化学×ロボット:独自開発の自動評価装置で 低毒な次世代太陽電池材料を短時間で発見!

化学×ロボット:独自開発の自動評価装置で 低毒な次世代太陽電池材料を短時間で発見!

2023-10-25工学系
工学研究科教授佐伯昭紀

研究成果のポイント

  • 次世代太陽電池の材料化学研究で、ロボットを用いた独自の自動評価装置を初めて開発
  • 手動で時間とコストもかかっていた測定・解析が、約6分の1の時間で完全自動化、高精度化
  • 低毒かつ高効率な次世代太陽電池の研究開発に応用

概要

大阪大学大学院工学研究科の佐伯昭紀教授、大学院生の西川知里さん(当時、博士前期課程)らの研究グループは、通常は手動で行う測定装置とロボットを組み合わせ、光物性マイクロ波伝導度、光学顕微鏡像を自動で測定できるシステムを独自に開発しました。また、このシステムを用いて、有毒元素を含まない次世代太陽電池材料をスピーディーに探索し、その性能向上に成功しました。

現在実用化されている太陽電池はシリコンやガリウムを含む無機半導体で作られていますが、さらなる低価格化や軽量化を目指して、溶液塗布プロセスで作製できる次世代太陽電池の開発が世界中で進められています。特に日本発のペロブスカイト太陽電池は、変換効率もシリコン太陽電池に匹敵するまで向上し、実用化に近づいていますが、有毒元素である鉛を含むという課題があります。

一方で、比較的低毒なビスマスやアンチモンといった元素から構成される次世代太陽電池の開発も進められています。しかし、その溶液塗布プロセスでは元素組成、添加剤、熱処理温度など多くのプロセスパラメータを検討する必要があり、加えて太陽電池素子作製には多くの時間とコストがかかるため、研究開発はあまりすすんでいませんでした。

今回、佐伯教授らの研究グループは、太陽電池性能とよく相関する光伝導度信号を測定できる独自のマイクロ波伝導度法を、ロボットを用いた自動評価システムと融合することで、簡便・高速・高精度に次世代太陽電池材料のスクリーニングを可能にするオンリーワンの装置開発に成功しました(図1)。さらに、太陽電池薄膜の光吸収・発光および光学顕微鏡測定もシステムに組み込むことで、多角的でスピーディーな評価を可能にしました。

このシステムを用いて576条件のセシウム・ビスマス・アンチモン・ヨウ素(Cs-Bi-Sb-I)からなる非鉛太陽電池の性能を調査した結果、新たに発見した材料プロセス条件で、変換効率を比較対象の6倍へ向上させることに成功しました。この変換効率そのものは鉛ペロブスカイト太陽電池にはいまだ及びませんが、従来は手動で約30分かかった測定が完全自動で約5分に短縮でき、より多くの材料やプロセスを検討することができるようになることから、今後、さらに変換効率の高い材料の探索につながることが期待できます。また今回、得られたデータを機械学習や統計処理で解析した結果、高効率太陽電池を実現させるための実験的な指針を得ることにも成功しており、研究の加速が期待できます。

本研究成果は、米国化学会誌「JACS Au」に、10月24日(火)14時(日本時間)に公開されました。

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図1. ロボットでマイクロ波伝導度自動測定を行っている様子。

研究の背景

溶液塗布プロセスで作成可能で、低価格化・軽量化が期待できる鉛ペロブスカイト太陽電池は、従来の無機太陽電池に代わる次世代太陽電池として実用化研究が進められています。このペロブスカイト太陽電池は、2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力教授らによって色素増感太陽電池の光吸収層として初めて報告され、この14年でシリコン太陽電池の変換効率とほぼ同等の26%まで向上しています。しかし、有毒な元素である鉛を含む点は懸念事項であり、非鉛で比較的低毒な元素からなる太陽電池の研究も進められています。ビスマスやアンチモンを含む半導体はその候補材料の中の一つですが、多くの場合で変換効率は1%程度であり、溶液中の原料組成や溶液塗布プロセス(溶媒、添加剤、熱処理温度など)の検討はほとんど手付かずの状態でした。

これら多くのプロセスパラメータに加え、塗布太陽電池の作製と評価には非常に多くの時間とコストが必要です。佐伯教授らの研究グループではこれまで、太陽電池性能と相関する信号を高速かつ簡便に測定できるマイクロ波伝導度法を開発しており、太陽電池研究で効果を発揮してきました。しかし、これまでは手動で測定を行っていたため、検討できる材料や条件は限られており、また、他の要因が性能に影響する場合には有効性が限定的になっていました。

研究の内容

そこで本研究では、協働ロボットを用いた自動評価装置を独自開発し、大幅な測定時間の短縮(従来比約6分の1)と高精度化(従来比5倍)に成功しました(図2)。手間と時間の短縮によって検討できる条件や材料が飛躍的に増加しただけでなく、研究者がより創造的な仕事に集中できるメリットもあります。

この自動評価装置は上記のマイクロ波伝導度測定に加え、太陽電池薄膜の物性として重要な光吸収と発光スペクトルの測定、および薄膜表面の形態を観察できる光学顕微鏡測定も組み込みました。測定した光学顕微鏡写真は、濃淡のヒストグラム解析、高速フーリエ変換解析、粒子解析などを自動的に行うことで、1つの薄膜試料から多くの高精度で均一な実験データを取得できます。装置の制御・解析ソフトも独自に開発しており、世界に一つだけの評価手法です。

この自動評価装置を用いて、セシウム・ビスマス・アンチモン・ヨウ素(Cs-Bi-Sb-I)からなる非鉛太陽電池の組成、添加剤、熱処理温度を検討しました。具体的には、12種類の組成比、4種類の添加剤、3種類の添加剤濃度、および4種類の熱処理温度の組み合わせで576条件(=12×4×3×4)の薄膜試料を作製しました(図3a)。自動測定の結果を基に、このうち40条件の太陽電池を作製して変換効率を評価したところ、添加剤なしで低い熱処理温度で作製した比較対象の素子の変換効率が0.35%であったのに対し、新たに探索した材料プロセス条件で2.36%へと向上することに成功しました(約6倍の向上)(図3b)。  

さらに、得られた太陽電池変換効率と自動化測定データを機械学習と統計解析で検討した結果、マイクロ波伝導度の信号と光学顕微鏡で得られた濃淡ヒストグラムの標準偏差が、高効率材料プロセスを探索する指針となることを見出しました。実際、高効率な鉛ペロブスカイト太陽電池薄膜を自動評価したところ、この探索指針と合致することが分かり、提案したモデルの妥当性を実証しています。

今回Cs-Bi-Sb-I太陽電池で得られた変換効率2.36%は、鉛ペロブスカイト太陽電池(~26%)と比べるとまだまだ低い値ですが、元素の種類を変えたり、溶液プロセスをより広く探索することで、さらに高効率化できる余地を多く残しています。したがって、本研究で開発した自動評価装置は、今後の研究を加速させることが期待できます。

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図2. (a) 自動測定システムの概略図。(b)自動測定で得られた光物性(光吸収、発光)、マイクロ波伝導度および光学顕微鏡写真の例。

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図3. (a) 作製したCs-Bi-Sb-I太陽電池薄膜(石英基板上に塗布で作製)の写真(約500枚)。(b)比較対象と新プロセスの変換効率の比較。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

ロボットは日本が得意とする産業の一つであり、本自動測定装置の大部分は日本製部品から構成されています。化学は手動で行う実験作業が非常に多い研究分野ですが、今後の日本の研究開発力を向上させる上で多くの実験を自動化することは必要不可欠と考えられます。本研究はその先駆的な成果で、今後さまざまな場面への展開が期待できます。なお、本研究では測定自体は自動化できましたが、さらに高効率化するためには薄膜試料の自動作製や機械学習による実験計画フィードバックが必要です。今後、マテリアルズ・インフォマティクスの発展にも大きく寄与すると考えられます。

特記事項

本研究成果は、2023年10月24日(火)14時(日本時間)に米国化学会誌「JACS Au」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Exploration of Solution-Processed Bi/Sb Solar Cells by Automated Robotic Experiments Equipped with Microwave Conductivity”
著者名:Chisato Nishikawa, Ryosuke Nishikubo, Fumitaka Ishiwari and Akinori Saeki
DOI:https://doi.org/10.1021/jacsau.3c00519

なお、本研究は、JST戦略的創造研究推進事業CREST「未踏物質探索」(JPMJCR2107)、JST未来社会創造事業(JPMJMI22E2)、NEDOグリーンイノベーション基金(JP21578854)および日本学術振興会科学研究費補助金(JP20H05836, JP20H00398, JP22H04541, JP21H00400, JP20H02784)、大阪大学・先導的学際研究機構(ICS-OTRI)の一環として行われ、大阪大学大学院工学研究科 西久保綾佑助教と石割文崇講師の協力を得て行われました。

また、本自動評価システムの稼働動画を以下のYouTubeでも見ることができます。
https://youtu.be/qqHKA41UtRY

参考URL

佐伯昭紀教授の研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/9edffb14f50a9e1f.html

佐伯昭紀教授の研究室ホームページ
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~saeki/cmpc/

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 13 気候変動に具体的な対策を

用語説明

光物性

主に可視光(400~600 nm)と紫外光(300~400 nm)および(近)赤外光(600~1000 nm)領域の光(電磁波)と物質との相互作用に関わる性質(nmはナノメートルで、1 mmの100万分の1)。ここでは特に、光が物質を透過したときに物質に吸収される性質を光吸収、その結果生成した励起状態が元の状態に戻る時に発する光を発光と呼ぶ。

マイクロ波伝導度

マイクロ波は電子レンジやスマートフォンの通信などにも使われている電磁波の一種である。太陽電池材料中で、光吸収によって生成した正負の電荷がマイクロ波と相互作用し、マイクロ波の吸収が起こる。ここでは、光パルスを照射した際に、時間的に変化するマイクロ波の強度をマイクロ波伝導度信号と呼び、電荷の動きやすさや寿命と関係する。

溶液塗布プロセス

従来の無機太陽電池では1000℃以上の高温プロセスを用いるのに対し、次世代太陽電池では室温近くで溶液を塗布(スピンコート、バーコート、インクジェットなど)し、溶媒を揮発させるプロセスによって薄膜を作製できる。その結果、製造コストの縮小やフレキシブル化が可能になる。

ペロブスカイト太陽電池

ペロブスカイトは、自然界にも存在するCaTiO3などの結晶の構造を指している。近年は有機・無機カチオン(A)と無機カチオン(B)・アニオン(X)からなるABX3結晶構造を用いた太陽電池が登場し、ペロブスカイト太陽電池と呼ばれている。

変換効率

太陽電池で光エネルギーを電力に変換する効率。(疑似)太陽光照射下で、電力(電流×電圧)の最大値を、入射太陽光エネルギーで割ることで求められる。

協働ロボット

企業の生産現場では多くのロボットが使用されているが、高速かつ強力な力で動かしているため、安全の観点から人との接触事故が起きないように設計・運用されている。一方、協働ロボットは衝突安全機構の装備や速度・力を制限することで、人と同一空間での協働を可能にしている。

ヒストグラム解析、高速フーリエ変換解析、粒子解析

いずれも画像処理・解析の手法。ヒストグラム解析は色の濃淡の分布解析、高速フーリエ変換解析は画像中にある繰り返し周波数成分の解析、粒子解析は粒子を判別してその数や大きさを解析する手法である。

マテリアルズ・インフォマティクス

計算科学・実験科学・データ科学を融合させ、帰納的あるいは演繹的な材料設計を通じて、求める機能・性能を満たす材料を効率的に探索する学問分野。