宇宙線加速の新たな理論モデルを構築

宇宙線加速の新たな理論モデルを構築

波のエネルギーを宇宙線エネルギーに変換

2023-4-3自然科学系
レーザー科学研究所助教佐野孝好

研究成果のポイント

  1. 高エネルギー宇宙線の生成機構は未解明である。
  2. プラズマの波による高効率な粒子加速機構を新たに発見し、その理論モデルを構築。
  3. 本粒子加速は宇宙のいたるところで起こっていると考えられ、様々な天体現象における宇宙線生成に関与している可能性がある。

概要

地球には宇宙からやってくる高エネルギー宇宙線が絶えず降り注いでいます。そのような宇宙線を生成する天体がどこにあるのか、またどのように宇宙線を加速しているのかという問題は長年にわたり未解明です。

九州大学大学院総合理工学研究院の諌山翔伍助教・高橋健太修士2年学生・松清修一教授、大阪大学レーザー科学研究所の佐野孝好助教らの研究グループは、2つのプラズマの波(アルフベン波)が対向伝搬する状況に着目しました。互いに逆向きに伝搬している2の波が衝突し、さらにそれらの波の振幅がある閾値を超えていると、これまでにない非常に高効率な粒子加速が起こることを理論・シミュレーションにより示しました。さらに本加速機構が有効に働くための条件や、粒子がどのくらい高エネルギーにまで加速されるのかについて明らかにしました。

本加速機構では、ひとたび対向伝搬するアルフベン波の振幅が閾値を超えると、粒子の初期エネルギーに関係なく、どのような粒子でも短い時間で高エネルギーまで加速されます。また本加速機構では、ほぼすべての波のエネルギーが粒子のエネルギーへと変換され、非常に高効率な波から粒子へのエネルギー変換が起こります。

このような対向伝搬の波の構造は、強力な磁場をもつ中性子星(マグネター)をはじめ、宇宙のいたるところで形成されると考えられ、宇宙線の生成に重要な役割を担っている可能性があります。今後、本研究で確立した理論をもとに様々な天体現象について調査することにより、宇宙線の生成機構の解明につながると期待されます。

本研究成果は2023年3月31日(金)に米国科学誌Astrophysical Journal(オンライン)に掲載されました。

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図1. マグネターの磁力線に沿って対向伝搬する波が衝突し、高効率に粒子を加速する様子。

研究の背景と経緯

地上、或いは地球周辺で観測される宇宙線にはとてつもなく高いエネルギー(>1015.5 eV) をもつものがあります。そのような高エネルギー宇宙線はエネルギーが大きすぎて銀河系の磁場では閉じ込めることができないため、銀河系外からやってきていると考えられています。しかし、高エネルギー宇宙線がどこで、どのように生成されるのかについては未解明で、宇宙・天体物理学の中でも最も重要な未解決問題のひとつとなっています。高エネルギー宇宙線の生成現場として有力な候補天体や天体現象はいくつかあり、超新星爆発、活動銀河核、マグネター、銀河団、ガンマ線バーストなど様々です。これらの中には、大振幅のプラズマの波が宇宙線の生成に深く関与していると考えられているものもあります。その一例として、非常に強力な磁場を持つマグネターでは、宇宙線のエネルギー源はマグネターのもつ強大な磁気エネルギーであるとされており、マグネター表面で星震(地球でいう地震)が起こると、マグネター磁気圏内に大振幅のアルフベン波が励起されると考えられています。しかしながら、どのようにして波のエネルギーが宇宙線のエネルギーに変換されるのか、という点については未解明のままです。

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図2. マグネターから高エネルギー宇宙線が放出される様子(NASA’s Space Goddard Space Flight Center提供)。

研究の内容と成果

本研究では波から粒子へのエネルギー変換機構として、2つのアルフベン波が対向伝搬する状況に着目しました。図3(a)、 (b)は対向伝搬するアルフベン波(振幅は閾値以上)が衝突する様子を示した数値シミュレーションの結果です。波が衝突すると(τ=392)、赤点で示された粒子(イオン)のエネルギーが劇的に上昇していることがわかります。この時多くのイオンは、初期のエネルギーに関係なくごく短い時間の間に加速されます。したがって非常に高効率な波からイオンへのエネルギー変換が起こります。図3(c)は初期(τ=0)に与える波の振幅を変えた時に、加速後のイオンのエネルギーが全エネルギーに占める割合を示しています。波の振幅が閾値を超えるとイオンの獲得エネルギーは急激に上昇し、全体の70-80%を占めます。我々は、この閾値と、到達可能な粒子の最大エネルギーを理論的に導出しました。

以上述べたような状況は、例えば図1のようにマグネターの磁力線を伝わる2つの波が衝突する場合や、1つの波が磁力線の根元で反射し、それが対向伝搬波として衝突する場合が考えられます。またそのような境界がなくても、1つの大振幅の波が非線形相互作用により崩壊する過程でも同じ状況が発生します。したがって本研究で示した粒子加速機構は、様々な天体現象における宇宙線生成に関与している可能性があります。

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図3. 数値シミュレーション結果。
(a)初期τ=0と(b)τ=392の時の波のイオンのエネルギーの空間分布と波の電場成分の空間波形。ここでは波の振幅は閾値以上(bw=0.6)であり、背景磁場B0を空間x方向に印加している。(c)波の振幅(bw)を変えた時の、最終状態における全体に占めるイオンのエネルギーの割合の変化。 bw=0.49が理論的な閾値。

今後の展開

本研究ではまず単純な1次元系により宇宙線加速機構の新たな理論モデルを構築しました。今後は本研究で確立した理論をもとに、様々な天体現象で起こる粒子加速について調査し、高エネルギー宇宙線の生成機構を明らかにします。また、多次元での数値計算も必要になります。これらと同時に、高強度レーザーを用いて本モデルを実験室で検証し、粒子加速器として応用することも構想されています。

特記事項

【論文情報】
掲載誌:Astrophysical Journal 946, 68
タイトル:Acceleration of relativistic particles in counter-propagating circularly polarized Alfvén waves
著者名:S. Isayama, K. Takahashi, S. Matsukiyo and T. Sano
DOI: 10.3847/1538-4357/acbb6d

本研究は九州大学、大阪大学との共同研究として、日本学術振興会 学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金 日本学術振興会 学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金(JP22K14020、JP22H01287、JP21K03500、JP20H00140)、研究拠点形成事業 B アジア・アフリカ学術基盤形成型「アジアにおけるレーザー宇宙物理学国際研究教育拠点 (JPJSCCB20190003)」、および大阪大学レーザー科学研究所・共同利用研究の支援のもと実施されました。

用語説明

宇宙線

宇宙を飛び交う高エネルギーの粒子や放射線の総称である。

アルフベン波

磁場のあるプラズマ中で、磁気張力を復元力として磁力線に沿って伝わる波。波の振動方向は進行方向に垂直な横波である。

強力な磁場を持つ中性子星(マグネター)

質量の重い恒星(太陽のように自ら光りを出して輝く天体)が寿命を迎えて、超新星爆発を起こした後に、中性子が非常に密に集まった中性子星ができる。その中でも特に、1015 G (ガウス)以上の強力な固有磁場をもつものをマグネターと呼ぶ。

eV(エレクトロンボルト)

荷電粒子のエネルギーを表すのに用いる単位。1eVは1個の電子が1ボルトの電位差によって得るエネルギー。地上で人工的に加速できる粒子の最大エネルギーは1012 eV程度であるが、宇宙では1020 eVを超える宇宙線が生成されている。