生命科学・医学系

2019年2月28日

研究成果のポイント

・ステロイドは様々な疾患で治療薬として用いられる一方、脂肪肝やインスリン抵抗性を引き起こし、糖尿病を発症させるといった副作用がある。
・脂肪細胞においてステロイドの受容体であるグルココルチコイド受容体を除去したマウスでは、健康的肥満が誘導され、ステロイドによる脂肪肝やインスリン抵抗性が改善した。
・本研究成果を発展させることにより、ステロイド糖尿病に対する新たな創薬につながることが期待される。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の下村伊一郎教授、大月道夫講師、奥野陽亮助教、林令子大学院生(内分泌・代謝内科学)らの研究グループは、ステロイドによって生じる糖尿病等の代謝異常に脂肪細胞のグルココルチコイド受容体※1が寄与することを明らかにしました。

ステロイドはアレルギー性疾患など様々な疾患の治療に用いられる薬ですが、その副作用として糖尿病を始めとした代謝異常を引き起こすことが知られています。しかし、そのメカニズムは不明な点が多く、解明が待たれていました。

研究グループは、ステロイドの受容体であるグルココルチコイド受容体に着目しました。脂肪細胞特異的にグルココルチコイド受容体を除去した遺伝子改変マウスに対してステロイドを投与し解析したところ、脂肪肝やインスリン抵抗性が改善していることが明らかになり、健康的肥満が誘導されることがわかりました(図1)。本成果により、ステロイドによって代謝異常の副作用が起こるメカニズムの一端が明らかとなりました。これにより、ステロイド糖尿病に対する新たな創薬につながることが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Endocrinology」にて1月15日にオンライン公開され、3月1日(3月号)に掲載されました。

図1 ステロイドの脂肪細胞グルココルチコイド受容体への作用
ステロイドが脂肪細胞のグルココルチコイド受容体に作用すると、健康的肥満が抑制され、脂肪肝や糖尿病・インスリン抵抗性を引き起こす。

研究の背景

これまで、ステロイドはアレルギー性疾患といった様々な疾患の治療薬として用いられる一方、副作用として糖尿病などの代謝異常や脂肪肝などを引き起こすことが知られていました。しかし、ステロイドは全身に作用するため、どの臓器の影響でこのような副作用が生じるかは不明でした。そこで研究グループは、ステロイドの脂肪細胞への作用に注目し、研究を行いました。

本研究の成果

研究グループは、ステロイドの受容体であるグルココルチコイド受容体に着目し、脂肪細胞特異的なアディポネクチンプロモータCre※2を用いて、脂肪細胞特異的にグルココルチコイド受容体を除去した遺伝子改変マウスを作成しました。この遺伝子改変マウスに対してステロイドを投与したところ、脂肪組織が肥大する一方、肝臓への脂肪蓄積が減少し、インスリン抵抗性が改善されたことから、健康的肥満が誘導されていることがわかりました。

次に、健康的肥満が誘導されるメカニズムを、脂肪細胞特異的にグルココルチコイド受容体を除去した遺伝子改変マウスを用いて調べたところ、以下のことが明らかとなりました。

1. 脂肪細胞では、コラーゲンがターンオーバーすることにより脂肪が蓄積していきます。脂肪細胞特異的にグルココルチコイド受容体を除去した遺伝子改変マウスでは、遺伝子改変していないマウスと比較してコラーゲンに関連する遺伝子の発現が上昇していました。つまり、グルココルチコイド受容体によってコラーゲンに関連する遺伝子の発現が抑制され、これによって脂肪細胞への脂肪の蓄積が妨げられていることが示唆されました。

2. 脂肪細胞は、その前駆体である前駆脂肪細胞を経て成熟化します。遺伝子改変マウスでは、前駆脂肪細胞の増殖が促進していました。つまり、ステロイドは、脂肪細胞のグルココルチコイド受容体によって、前駆脂肪細胞の増殖を抑制していることが示唆されました。

3. ATGL※3は脂肪を分解する機能を持っています。遺伝子改変マウスでは、このATGLの遺伝子の発現が低下していました。つまり、グルココルチコイド受容体は、ATGLによって脂肪を分解していることが示唆されました。

4. グルココルチコイド受容体の発現が上昇すると、時計遺伝子Per1の発現も上昇することが本研究結果からわかりました。siRNAを用いてPer1をノックダウンさせると糖取り込みが上昇することから、グルココルチコイド受容体はPer1を介して糖取り込みを抑制することを示唆しました。

以上の結果から、脂肪細胞におけるグルココルチコイド受容体の役割として、脂肪細胞への脂肪蓄積の抑制、前駆脂肪細胞の増殖抑制、脂肪の分解、糖取り込み抑制を行っていることを示しました。これらにより健康的な肥満が抑制され、脂肪肝やインスリン抵抗性といった代謝異常が生じ、糖尿病を引き起こすことを明らかにしました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、多様な疾患の治療薬として使用されるステロイドによって糖尿病が起こるメカニズムの一端を明らかにしました。ステロイド糖尿病に対する新たな創薬につながることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、米国科学誌「Endocrinology」にて1月15日にオンライン公開され、3月1日(3月号)に掲載されました。
【タイトル】“Adipocyte GR inhibits healthy adipose expansion through multiple mechanisms in Cushing’ ssyndrome”
【著者名】 Reiko Hayashi1, Yosuke Okuno1#, Kosuke Mukai1, Tetsuhiro Kitamura1, Tomoaki Hayakawa1, Toshiharu Onodera1, Masahiko Murata1, Atsunori Fukuhara1, Ryoichi Imamura2, Yasushi Miyagawa2, Norio Nonomura2, Michio Otsuki1# and Iichiro Shimomura1 (# 責任著者)
【所属】
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学
2. 大阪大学 大学院医学系研究科 泌尿器科学

【研究者のコメント】林令子大学院生

ステロイドは古くから使用される治療薬であるが、治療目標以外の臓器にも作用し、様々な副作用が問題となることが多い。今回は、脂肪細胞における作用が明らかとなったが、今後各臓器への作用がそれぞれ解明されることで、ステロイド治療薬の発展につながる可能性が考えられる。

用語説明

※1 グルココルチコイド受容体
ステロイド(グルココルチコイド)が結合する受容体。結合後、核内へ移行し、様々遺伝子の転写活性を調節する。

※2 アディポネクチンプロモータCre
脂肪細胞特異的に発現するアディポネクチン遺伝子の転写制御下にCre遺伝子を発現する遺伝子改変マウス。

※3 ATGL
Adipose triglyceride lipase の略称。脂肪細胞における中性脂肪分解の主に第一段階を触媒する酵素。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/endmet/www/home/index.html

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