\単一の有機半導体でも効率的に光電変換!/有機半導体の励起子束縛エネルギー低減に成功

\単一の有機半導体でも効率的に光電変換!/有機半導体の励起子束縛エネルギー低減に成功

単成分で駆動する新型有機太陽電池・有機光触媒の開発に期待

2024-8-8工学系
産業科学研究所教授家 裕隆

研究成果のポイント

  • 有機半導体において、光から電流への変換過程で妨げとなる励起子束縛エネルギーを低減できる事を実証
  • 単成分の有機半導体での高性能な有機太陽電池や有機光触媒を実現
  • 将来的に、新駆動原理・新デバイス構造に基づいた高性能太陽電池や波長選択型透明太陽電池などの光・電子デバイスの開拓に期待

概要

大阪大学産業科学研究所の陣内青萌助教、家裕隆教授は、大阪大学大学院工学研究科の中山健一教授、佐伯昭紀教授、日本女子大学理学部の村岡梓教授らと共同で、有機半導体分子の薄膜状態での分子会合を強固にする分子デザインを取り入れることで、有機半導体の励起子束縛エネルギーを低減することに成功しました(図1)。

有機半導体は炭素を基盤としたπ共役系の有機分子で構成され、柔軟性や軽量性といった利点のほか、ロール・ツー・ロールなどの印刷プロセスを利用した大面積デバイスの製造が可能であるなど、従来の無機系半導体にない機能的特徴を有しています。研究グループでは、この有機半導体を活性層に利用した有機太陽電池や有機光センサーなどの開発に取り組んでいますが、有機半導体は無機半導体と比較して光エネルギーから自由電荷への変換過程が進行しにくいことが課題でした。有機半導体デバイスにおいては、「光エネルギーによって発生する電子と正孔の対を自由電荷に変換するために必要なエネルギー」である励起子束縛エネルギーが大きいため、光から電流への変換には二種類の有機半導体を組み合わせてヘテロ接合させる必要がありました。

今回、研究グループは、3次元型分子構造の有機半導体に対して、分子積層構造を形成しやすいπ共役骨格を分子デザインに取り入れることで、有機半導体薄膜の励起子束縛エネルギー低減に成功しました。新たに開発した有機半導体は、単一の有機半導体を発電層とする単成分型有機太陽電池や、不均一系有機光触媒としても機能することを見出しています。

本研究成果によって、有機半導体の励起子束縛エネルギー低減に向けた分子デザイン指針が拓かれ、新駆動原理に基づく光・電子デバイスの創出に繋がることが期待されます。

本研究成果は、7月12日(現地時間)にドイツ化学会誌 『Angewandte Chemie International Edition』 にオンライン速報版として公開されました。

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図1. 本研究で開発した有機半導体分子の概要

研究の背景

有機半導体は、有機太陽電池や有機光センサーなど次世代の光・電子デバイスへの応用が期待されています。こういった光・電子デバイスのデバイス特性は、「有機半導体が光エネルギーを受け取って、電流の源である自由電子と正孔を生成する効率」に大きく左右されます。

一般的に、有機半導体はシリコンなどの無機半導体と比較して誘電率が小さいため、光エネルギーを受け取っても、負電荷と正電荷がクーロン引力(=励起子束縛エネルギー)で互いに強く束縛されて分離しにくいことが課題となっていました。有機太陽電池ではこの課題を克服するために、負電荷を帯びやすいn型有機半導体と、正電荷を帯びやすいp型有機半導体をヘテロ接合したデバイス構造が取り入れられています。しかし、有機半導体のヘテロ接合は、エネルギー変換ロスや駆動安定性低下、材料・開発コスト高の原因の一端となっていることから、新視点に基づく有機半導体開発とデバイス構築が望まれていました。

研究の内容

今回、研究グループでは有機半導体の分子会合挙動に着目し、励起子束縛エネルギー低減を焦点とする有機半導体開発に挑戦しました。

本研究では、会合挙動が異なる2つの分子骨格に着目し、この骨格を分子中央部に導入した二種の有機半導体(DBC-RDとTPE-RD)を開発しました(図2)。これらの有機半導体の励起子束縛エネルギーを比較したところ、高い会合挙動を示すDBC-RDが小さい励起子束縛エネルギーを示すことを見出しました。これらの有機半導体薄膜の詳細な比較を通じて、この励起子束縛エネルギーの減少は、薄膜状態でのDBC-RD分子同士の会合に由来するものであることを明らかとしました。

励起子束縛エネルギーが有機半導体の光・電子デバイス機能に及ぼす影響を調べるため、DBC-RDを発電層とする単成分型有機半導体を試作したところ、最大で約6%の量子効率を示しました。さらに、DBC-RDは不均一系有機光触媒としても機能することが明らかとなりました。

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図2. 開発した有機半導体材料の分子構造(上)、単成分有機太陽電池と不均一系有機光触媒の特性評価(下)

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、有機半導体の分子会合挙動が励起子束縛エネルギーに及ぼす影響を明らかとした先駆的研究であるとともに、励起子束縛エネルギーの低減を通じて単成分型有機太陽電池や有機光触媒などの革新的機能が実現可能であることを示した重要な一歩といえます。

本研究成果によって励起子束縛エネルギー低減に向けた分子デザイン指針の一端が明確化されたことで、新視点に基づく有機半導体開発のほか、材料開拓を通じた有機太陽電池の高性能化、ならびに生産性の向上が期待されます。また本研究グループでは、新駆動原理・新デバイス構造に基づいた半透明太陽電池デバイスや光触媒の開拓を推進します。

特記事項

本研究成果は、2024年7月12日(現地時間)にドイツ化学会誌 『Angewandte Chemie International Edition』 にオンライン速報版として掲載されました。

タイトル:“A Dibenzo[g,p]chrysene-Based Organic Semiconductor with Small Exciton Binding Energy via Molecular Aggregation”
著者名:Hiroki Mori, Seihou Jinnai, Yasushi Hosoda, Azusa Muraoka, Ken-ichi Nakayama, Akinori Saeki and Yutaka Ie
DOI:https://doi.org/10.1002/anie.202409964

なお、本研究は科学研究費補助金(20H02814, 20H05841, 20KK0123, 20K15352, JP20H05836, 22H01938, 23H02064, 24H00482)、科学技術振興機構(PMJCR20R1, JPMJMI22I1, JPMJSF23B3, JPMJSP2138)、三菱財団研究助成の一環として行われました。

参考URL

陣内青萌 助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/2136e351e120e473.html

家裕隆 教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/3cc5087df5e9219c.html

家研究室 WEBサイト
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/omm/

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 13 気候変動に具体的な対策を
  • 15 陸の豊かさも守ろう

用語説明

励起子束縛エネルギー

クーロン力によって束縛された電子と正孔の対(励起子)を解離して、自由電荷に変換するために必要なエネルギー。有機太陽電池におけるエネルギー変換効率低下の原因の一つ。

分子会合

2つ以上の分子が分子間力などによって結びつくこと。または、その状態。

π共役系

二重結合と一重結合が交互に連なっている分子構造のこと。

ヘテロ接合

異なる種類の半導体の接合。ここでは、p型有機半導体とn型有機半導体の二層状態または混合状態を指す。

π共役骨格

π共役系で構成される有機分子や、その部分的な化学構造。

量子効率

照射された光(光子)が電流として取り出される割合。