ポリマー化技術により肝臓がん幹細胞の標的化を実現!

2018-8-9生命科学・医学系

研究成果のポイント

・新しいドラッグ・デリバリー・システムを構築し、がん幹細胞の特性に照準を合わせた創薬を実現した。
・本ドラッグ・デリバリー・システムと既存の抗がん剤を組み合わせることにより、抗腫瘍効果が増強した。
・動物実験で効果と安全性を確認することで、将来的に臨床応用が期待される。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の俊山礼志大学院生(卒業生)、今野雅允寄附講座講師(先進癌薬物療法開発学寄附講座)、石井秀始特任教授(常勤)(疾患データサイエンス学共同研究講座)、江口英利准教授、森正樹教授(消化器外科学Ⅰ)、土岐祐一郎教授(消化器外科学II)らの研究グループは、東京工業大学の西山伸宏教授らとの協働した研究により、PEG-ポリアミノ酸ブロックコポリマーウベニメクス を用いたドラッグ・デリバリー・システム(DDS) を構築しました。このDDSを用いることによって、がん幹細胞 におけるウベニメクスの濃度を局所的に高めることができるようになりました。さらに、標準的な抗がん剤と併用させることで、がん幹細胞を著しく減少させることに成功しました (図1) 。

これまで、研究グループは、肝臓がん幹細胞の表面マーカーとしてCD13を同定しました。CD13の阻害剤であるウベニメクスを添加すると、がん細胞が細胞死を起こすことが明らかとなっていましたが、固形がんではウベニメクスの局所濃度を高めることができなかったために、腫瘍組織の中の一部にしか存在しないがん幹細胞を標的化することは困難とされてきました。

今回、ブロックコポリマーのポリアミノ酸側鎖にウベニメクスを結合したDDSを用いることにより、進行期肝臓がんの幹細胞においてウベニメクス濃度を局所的に高めることができ、肝臓がん腫瘍を減少させることができました。この技術を応用することで、抗がん治療の効果が高まることが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Oncogene」に8月8日(水)午後9時(日本時間)に公開されました。

図1 本研究で構築したドラッグ・デリバリー・システム(DDS)の概要
本研究では、ブロックコポリマーにウベニメクスを結合したDDSを構築した。このDDSに搭載されているウベニメクスが、肝臓がん幹細胞表面マーカーCD13を認識する。ウベニメクスはCD13の阻害剤であるため、がん幹細胞で局所的に濃度を高めることによりがん幹細胞を死滅させることに成功した。また、本DDSと標準的な化学療法を組み合わせることで、相乗効果を示し、がん幹細胞を著しく減少させることができた。

研究の背景

がん組織の細胞には、大きく分けて二つの細胞(がん細胞とがん幹細胞)があります。がん幹細胞はがんの悪性化や転移に関わることから、がんを治すためにはがん幹細胞を根絶させることが重要です。しかし、がん幹細胞は、薬物療法や放射線療法へ治療抵抗性を示し、これががん難治性の原因であることが知られていました。

研究グループはこれまでに、肝臓がん幹細胞にCD13という表面マーカーが存在することを発見しました。この肝臓がん幹細胞にCD13の阻害剤であるウベニメクスを添加すると、がん幹細胞がアポトーシス(細胞死)を起こし、死滅します。しかしながら、がん幹細胞は腫瘍組織の一部にしか存在しないために、ピンポイントで高濃度に標的化できるデリバリーの方法の開発が急務とされてきました。

本研究の成果

研究グループは、まず、高濃度のウベニメクスを運ぶDDSの開発を行いました。ポリエチレングリコールとポリリジンを組み合わせたブロックコポリマーに、ウベニメクス20分子を結合したDDSを新規に構築しました。この手法で、腹腔投与及び静脈注射にてマウスにウベニメクスを投与したところ、肝臓がんの体積が著しく減少することが明らかとなりました (図2) 。これは、ピンポイントでウベニメクスを高濃度でがん幹細胞に運ぶことが可能となったことを示しています。

次に、ウベニクスを搭載したDDSと既存の抗がん剤(アントラサイクリン系、シスプラ系、フッ化ピリミジン系)を併せてマウスに投与したところ、相乗効果を示してがん幹細胞に細胞死を誘導できることを明らかにしました。

図2 抗腫瘍効果の比較
コントロール(生理食塩水)、ブロックコポリマーのみ、ブロックコポリマーとウベルメクチンをそれぞれ肝臓がんのマウスに投与した。投与後の経過日数とがん組織の体積を測定したところ、ブロックコポリマーとウベルメクチンを投与したマウスでは肝臓がん細胞が著しく減少した。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、がん幹細胞に対する薬効が示されていながらデリバリーに課題があった薬剤のリポジショニングが加速化することが期待されます。またDDSの技術として、本研究で用いたブロックコポリマーはその製造が比較的簡便でありながら高度な機能を発揮できるDDSであるので、他の薬剤への発展的な応用も期待されます。

特記事項

本研究成果は、2018年8月8日(水)午後9時(日本時間)に英国科学誌「Oncogene」に掲載されました。

【タイトル】“Poly(ethylene glycol)–poly(lysine) block copolymer–ubenimex conjugate targets aminopeptidase N and exerts an antitumor effect in hepatocellular carcinoma stem cells”

【著者名】Reishi Toshiyama 1,2,3,# , Masamitsu Konno 2,# , Hidetoshi Eguchi 1 , Hiroyasu Takemoto 4 , Takehiro Noda 1 , Ayumu Asai 2,3 , Jun Koseki 3 , Naotsugu Haraguchi 1 , Yuji Ueda 1,2,3 , Katsunori Matsushita 1,2,3 , Kei Asukai 1,2,3 , Tomofumi Ohashi 1,2,3 , Yoshifumi Iwagami 1 , Daisaku Yamada 1 , Daisuke Sakai 2 , Tadafumi Asaoka 1 , Toshihiro Kudo 2 , Koichi Kawamoto 1,2 , Kunihito Gotoh 1 , Shogo Kobayashi 1 , Taroh Satoh 2 , Yuichiro Doki 1 , Nobuhiro Nishiyama 4 , Masaki Mori 1,% , Hideshi Ishii 3,% (#同等貢献、%責任著者)

【所属】
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 消化器外科学
2. 大阪大学 大学院医学系研究科 先進癌薬物療法開発学
3. 大阪大学 大学院医学系研究科 疾患データサイエンス学
4. 東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 疾患データサイエンス学
https://www2.med.osaka-u.ac.jp/mds/

用語説明

がん幹細胞

造血器腫瘍、固形がんではその腫瘍の一部にがん幹細胞が存在して、治療抵抗性の原因となっている。このがん幹細胞を如何に効果的にターゲットするかが創薬での鍵を握っている。

ブロックコポリマー

二種以上の単量体から構成される重合体のこと。本研究では、ポリエチレングリコールとポリリジンを組み合わせたブロックコポリマーを使用している。

ウベニメクス

がん幹細胞の表面マーカーであるCD13の阻害剤。これまで、白血病の治療薬として用いられてきた。

ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)

薬剤を局所に運搬する技術。全身投与では投与量が多くなるので副作用が出てしまう薬剤などで有効である。