がんを攻撃する抗腫瘍免疫に関わる機序を解明

がんを攻撃する抗腫瘍免疫に関わる機序を解明

新たながん免疫療法の発展に期待

2021-9-9生命科学・医学系
医学系研究科キャンパスライフ健康支援センター教授長友泉

研究成果のポイント

  • がんを異物として認識し、攻撃する抗腫瘍免疫に関する新たな機序を発見。
  • IL-33(インターロイキン33) の抗腫瘍免疫における役割は不明な点が多かったが、その作用を明らかにすると共に、セマフォリン4Aの関与を初めて解明した。
  • 新たながん免疫療法の発展や、バイオマーカーとしての応用に期待。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の 菅 泰彦 特任助教(常勤)(オンコロジーセンター)、熊ノ郷 淳 教授(呼吸器・免疫内科学)、キャンパスライフ健康支援センターの長友 泉 教授らの研究グループは、サイトカインIL-33が樹状細胞のセマフォリン4Aの発現を誘導し、抗腫瘍免疫を活性化させることを解明しました。

これまで、IL-33が抗腫瘍免疫に関与することは知られていましたが、免疫反応を促進する報告と抑制する報告があり、評価は定まっていませんでした。また、その詳細な機序も明らかではありませんでした。

今回、研究グループは、マウスモデルを用いて、IL-33が樹状細胞を刺激して抗腫瘍免疫を増強することを明らかにしました。さらに、セマフォリン4Aが、樹状細胞とT細胞の相互作用の鍵因子であることから、セマフォリン4A遺伝子を欠損させたマウスを用いた解析により、セマフォリン4Aの発現がこの作用に必須であることを解明しました(図)。

今後、IL-33やセマフォリン4Aをターゲットとした新たながん免疫療法の発展や、セマフォリン4Aが抗腫瘍免疫における樹状細胞活性化のバイオマーカーとして応用される可能性が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「The Journal of Immunology」に、8月12日(木)0時(日本時間)に公開されました。

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図 IL-33によるセマフォリン4Aを介した抗腫瘍免疫応答の促進機序
IL-33が樹状細胞(DC)に作用して、セマフォリン4Aの発現を誘導することにより、細胞傷害性T細胞(CD8T)のIFNγ産生を促進し、腫瘍増殖を抑制する。

研究の背景

免疫チェックポイント阻害剤によるがん免疫療法が、新しい標準的な治療法として確立されつつあります。この治療法が有効であるための条件として、自発的な抗腫瘍免疫応答が十分に生じていることが必要と考えられています。しかし、そのような応答が生じていない、あるいは弱い症例では、あまり効果が期待出来ないという弱点が有ります。有効性を改善するための1つの戦略として、アジュバントやサイトカインによる抗腫瘍免疫応答の促進が挙げられます。

今回、研究グループは、サイトカインの一種であるIL-33に着目しました。IL-33 は近年、腫瘍に対しての役割が注目されているサイトカインですが、どのような状況で抗腫瘍免疫応答を最大限発揮するのかはいまだ不明です。

本研究の成果

研究グループでは、マウス肺がん細胞株と同系マウスを使用して、IL-33が細胞傷害性T細胞(CTL)によるIFNγ産生を促進し、腫瘍増殖を有意に抑制することを示しました。また、セマフォリン4A遺伝子欠損マウスを使用した一連の実験により、腫瘍微小環境に存在する免疫系細胞のセマフォリン4Aの発現が、IL-33の抗腫瘍活性にとって必須であることを証明しました。さらに詳細な解析の結果、IL-33は樹状細胞(DC)に作用して、MyD88シグナルによりセマフォリン4Aの発現を誘導すること、及び、そのセマフォリン4Aは、CTLに発現しているレセプター Plexin B2 を刺激してIFNγ産生を促進させることを解明しました。逆に、活性化CTLにより分泌されたIFNγがDCを刺激し、DCからIL-12が産生されCTLを刺激することにより、相互に活性化する positive feedback loop が形成されていることも示しました(図)。このような、腫瘍微小環境におけるDCとCTLのIL-33誘導性・セマフォリン4A媒介性の相互活性化メカニズムは、これまでに知られていない新規の機序です。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、IL-33とセマフォリン4Aが治療標的となり得ること、及び、DC活性化状態のバイオマーカーとしてもセマフォリン4Aが応用出来る可能性が示唆されます。マウスで得られたデータを基に、ヒト肺がん患者においても臨床データやサンプルを用いた解析を行い、これらの臨床応用に向けて更に研究を進めていきたいと考えています。

特記事項

本研究成果は、2021年8月11日(水)10時(米国東部時間)〔8月12日(木)0時(日本時間)〕に米国科学誌「The Journal of Immunology」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】
“IL-33 Induces Sema4A Expression in Dendritic Cells and Exerts Antitumor Immunity”
【著者名】
Yasuhiko Suga1,2, Izumi Nagatomo2, Yuhei Kinehara1,2, Shohei Koyama1,2, Daisuke Okuzaki3,4, Akio Osa2, Yujiro Naito1,2, Hyota Takamatsu1,2, Masayuki Nishide1,2, Satoshi Nojima1,5, Daisuke Ito1,2, Takeshi Tsuda1,6, Takeshi Nakatani1,2, Yoshimitsu Nakanishi1,2, Yu Futami1,2, Taro Koba2, Shingo Satoh1,2, Yuki Hosono1,2, Kotaro Miyake2, Kiyoharu Fukushima1,2, Takayuki Shiroyama2, Kota Iwahori2, Haruhiko Hirata2, Yoshito Takeda2, and Atsushi Kumanogoh1,2,7
【所属】
1. 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター(IFReC) 感染病態分野
2. 大阪大学 大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
3. 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター ヒト免疫学 (単一細胞ゲノミクス)
4. 大阪大学 微生物病研究所 遺伝情報実験センター ゲノム解析室
5. 大阪大学 大学院医学系研究科 病態病理学
6. 大阪大学 大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学
7. 大阪大学 先導的学際研究機構
DOI:10.4049/jimmunol.2100076.

用語説明

IL-33(インターロイキン33)

細胞の核内に存在するタンパク質であるが、細胞への傷害や刺激によって細胞外へ放出され、サイトカインとしても作用する。受容体はST2であり、Th2型の免疫応答を惹起することでアレルギー疾患へ関与することは広く知られているが、がん免疫における作用は不明の点が多い。

セマフォリン4A

免疫セマフォリンの一種であり、受容体は PlexinB2 や Tim-2 である。T細胞、B細胞、樹状細胞等に発現しており,細胞間相互作用における副刺激様シグナルを伝達し、細胞の活性化に関与している。