2014年5月20日

本研究成果のポイント

・従来報告されていなかった脳梗塞の炎症を制御するOPG/RANKL/RANKシグナルを発見。
・RANKL投与による脳梗塞の悪化を抑制できることを発見。
・今後は、RANKL-RANKシグナルをターゲットにした治療薬の開発へ。

リリース概要

大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座の森下竜一寄附講座教授、同連合小児発達学研究科の中神啓徳寄附講座教授、島村宗尚寄附講座准教授の研究グループは、脳梗塞の悪化を制御する新たなメカニズムを発見しました。脳梗塞の既存の治療法として、血栓を溶解する治療法(t-PA)や脳梗塞後に生じる活性酸素の作用を抑制する治療薬(エダラボン)がありますが、今回の発見は、これらの治療法とは異なるメカニズムに基づいた新規の治療薬の開発につながる可能性があります。

脳梗塞の悪化の原因として、脳梗塞の脳において活性化されるミクログリア・マクロファージからの過剰な炎症による神経細胞死の誘発があげられますが、本研究グループは、破骨細胞の分化誘導や免疫担当細胞における炎症を制御することが報告されていたRANKL(Receptor activator of nuclear factor kappa-B ligand)、RANK(receptor activator of nuclear factor kappaB、RANKLの受容体)といった分子が、脳内の活性化されたミクログリア・マクロファージに発現しており、RANKLによる刺激が、この炎症を抑制することにより、脳梗塞の悪化を抑制することを見いだしました。

炎症抑制を主体とした脳梗塞の悪化を防ぐ治療法はいまだ十分な効果を得られていないのが現状であり、今回の新しい発見は、脳梗塞におけるミクログリア・マクロファージの炎症制御をターゲットとした新たなブレークスルーになりうると考えられます。

なお、本研究成果は米国科学アカデミー紀要に5月19日(月)15時(米国東部時間)に掲載されます。

研究の背景

厚生労働省によると、脳血管疾患(脳梗塞や脳出血など)の総患者数は133万9000人(平成20年患者調査の概況)、脳梗塞による死亡数は年間7万3273人(平成23年人口動態統計)であり、脳梗塞は介護が必要となる最大の原因疾患であることが報告されており(平成19年国民生活基礎調査の概況)、脳梗塞の悪化を防ぐことができる治療法の開発が望まれています。炎症はそのような脳梗塞の悪化を促進するものであることから、炎症を制御することは脳梗塞において重要な治療法となります。しかし、既知の炎症に関連する分子をターゲットにした治療法はいまだ十分ではなく、有効な治療法が確立できていないのが現状です。

研究グループは、近年、疫学的に血中のOPG濃度が高いほど脳梗塞の予後が悪いという報告に着目しました。OPGはRANKLやRANKといった分子と協同して作用し、血管の石灰化や骨粗鬆症に関連することが報告されていましたが、これらの分子は、マクロファージやB細胞、T細胞といった免疫系の細胞にも作用していることが報告されていたことから、これらの分子が脳梗塞における病態を修飾しているのではないか、と仮定し研究を開始しました。その結果、受容体であるRANK、RANKL、OPGが脳梗塞急性期のミクログリア・マクロファージに発現しており、OPGを欠損したマウスとRANKLを投与したマウスではIL-6、TNF-α、IL-1β、MCP-1などの炎症性サイトカインの産生が少なく、また、脳梗塞が小さいことを見いだしました。さらに培養細胞を用いた研究では、その作用にはミクログリアのToll-like receptorを介したシグナルが関与することを見いだしました。

本研究は、RANKL-RANKシグナルが脳梗塞の炎症を介した脳梗塞悪化を制御する新たな分子機構であることを明らかにするとともに、このシグナルをターゲットとした新たな治療薬開発の可能性を示す成果であると考えます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

既知の分子をターゲットにした炎症制御ではいまだ十分な治療効果を得られていない現状において、今回の新規メカニズムの発見は、新規の治療コンセプトにつながるものと考えられます。また、RANKL-RANKシグナルはミクログリアからの複数の炎症性サイトカインの発現を抑制できるため、RANKLをベースにした治療薬は脳梗塞における有望な治療薬になる可能性があると考えられます。

参考図

脳血流が低下すると障害された神経細胞から炎症を惹起するシグナルがミクログリアに伝わり(①)、炎症性サイトカインが産生され(②)、神経細胞死を引きおこし(③)、脳梗塞が悪化する。RANKLは炎症性サイトカインの産生を抑制している(④)が、通常のマウスではOPGがRANKLと結合し、その作用を抑制している(⑤)。OPGを欠損したマウスやRANKLを投与したマウスではRANKLからの信号が強く作用し(⑥)、炎症性サイトカインの産生が抑制され(⑦)、脳梗塞の悪化が防がれる(⑧)。

参考URL

大阪大学大学院大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科 健康発達医学寄附講座
http://www.cgt.med.osaka-u.ac.jp/vme/researches.html

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