心筋肥大を制御する新たなメカニズムを解明!

心筋肥大を制御する新たなメカニズムを解明!

心不全の新たな治療に迫る道筋に光

2016-6-27

本研究成果のポイント

心筋肥大 の過程において、タンパク質生成の源であるリボ核酸(RNA) の量を制御する、新たなメカニズム を解明
次世代シークエンサー 解析を駆使し、心筋細胞における新たなRNA量制御因子を同定
・RNA代謝制御という全く新たな側面から、心不全治療への新しい道筋が開かれることに期待

リリース概要

大阪大学大学院医学系研究科内科学講座(循環器内科学)の肥後修一朗助教、増村雄喜大学院生、坂田泰史教授、同生化学・分子生物学講座(医化学)の高島成二教授らのグループは、心筋細胞が肥大する過程においてRNA量を制御するメカニズムを世界で初めて明らかにしました。

今回肥後助教らの研究グループは、iPS細胞作成に用いられるタンパク質であるc-Myc を心筋細胞に導入するとRNAの合成が顕著に促進されることに着目し、次世代シークエンサー技術を駆使して、c-Mycの新たな標的遺伝子としてBtg2 を同定しました。Btg2はc-Mycの作用に反して細胞質のRNA量を負に制御し、心筋細胞の肥大を退縮させることが明らかになりました。

本研究成果は、心筋肥大におけるRNA代謝制御の関与を初めて明らかとしたもので、新たな側面からの治療応用が期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、6月27日(月)18時(日本時間)に公開されました。

図 次世代シークエンサーを用いて心筋細胞におけるRNA制御因子を同定

研究の背景・成果

心筋の肥大は外部からの刺激に応じて生じ、高血圧性心疾患を始めとする心不全の根幹を成す現象です。予後が不良な心不全は大きな社会問題であり、新たな治療法の開発が課題です。心筋肥大の過程におけるDNAやタンパク質合成については、これまで多くの研究が行われてきましたが、RNA代謝の関与は明らかではありませんでした。

肥後助教らの研究グループは、c-MycによりRNA合成が促進された心筋細胞を用いて、次世代シークエンサーによる全ゲノムマッピング を行い、RNA代謝を負に制御し、心筋肥大を抑制する因子としてBtg2を同定しました (図) 。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

治療の発達した現在においても、心不全の予後は依然不良であり、大きな社会問題です。従来の薬物治療に留まらない多方面からの病態へのアプローチが不可欠であり、本研究の成果は心不全病態の新たな側面を開き、新規の治療法開発につながる可能性があります。

特記事項

本研究成果は、2016年6月27日(月)10時(英国時間){6月27日(月)18時(日本時間)}に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Btg2 is a Negative Regulator of Cardiomyocyte Hypertrophy through a Decrease in Cytosolic RNA”
著者名:Yuki Masumura, Shuichiro Higo, Yoshihiro Asano, Hisakazu Kato, Yi Yan, Saki lshino, Osamu Tsukamoto, Hidetaka Kioka, Takaharu Hayashi, Yasunori Shintani, Satoru Yamazaki, Tetsuo
Minamino, Masafumi Kitakaze, lssei Komuro, Seiji Takashima and Yasushi Sakata

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 循環器内科学HP
http://www.cardiology.med.osaka-u.ac.jp

用語説明

心筋肥大

心臓の細胞は、外部からの刺激に応じて多くのタンパク質を生成し、その大きさを増大させます。心筋肥大は心不全の重要な原因のひとつです。

リボ核酸(RNA)

ゲノム遺伝子から転写によりつくりだされる核酸で、RNAの翻訳を経てタンパク質が生成されます。

次世代シークエンサー

DNA を読み取るシークエンス技術です。技術の革新により、従来の方法に比較して短時間で極めて多量の情報を得ることが可能です。

c-Myc

転写因子(遺伝子の働きを調整するタンパク質)のひとつで、古くから細胞のがん化に関わるとされ、iPS細胞作成に用いられる4因子の1つとして有名です。心肥大にも関わることが知られています。

Btg2

B-Cell Translocation Gene 2 / 別名PC3, TlS21。強い抗増殖作用をもつタンパク質として知られています。

全ゲノムマッピング

クロマチン免疫沈降(ChlP: Chromatin lP)という方法と次世代シークエンサー解析を組み合わせ、全ゲノムにおいて転写因子やポリメラーゼが結合する部位を同定します。