2018年大阪府北部地震後に糖尿病の成績が悪化

被災の程度が限定的であっても治療成績に影響する可能性

2020-7-10生命科学・医学系

研究成果のポイント

・2018年の大阪府北部地震において、糖尿病患者さんの治療成績が地震後数ヶ月にわたって悪化していたことを明らかにしました。
・これまで、インフラや交通網への被害が軽微にとどまるような災害での糖尿病患者さんの治療成績への影響についてはよく分かっていませんでした。
・インフラや交通網の被災が軽微にとどまり、社会活動が早期に正常化する場合であっても、糖尿病の治療成績は長期的に影響を受ける可能性があり、注意が必要なことを示唆しています。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の髙原充佳寄附講座助教(糖尿病病態医療学)、下村伊一郎教授(内分泌・代謝内科学)らの研究グループは、2018年に起きた大阪府北部地震(最大震度6弱)の後に、糖尿病患者さんの治療成績が数ヶ月にわたって悪化していたことを明らかにしました。

これまで、インフラや交通網に甚大な被害をもたらすような大災害では糖尿病患者さんの治療成績も影響を受けることが知られていましたが、大阪府北部地震のようにインフラや交通網への被害が軽微にとどまるような災害についてはよく分かっていませんでした。

今回、研究グループは、大阪大学医学部附属病院の糖尿病・内分泌・代謝内科に通院中の糖尿病患者さんの糖尿病の治療成績を示す血液検査項目であるヘモグロビンA1c(エーワンシー) の変化を調査し、数ヶ月にわたって治療成績が悪化していたことを明らかにしました (図1) 。さらに、震度の高い地域に住んでいる患者さんほど、地震後にヘモグロビンA1cの悪化する危険性が高くなっていたことが判明しました。この結果は、インフラや交通網への影響が軽微な地震であっても糖尿病患者さんの治療成績が長期にわたって悪化する可能性を示しています。治療中の糖尿病患者さんでは、震災に際しては、こうした影響にも注意していかねばならないことが示唆されます。

本研究成果は、英文科学誌「Diabetology International」に、5月26日(日本時間)に公開されました。

図1 地震前年の2017年と比較したときの、2018年におけるヘモグロビンA1c 7%以上のリスク(5-6月を1とする)
地震のあった6月以降、ヘモグロビンA1c 7%以上となるリスクが高くなっていた。

研究の背景

糖尿病は血糖値が高い状態が続く病気であり、治療成績が悪いまま放っておくと、透析や失明など様々な合併症を起こす危険性が高くなります。これまで、インフラや交通網、医療サービスに甚大な被害をもたらすような大災害では糖尿病患者さんの治療成績も影響を受けることが知られており、1995年に起きた阪神・淡路大震災でも糖尿病患者さんの治療成績が悪化していたことが報告されています。こうした大震災では、インフラや交通網に甚大な被害が及び、規則正しい食生活が送れなくなったり、十分な医療サービスが受けられなくなり、定期薬の服用が十分できなくなったりすることが原因で、治療成績が悪化すると考えられていました。一方、インフラや交通網、医療サービスの被害が軽微にとどまるような災害で、糖尿病患者さんの治療成績がどのように影響を受けるのかについてはよく分かっていませんでした。

2018年6月18日に起きた大阪府北部地震はマグニチュード6.1で最大震度6弱を観測し、一時的にインフラや交通網にも影響が出ましたが、被害は限定的で地震後数日以内には完全復旧し、医療サービスを含め、社会活動も早期に正常化が図られました。震源に近い大阪大学医学部附属病院でも、地震当日は外来業務が一部制限されましたが、翌日からは通常診療体制となりました。本研究グループは、同院の糖尿病・内分泌・代謝内科に通院中の糖尿病患者さんの地震前後のヘモグロビンA1c(エーワンシー)の変化を分析し、大阪府北部地震後の糖尿病治療成績の変化を調べました。

本研究の成果

研究グループは、2018年に起きた大阪府北部地震(最大震度6弱)の後に、糖尿病患者さんの治療成績が数ヶ月にわたって悪化していたことを明らかにしました。大阪大学医学部附属病院の糖尿病・内分泌・代謝内科に通院中の糖尿病患者さんの地震前後のヘモグロビンA1c(エーワンシー)の変化を分析したところ、地震前年の2017年に比べ、2018年では地震の起こった6月以降、数ヶ月にわたって、合併症を予防するためのヘモグロビンA1cの目標値である7%を超える患者さんが増えていたことが明らかになりました (図1) 。さらに、患者さんの居住地の震度を最寄りの震度観測点から推定したところ、震度の高い地域に住んでいる患者さんほど、地震後にヘモグロビンA1cの悪化する危険性が高くなっていたことが判明しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

近年、耐震技術の発達のおかげで、震度の大きな地震であってもインフラや交通網などの被災が軽微にとどまり、社会活動が早期に正常化する場合も増えています。今回の結果は、インフラや交通網への影響が軽微な地震であっても糖尿病患者さんの治療成績が長期にわたって悪化する可能性を示しています。治療中の糖尿病患者さんでは、震災に際しては、こうした影響にも注意していかねばならないことが示唆されます。

特記事項

本研究成果は、2020年5月26日に英文科学誌「Diabetology International」にオンライン掲載されました。

【タイトル】"Glycemic control of people with diabetes over months after the 2018 North Osaka Earthquake"
【著者名】Hirotaka Watanabe 1 , Mitsuyoshi Takahara 2 , Naoto Katakami 3 , Taka-aki Matsuoka 1 , and Iichiro Shimomura 1
【所属】
1. Department of Metabolic Medicine, Osaka University Graduate School of Medicine
2. Department of Diabetes Care Medicine, Osaka University Graduate School of Medicine
3. Department of Atherosclerosis and Metabolism, Osaka University Graduate School of Medicine

研究者のコメント

髙原充佳 寄附講座助教

糖尿病患者さんの治療成績は生活の中の様々な要因に影響を受ける可能性があります。2018年の大阪府北部地震では、幸いにも、インフラ、交通網、医療サービスへの影響は軽微にとどまりました。しかし、それでも糖尿病患者さんの治療成績が地震後長期間にわたって悪化していたことは糖尿病治療においても大変重要な知見です。地震と治療成績の因果関係は証明できていませんが、日常診療でより良い糖尿病治療を提供していくためには、こうした災害の影響も考慮しなければならないと考えます。

参考URL

医学系研究科 内分泌・代謝内科学HP
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/endmet/www/home/index.html

用語説明

ヘモグロビンA1c(エーワンシー)

糖尿病の治療成績を示す血液検査項目。単位は%(パーセント)。過去1~3ヶ月の平均血糖値を反映し、この数値が高いほど平均血糖値が高いことを示す。ヘモグロビンA1cが7%を超えると、将来、合併症を起こす危険性が高くなるため、日本糖尿病学会では、糖尿病の合併症を予防するためのヘモグロビンA1cの目標値を7%未満と定めている。