォールディング・分泌が障害され、細胞内FAKシグナルが低下し、PPARγタンパク分解が促進することで、脂肪細胞の機能障害によって脂肪重量が減少することが明らかとなりました。
研究の背景
体脂肪量は個人差が大きく、生理・病態・環境・ホルモン・遺伝子など様々な要因・要素が関係していましたが、それを科学的に統括して説明できる研究報告はありませんでした。本研究は様々なIn silico, In vivo, In vitro解析法を用い、脂肪組織を規定する因子を同定し、機能解析を行いました。
研究の成果
体脂肪量は生理・病態・環境・ホルモン・遺伝子など様々な要因に影響を受け、個人差が大きいことが知られています。本研究では、脂肪組織に発現するHSP47が体脂肪量を規定する重要な因子であることを明らかにしました。HSP47の発現は摂食、過食、肥満により増加し、断食、運動、カロリー制限、バリアトリック手術、およびカへキシアにより減少することが知られています。さらに、HSP47は様々な体脂肪の指標(体脂肪量、BMI、ウエストおよびヒップの周囲径など)と有意に相関し、インスリンおよびグルココルチコイドによって調節されていました。また、SNP解析によるHSP47遺伝子発現量は、体脂肪量と相関を示しました。メカニズムとして、HSP47の欠損や阻害によってコラーゲンタンパクの動態(折りたたみ、分泌、およびインテグリンとの相互作用)が障害され、PPARγタンパクが減少することで、脂肪組織が萎縮することが分かりました。今後、体脂肪量と関連する臨床応用にも期待できます。
本研究成果は、「Nature Communications」(オンライン)に、11月11日(土)に公開されました。
図. HSP47による体脂肪量を決めるメカニズム
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究は、生理・病態・環境・ホルモン・遺伝子など様々な背景・環境における体脂肪の個人差を科学的に説明できる重要な研究であり、今後体脂肪に関する臨床応用も期待されます。
特記事項
本研究成果は、「Nature Communications」(オンライン)に、11月11日(土)に公開されました。
DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-023-43080-x
【タイトル】 HSP47 levels determine the degree of body adiposity
【著者名】 Jihoon Shin,1,2,3* Shinichiro Toyoda,1 Yosuke Okuno,1 Reiko Hayashi,1 Shigeki Nishitani,1 Toshiharu Onodera,1,4 Haruyo Sakamoto,1 Shinya Ito,5 Sachiko Kobayashi, 1 Hirofumi Nagao, 1 Shunbun Kita, 1,6 Michio Otsuki,1,7 Atsunori Fukuhara,1,6 Kazuhiro Nagata,8,9 and Iichiro Shimomura1
(*責任著者)
【所属】
1. Department of Metabolic Medicine, Graduate School of Medicine, Osaka University, Suita, Osaka, Japan
2. Department of Diabetes Care Medicine, Graduate School of Medicine, Osaka University, Suita, Osaka, Japan
3. Division of Endocrinology, Diabetes and Metabolism, Beth Israel Deaconess Medical Center and Harvard Medical School, Boston, Massachusetts, United States
4. Touchstone Diabetes Center, Department of Internal Medicine, The University of Texas Southwestern Medical Center, Dallas, United States
5. Faculty of Life Sciences, Kyoto Sangyo University, Kyoto, Japan5
6. Department of Adipose Management, Graduate School of Medicine, Osaka University, Suita, Osaka, Japan
7. Department of Endocrinology, Graduate School of Medical Science, Tokyo Women’s Medical University, Tokyo, Japan
8. Institute for Protein Dynamics, Kyoto Sangyo University, Kyoto, Japan
9. JT Biohistory Research Hall, Osaka, Japan
用語説明
- ヒートショックプロテインHSP47
細胞内小胞体に発現し、コラーゲンタンパクのフォールディングや分泌に重要なシャペロンタンパクである。
- バリアトリック手術
肥満を治療するための外科的な手術の総称。これらの手術は、食事制限や吸収の変更などのメカニズムによって、体重の減少を促進し、合併症を軽減することを目的としている。主に重度の肥満患者や肥満に伴う健康リスクが高い場合に検討される。
- カへキシア
慢性的な疾患や悪性腫瘍(癌)などの状態において、体重や筋肉量の異常な減少、栄養不良、体力の低下などが見られる症候群。疾患によって引き起こされる全身性の炎症反応や代謝の異常が原因となり、通常の栄養補給や摂食増進の努力にもかかわらず、体重減少が持続する状態。