
ミクロの“刃”が作る極限磁場の世界
ギガ・ガウス級の超高磁場を生む自己組織的レーザー爆縮
研究成果のポイント
概要
大阪大学レーザー科学研究所の村上匡且教授らの研究グループは、レーザーとマイクロ構造体との相互作用を通じて、従来の方式とは全く異なる機構でギガガウス級(数百キロテスラ)の超強磁場を自己発生させる物理原理を提案し数値実験でこれを実証しました。
研究チームは、「内壁に鋸歯状ブレード構造を持つ中空円筒(ブレード付きマイクロチューブ)」(図1参照)を超短パルスレーザーで照射することで、外部磁場を一切用いずに、中心軸上に強力なループ電流と磁場が自己発生することを2次元PICシミュレーションにより実証しました。この「ブレード型マイクロチューブ爆縮(BMI)」と呼ばれる新方式を使うと、電子とイオンが反対向きに渦状に流れ、自己組織的に強磁場が形成されることが明らかになりました。
さらに、解析モデルによって、レーザー強度やブレード数と磁場強度の関係がスケーリング則として求められ、今後の実験的検証や応用展開に向けた見通しが得られています。
本研究は、宇宙ジェットや中性子星表層のような超強磁場環境を実験室スケールで再現可能にする基盤的技術として、さらに将来的には核融合、量子電磁力学(QED)効果の検証、あるいは新たな磁場制御技術への応用が期待されます。
本成果は、2025年7月14日(月)に米国物理学協会の専門誌 Physics of Plasmas に掲載されました。
図1. ブレード型マイクロチューブ爆縮(BMI)のイメージ
研究の背景
これまで超高磁場を実験室で生成する手法としては、あらかじめ存在する外部磁場をプラズマや物質で圧縮する「磁束圧縮法」が主流でした。
たとえばZピンチや磁場付き燃料の圧縮では、初期磁場が必要であり、構造的な制約や実験の難しさがありました。より柔軟かつ簡便に、外部磁場なしで超強磁場を生成する手法の開発が望まれてきました。
図2. ブレード構造によって誘導されるループ電流と、それに伴うギガガウス級磁場の形成機構
研究の内容
本研究では、内壁に鋸歯状ブレード構造を持つマイクロチューブに超短パルスレーザーを照射することで、外部磁場を一切使わずにギガガウス級(109G)の超高磁場を自己生成する新手法を提案・実証しました。レーザーによって駆動された電子・イオンの渦流が構造非対称性と相まってループ電流を誘導し、自己組織的に磁場が形成されます。この現象は2次元PICシミュレーションにより確認され、将来的には磁場核融合やQED実験、宇宙物理模擬などへの応用が期待されます。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本成果は、既存の「磁束圧縮」に依存する手法とは本質的に異なり、「構造が電流と磁場を創る」という自己組織的・自発的な磁場生成の新しい原理を世界で初めて理論提案したものです。
この方式により、初期磁場が不要となるため、ターゲット設計や実験構成が大幅に簡素化され、再現性・安定性にも優れた磁場発生が期待されます。
今後は、核融合・高エネルギー密度プラズマ・QED効果・実験室宇宙物理など、広範な分野における高磁場応用の中核技術となる可能性を秘めています。
図3. (従来の方式)磁束圧縮法
図4. (本研究の方式)周回電流法
特記事項
本研究成果は、2025年7月14日(月)に米国物理学協会(AIP)が刊行するプラズマ物理分野の国際専門誌「Physics of Plasmas」にオンライン掲載されました(2025年現在、同誌は全論文を無料公開しています)。
タイトル:“Gigagauss magnetic field generation by bladed microtube implosion”
著者名:D. Pan, M. Murakami
DOI: https://doi.org/10.1063/5.0275006
なお、本研究は、日本学術振興会(JSPS)並びに(株)関西電力株式会社の補助金のもと行われ、大阪大学 D3センターのスーパーコンピューター「SQUID」を使用して得られました。
