AIアシスタントは 透明性>性能>持続可能性 で選ばれる
消費者の志向による重視内容の違いも発見
研究成果のポイント
概要
大阪大学国際教育交流センターの井奥智大特任助教(常勤)、関西大学総合情報学部の宋財泫准教授、大阪大学大学院人間科学研究科の綿村英一郎准教授の研究グループは、Siri (Apple)やAlexa (Amazon)など、ユーザーの音声を認識し、それに対して応答する「AIアシスタント」を、日本の消費者がどのように選択しているかを明らかにしました。調査の結果、日本の消費者はAIアシスタントを選ぶ際に、持続可能性よりも性能を重視し、性能よりも透明性を重視することが確認されました。また、未来志向の消費者は現在志向の消費者より持続可能性を重視していること、内的帰属傾向のある消費者は外的帰属傾向のある消費者より透明性を重視していることもわかりました。本研究成果は、米国科学誌「Big Data & Society」に10月29日に公開されました。
図1. 本研究の実験課題イメージ。
研究の背景
AIはさまざまな分野で広く利用されています。Amazon AlexaといったAIアシスタントも日常生活で役立つツールとして普及しています。一方、AIを利用することで判断にバイアスがかかることや、AIの利用に伴いCO₂排出量が増加することが懸念されています。こうした問題を踏まえ、欧州連合や総務省は持続可能で透明性の高いAI(環境への影響が小さく、アルゴリズムによる決定プロセスが明確なAI)の開発を推進しています。
しかし、性能が落ちたとしても、消費者は持続可能で透明性の高いAIを利用しようと思うのでしょうか。透明性と性能は時にトレードオフの関係にあることが指摘されており、例えばシンプルでわかりやすいAIを用いれば透明性は高まるものの、問いかけに対する回答が不十分になるかもしれません。そこで、本研究では消費者がAIアシスタントを選ぶ際に、性能よりも透明性や環境への影響を優先するかどうか、コストといった他の特徴も含めて調査し、また、そのような選好に個人差があるのかも調べました。
研究の内容
研究グループはコンジョイント分析を応用した実験を実施しました(日本人833名)。実験では、2つのAIアシスタントの中から1つを選ぶという9つのプロファイルをランダムに提示しました(図1)。AIアシスタントは以下4つの特徴で異なっていました:
1.品質(満足度89%、94%、99%)
2.透明性(不透明、低水準、高水準)
3.エネルギー消費(電球1h、3h、5hの消費)
4.月額費用(無料、300円、600円)
また、個人差を把握するために、物事の成否を内的(自分自身)または外的要因にどれくらい帰属させるか(統制の所在)と、短期的なことよりも長期的なことをどれくらい重視するか(未来志向)についても回答を求めました。
その結果(図2)、参加者はAIアシスタントの満足度が高いほど、そのAIアシスタントを選ぶ確率が高くなりました。また、エネルギー消費が少ないほど選ばれる確率が高かったものの、満足度ほどではありませんでした。興味深いことに、透明性が高いAIアシスタントが最も選ばれやすく、特に透明性が高い場合、63%の確率で選ばれました。これらの結果は、AIアシスタントを選ぶ際に、参加者が性能よりも透明性を重視するものの、持続可能性よりも性能を重視したことを示しています。
個人差については、統制の所在によって透明性に対する選好に差が見られました(図3)。内的に帰属する(物事の原因を自分自身に求める)参加者は、外的に帰属する参加者より透明性の高いAIアシスタントを選ぶ傾向がありました。また、未来志向か現在志向かによって持続可能性に対する選好に違いが確認され(図4)、未来志向の参加者は現在志向の参加者よりエネルギー効率の高いAIアシスタントを選びました。
図2. 消費者が重視するAIアシスタントの特徴。
図3. 消費者が重視するAIアシスタントの特徴:統制の所在による違い。
図4. 消費者が重視するAIアシスタントの特徴:未来志向による違い。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果は日本におけるAIアシスタントの開発に関して示唆を与えるものです。消費者がAIアシスタントを選ぶ際に、透明性は性能よりも重視され、性能は持続可能性よりも重視されることを示しました。これは企業がAI技術を開発する際に、単に高い性能を追求するだけでなく、透明性や持続可能性を考慮した設計が求められることを意味します。ただし、2点注意が必要です。まず、持続可能性に対する選好は実質的には弱いものでした。これは日本人の環境問題への関心の低さを反映しているのかもしれません。また、透明性や持続可能性以上にコストに対する選好が強いことを踏まえれば、消費者の選択だけに頼るのは不十分です。倫理的で環境に優しいAIを作るためには、政府や企業が積極的に関与し、AI開発が正しい方向に進む政策を明確にすることが重要と考えられます。
本研究は消費者選好の個人差を示した点でも意義があります。例えば、物事の原因を自分自身に求める傾向の強い人は透明性の高いAIを好む傾向があり、透明性を確保することによりこうした消費者のニーズを満たすことができます。また、未来志向の人々が環境に優しいAIを好むことが分かりました。これらの結果は消費者の個性に合わせたAIシステムが必要であることを示しています。
特記事項
本研究成果は、米国科学誌「Big Data & Society」(オンライン)に10月29日に掲載されました。
タイトル:“Trade-offs in AI assistant choice: Do consumers prioritize transparency and sustainability over AI assistant performance?”
著者名:Tomohiro Ioku, Song Jaehyun, and Eiichiro Watamura
DOI: https://doi.org/10.1177/20539517241290217
参考URL
井奥智大 特任助教(常勤) 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/115be21ff0838dff.html?k=%E4%BA%95%E5%A5%A5%E6%99%BA%E5%A4%A7
宋 財泫 関西大学 総合情報学部 准教授 研究者詳細
https://kugakujo.kansai-u.ac.jp/html/100000783_ja.html
綿村英一郎准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/7d604ff9a5af238f.html?k=%E7%B6%BF%E6%9D%91