超新星爆発に起因する天体プラズマ乱流を 1000京分の1の極小スケールで実験室に再現

超新星爆発に起因する天体プラズマ乱流を 1000京分の1の極小スケールで実験室に再現

密度界面の流体不安定と磁場増幅現象との相関を明らかに

2021-10-21自然科学系
レーザー科学研究所助教佐野孝好

研究成果のポイント

  • 星の一生の最後に起こる超新星爆発から発せられた衝撃波が、星間の磁場を増幅する物理機構は未解明の謎
  • 大型レーザーを用いた「レーザー宇宙物理学実験」で、この謎を解明
  • 密度が不均一な星間空間の中を伝播する衝撃波を、1000京分の1のミニチュアスケールで再現し、星間磁場の増幅現象を確認
  • 従来は気体や液体で行われていた界面流体不安定実験を、磁場中のレーザープラズマ実験として実施することで、星間プラズマの模擬に成功

概要

大阪大学レーザー科学研究所の佐野孝好助教、坂和洋一准教授、藤岡慎介教授らの研究グループは、同研究所の激光XII号レーザーを活用した「レーザー宇宙物理学実験」を実施し、宇宙空間で起こっている磁場増幅現象の実験的検証に世界で初めて成功しました。激光XII号レーザーのような大型レーザー装置は、宇宙の極限状態を地上実験で模擬することのできる貴重な実験装置です。レーザーを用いた実験的な天文学研究は、従来の観測や理論シミュレーションとは別の第三の手法として、天体現象の解明に大きく貢献すると期待されています。

今回、本研究グループは、超新星爆発に伴う非常に強い衝撃波によって、星間磁場が局所的に増幅されている観測事実を実験室で再現し、その物理機構の解明に取り組みました(図1)。レーザー駆動の衝撃波を密度擾乱と相互作用させることで、星間空間と同等環境の”ミニチュアレプリカ”を実験室に創出することに成功しました。衝撃波の通過によって密度擾乱の振幅が増幅される界面流体不安 定の様子を観察し、さらに流体不安定の成長と磁場増幅との因果関係を明らかにすることで、星間空間における磁場増幅機構を同定しました。

界面流体不安定の実験は、以前から気体や液体を用いて詳しく調べられてきました。しかし、天体プラズマ現象を模擬するためには、(1)外部磁場を含むプラズマを扱うこと、(2)強い衝撃波を発生させること、が不可欠な要素になります。このような条件を満足する実験装置は、大型レーザー以外にはありません。また、衝撃波によって駆動される界面流体不安定の理解・制御は、レーザー核融合の理想的な爆縮過程を実現するための最重要課題とされています。したがって、本研究成果は核融合研究としても非常に意義のある結果であると言えます。

本研究成果は、2021年9月17日(米国時間)に米国科学誌「Physical Review E」(オンライン)に掲載されました。

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図1. (左)かに星雲と呼ばれる超新星残骸(直径はおよそ10光年≒1019 cm)の観測画像。ここに見られる細かな構造の一部分をレーザー実験で再現した。(中)本実験のセットアップの概略図。片面に波板状の凹凸を持つプラスチック薄膜ターゲットを、窒素ガスで満たされた真空チャンバー内に設置する。このターゲットに激光XII号レーザーを照射し、ターゲット中に衝撃波を発生させる。(右)レーザー照射から40ナノ秒後でのターゲットの様子を、計測用の背景光の影として撮像した実験画像(視野の大きさは1 cm以下)。初期には10ミクロン程度の振幅だった凹凸面が、10倍以上に大きく成長して、指のように伸びている様子がきれいに捉えられている。

研究の背景

星間空間には普遍的に磁場が存在しています。星間空間にどの程度強い磁場が存在するかは、そこで起こる星形成現象に多大な影響を及ぼします。星の一生の最後に起こる超新星爆発から発せられた衝撃波が、星間空間を伝播する際に、周囲よりも100倍以上も強い磁場が局所的に発生していることが観測的に知られています。しかしながら、磁場を増幅する物理機構は謎とされていました。星間ガス密度が空間的に分布をもった中を衝撃波が伝播することで生じる乱れ(界面流体不安定の一種でリヒトマイヤー・メシュコフ不安定と呼ばれています)によって強い磁場が生成されることが、理論シミュレーションからは示唆されていましたが、実験的な検証は未だなされていませんでした。

一方、大型レーザー装置でしか作り出せないような高温度・高密度の極限プラズマ状態で、宇宙空間で起こっている天体現象を模擬する「レーザー宇宙物理学」と呼ばれる研究が近年盛んに行われるようになってきました。非常に小さな領域(1ミリメートル以下)・非常に短い時間(10億分の1秒程度)ではあるのですが、調べたい天体と同等または類似した現象を地上の実験室で再現し、天体観測では見ることのできない詳細な計測を行うことで、従来の研究手法とは異なる切り口から天体現象の真実に迫ることができると期待されています。

研究の内容

本研究では、大阪大学レーザー科学研究所にある激光XII号レーザーを用いて、星間空間を伝わる衝撃波と同等の状態を、1ミリメートル以下のスケールに縮小して実験室に再現し、リヒトマイヤー・メシュコフ不安定によって磁場が実際に増幅される様子を、世界で初めて実験的に確認することに成功しました。

実験では、片面を波板状に整形したプラスチック薄膜を星間空間に存在する密度擾乱に見立て、そこにレーザーを照射することで超新星爆発衝撃波に相当する強い衝撃波を発生させます(図1中)。衝撃波通過前から元々存在している弱い磁場を再現するために、薄膜の近くにはネオジム磁石を設置しておきます。波板状凹凸面と窒素ガスとの密度境界面を衝撃波が通過することで、界面の構造が不安定化し、擾乱の振幅が時間に比例して増大していきます。この界面成長の様子は、背景光の影として撮像し、数10ナノ秒というスケールでの時間発展を確認しました(図1右)。さらに、磁場の時間変動を捉える磁気プローブを用いて、擾乱成長に伴い増幅された磁場の兆候を捉えることにも成功しました。

実際の超新星爆発と比べると、およそ19桁も小さいスケール(1000京分の1)での実験結果ですが、物理現象の相似性を正しく考慮することで、星間空間での衝撃波による磁場増幅過程が本研究成果によって実験的に検証できたと考えています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、大型レーザーを用いた地上実験が宇宙の天体現象の解明に貢献することができ、従来の観測や理論シミュレーションに加えて、レーザー実験による天文学の大きな可能性の一例を示すことができました。また、磁場中のプラズマ界面不安定の制御は、レーザー核融合の分野でも重要な課題となっており、本研究成果は将来のエネルギー開発にも寄与できると期待されています。

特記事項

本研究成果は、2021年9月17日(米国時間)に米国科学誌「Physical Review E」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Laser astrophysics experiment on the amplification of magnetic fields by shock-induced interfacial instabilities”
著者名:Takayoshi Sano, Shohei Tamatani, Kazuki Matsuo, King Fai Farley Law, Taichi Morita, Shunsuke Egashira, Masato Ota, Rajesh Kumar, Hiroshi Shimogawara, Yukiko Hara, Seungho Lee, Shohei Sakata, Gabriel Rigon, Thibault Michel, Paul Mabey, Bruno Albertazzi, Michel Koenig, Alexis Casner, Keisuke Shigemori, Shinsuke Fujioka, Masakatsu Murakami, and Youichi Sakawa
DOI:https://doi.org/10.1103/PhysRevE.104.035206

なお、本研究は、大阪大学レーザー科学研究所の大出力レーザー「激光XII号」を用いた成果であり、大阪大学、東京大学、九州大学、早稲田大学、名古屋大学、仏国のLULI、CEAとの国際共同研究として、日本学術振興会 学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金(JP26287147、JP15H02154、JP16H02245、JP19KK0072)、研究拠点形成事業B アジア・アフリカ学術基盤形成型「アジアにおけるレーザー宇宙物理学国際研究教育拠点 (JPJSCCB20190003)」、文部科学省 光・量子飛躍フラッグシッププログラム (Q-LEAP)「光量子科学によるものづくりCPS化拠点(JPMXS0118067246)」、および大阪大学レーザー科学研究所・共同利用研究などの支援のもと実施されました。

参考URL

佐野孝好助教 研究者総覧URL
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/f72a96021e7a3377.html

SDGSの目標

  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 13 気候変動に具体的な対策を

用語説明

超新星爆発

超新星爆発は、太陽の約8倍以上の星が最期を迎えて爆発する現象。その爆発の後に残される天体は、超新星残骸と呼ばれている(図1左)。巨大なエネルギーの解放によって生じた衝撃波は、星間物質の加熱や宇宙線加速などの様々な現象を引き起こしている。

プラズマ

物質を加熱することで得られる固体・液体・気体に次ぐ第4の物質状態。宇宙に存在する観測可能な物質の99%はプラズマと考えられている。また、レーザーを物質に照射することでもプラズマ状態は生成される。

リヒトマイヤー・メシュコフ不安定

例えば、水と油などのように密度の異なる液体の境界面にわずかでも凸凹が存在している場合を考える。その凹凸界面を衝撃波が通過することで界面の形状は不安定になり、界面の歪みが時間と共に増大していく現象をリヒトマイヤー・メシュコフ不安定と呼ぶ。