SNSによるリスク情報の拡散メカニズムを解明
どのようなリスク情報が拡散されやすく、どのような人が拡散させやすいか
研究成果のポイント
・SNS上でどのようなリスク情報がどのような人によって拡散されやすいかを解明
・従来の理論モデルでは説明できない、SNSにおける情報拡散メカニズムの存在を提示
・虚偽情報の拡散を抑制するには信頼性をきちんと確認する「ハブ」の存在が重要であることを示唆
概要
大阪大学大学院人間科学研究科の三浦麻子教授と大阪電気通信大学情報通信工学部の小森政嗣教授らの研究グループは、SNSでリスク情報が拡散されるメカニズムについて、実際に広く拡散したツイートの伝達経路を追跡し、拡散に影響を及ぼすリスクのタイプと拡散に加担しやすい利用者の特性を明らかにしました。
SNS上に利用者同士のつながりをあまり持たない利用者は、リスクのタイプにかかわらず多くのリスク情報を拡散させる傾向があったのに対して、多くのつながりを持つ利用者は、全体としてはリスク情報をあまり拡散させない一方で、「恐ろしさ」が強く感じられる情報については拡散させやすい傾向があることが示されました。
本研究成果は、日本心理学会が刊行している国際学術誌「Japanese Psychological Research」に2019年12月27日(金)(日本時間)に公開されました。
研究の背景
災害大国と呼ばれる日本では、大きな事故や地震などの災害が発生するたびに、インターネット上、特にSNSで被災状況や被災者支援のための情報など、様々なリスク情報が大量に飛び交うことについて賛否両論が渦巻きます。SNSは従来の「クチコミ」より圧倒的に拡散力が強いので、悪意にもとづいて発信される虚偽情報(デマ)に翻弄される人を増やしてしまうのは避けるべき事態でしょう。実際のところは「デマばかりが溢れている」わけではないのですが、結果的に間違いだと判明するような不確実な情報が少なくないのは事実です。特にリスク情報は、その真偽が個人や社会に大きく影響します。
研究グループは、SNSでのリスク情報の拡散過程は、これまでに提案されてきた情報伝播に関する理論モデルを当てはめるのでは解明できないと考えました。例えば、拡散量は情報の重要さと曖昧さによって決まるとする「うわさの公式」は、1対1のやりとりの検討が多く、SNSのような不特定多数の人が集う空間における情報拡散を十分には説明できませんし、情報伝播過程を感染症の伝染になぞらえるSIRモデルも、拡散を担う利用者がもつ周囲の人々とのつながりの影響をまったく考慮していないからです。
そこで本研究では、こうした課題を解決し、SNS上ではどのようなリスク情報が拡散されやすく、どのような人が拡散させやすいかを解明するために、リスクのタイプ(リスク情報がどのような特性をもつか)と利用者個人のネットワーク特性(SNS上でのつながりの豊かさ)に注目しました。
研究の手続きと結果
本研究では、SNSの代表例としてTwitterを対象とし、近年Twitter上で実際に拡散したリスク情報の事例を分析しました。Twitterで情報を拡散させる手段は「リツイート」です。
具体的に分析対象としたのは、Twitterに投稿された日本語ツイートのうち、(1)疾病・自然災害・放射能災害に関するリスク情報が含まれている、(2)50回以上リツイートされている、の2条件に当てはまる10個のツイートです。
リスクのタイプは、人間が何らかの「リスク」をどう捉えるかという認知モデルの枠組みとしてよく用いられているSlovic(1987)の2要因モデルにもとづいて分類しました。その要因は「未知性」と「恐ろしさ」です。Web調査会社に委託して、20~69歳までの一般成人で日常的にTwitterを利用している人500名に協力を求め、分析対象とする10個のツイートについて、未知性(発生原因や被害が未知数であること)と恐ろしさ(コントロール不能で重大な結果を招くこと)をどう感じるかを6段階で評価させました。評価結果を2次元平面にプロットしたのが 図1 です。
利用者個人のネットワーク特性は、フォロー/フォロワー関係にもとづいて2側面を同定しました。1つは中心性(Centrality)で、フォロー数とフォロワー数の合計を指標としました。もう1つは相互性(Mutuality)で、お互いにフォローし合っている利用者の割合(相互フォロー率)を指標としました。
そして、分析対象とした各ツイートについて、Twitter上での拡散過程を次のような手続き( 図2 参照)で調べました。投稿者(AUTHOR)からスタートしてその投稿者をフォローしている利用者をたどり、そのツイートをリツイートしたかどうかによって利用者を「拡散者」(RTer)か「非拡散者」(non-RTer)に区別しました。拡散者については2段階(リツイートをリツイートした人まで)たどりました。
どのような利用者がリスク情報を拡散させやすかったを、ツイートに含まれるリスクのタイプを考慮して分析(ロジスティック重回帰分析)したところ、次のことがわかりました。まず、利用者のネットワークの中心性と相互性は、ともに低い方がリスク情報を拡散させやすいことがわかりました。また、相互性とリスクの「恐ろしさ」の交互作用効果が有意で、相互フォロー率の高い人は「恐ろしさ」が強く感じられるリスク情報を拡散させやすいことがわかりました( 図3 参照)。
これらのことから、SNSでのリスク情報拡散メカニズムには、(1)SNS上のつながりから孤立気味の利用者が、様々なリスク情報を拡散することで情報交換の活性化を意図したもの、(2)SNS上に強固なつながりを持つ利用者が、自分が感じた恐ろしさを伝達することを意図したもの、という2つの系統があることが示されました。
図1 Slovic(1987)の2次元にもとづくリスクのタイプ
図2 分析対象としたツイートの利用者による拡散過程
図3 ネットワークの相互性と恐ろしさがリスク情報拡散に与える影響
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、SNSによるリスク情報の拡散メカニズムは、従来の情報拡散に関するモデルでは説明できず、利用者のネットワーク特性によって異なる可能性が示されました。「恐ろしさ」の強いリスク情報が、相互フォロー率の高い「ハブ」的な利用者によって拡散されていたことを考えれば、「ハブ」的な利用者には、拡散するかどうかを判断する際に真実性の検証をより厳格にすることが求められるでしょう。またこのことは、警察や自治体など一次情報を有する情報源が積極的にリスク情報を発信し、それを「ハブ」が拡散することで、より多くの真実情報を拡散できる可能性をも示唆しています。
特記事項
本研究成果は、2019年12月27日(金)に日本心理学会が刊行する国際誌「Japanese Psychological Research」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Spread of risk information through microblogs: Twitter users with more mutual connections relay news that is more dreadful.”
著者名:Masashi Komori, Asako Miura, Naohiro Matsumura, Kai Hiraishi, and Kazutoshi Maeda
なお、本研究は、日本学術振興会科学研究費基盤研究(B)25285181「ソーシャルメディアによる情報伝播過程と社会的影響:大規模データに基づく実証的研究」の一環として行われました。
参考URL
大阪大学 大学院人間科学研究科 三浦研究室
http://team1mile.com/asarinlab/