\ストレスは感じやすいが、周囲を思いやって仕事ができる!/ 企業で働くHSPの特性を解明
誰もが働きやすい職場環境をデザインするために
研究成果のポイント
- 環境刺激に対して敏感に反応しやすい人(HSP※1)について、企業で働く人を対象に、職場でのストレス負荷を調査
- HSP特有のストレスに関わる人格特性を考慮しても、企業で働くHSPは比較的ストレスを感じやすい傾向があることを解明
- 他方、HSPは「同僚に共感しやすい=わかってもらいたいという人間の欲求を満たし、周囲と協力して仕事を進めることができる」という企業にとってポジティブに作用する側面も発見
- 今回の調査でHSPに該当する社会人は約26%であった
- 企業でHSP研究を進めることにより、健康と福祉を享受できる職場環境デザインへ応用が期待できる
概要
大阪大学国際教育交流センターの井奥智大特任助教(常勤)、大学院人間科学研究科の綿村英一郎准教授の研究グループは、環境刺激に対して敏感に反応しやすい人(HSP)について、企業で働く人を対象に調査を行い、HSPが職場で比較的ストレスを感じやすい傾向があること、一方で、「同僚に共感しやすい」という企業にとってポジティブに作用する側面を有することを明らかにしました。
これまで主に児童から大学生までを対象として、同様の研究が行われていますが、企業で働く社会人を対象とした研究はありませんでした。また、先行研究では、悲観的といったHSPの人格特性はあまり考慮されていませんでした。企業で働く社会人を対象としてHSPが職場でストレスを感じやすいことを示したのは本研究が初めてです。
HSPの理解とサポートは企業環境デザインにも関わる問題であり、本研究成果は全ての従業員の健康と福祉につながりうると期待されます。
本研究成果は、「応用心理学研究」に7月31日に公開されました。
図1. 職場でストレスを抱え込む人のイメージ。
研究の背景
職場で身近にストレスを抱え、悩んでいる人はいませんか?あなたはその人がただ神経質、または悲観的なだけと思うかもしれません (図1)。しかし、ストレスの捉え方は人によって異なります。その人をサポートするためには、ストレスを感じやすい人の特性を理解することが重要です。
心理学ではそのような特性の理解に役立つ研究が行われています。その研究テーマの1つが環境刺激に対し敏感に反応しやすい人を指すHSPです。HSPはその繊細さから、HSPでない人と比較するとストレスを感じやすいと考えられています。
主に大学生などを対象とした研究でこの考えを裏付ける結果が得られているものの、企業で働く社会人を対象とした研究はさほど多くありません。Evers et al. による先行研究(International Journal of Stress Management 2008) は社会人を対象としているものの、悲観性といった他の人格特性を考慮していませんでした。また、ストレスを抱えやすいというようなHSPのネガティブな側面ばかりに焦点が当てられ、HSPが社会や所属組織にもたらすポジティブな側面にはあまり目を向けていませんでした。
研究の内容
研究グループは、日本国内の企業に勤務している18~81歳の社会人296名を対象に調査を実施して、HSP特性と職場でのストレスの関係を調べました。
その結果、まず、本調査参加者の約26%がこのHSP特性の高い社会人に当てはまるとの結果が得られました。
また、HSP特有の楽観性や悲観性を考慮しても、HSPの特性が高い社会人ほど、疎外されていると感じやすく、ストレスを感じやすい傾向があることが示されました (図2)。
さらに、HSPの特性が高い社会人ほど、同僚など他の人に共感しやすいことも示唆されました (図3)。これは、同僚など周囲の人と協調して仕事を進めることができるという意味で、職場にポジティブに作用しうる点です。
図2. HSP特性とストレスの関係
図3. HSP特性と共感の関係。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
職場でのストレスは、職務への不満、感情的疲労などが根底にあると考えられ、早期離職などの原因にもなりえます。企業ではメンター制度などの対策が取られていますが、ストレスの捉え方が個人によって異なるため、ニーズに合ったサポートが提供されているとは限りません。本研究成果のような実証的な知見により、ストレスを感じやすい人々の特性を理解し、彼らが求めるサポートを明らかにできれば、ストレスが原因の離職を防ぎ、健康と福祉を享受できる職場環境デザインに役立つと期待されます。
特記事項
本研究成果は、「応用心理学研究」に7月31日に掲載されました。
タイトル:“企業で働くHighly Sensitive Person はストレスを感じ、共感しやすいか”
著者名:井奥智大, 綿村英一郎
DOI:https://doi.org/10.24651/oushinken.50.1_11
参考URL
SDGsの目標
用語説明
- HSP
Highly Sensitive Personの略。米国の心理学者であるエレイン・N・アーロン博士が提唱した心理学的概念で、良くも悪くも環境の影響を受けやすい性質を生まれ持った人のこと。全人口の約30%、10人に3人はHSPと考えられている。