脊椎関節炎の症状を軽減するペプチド治療ワクチンを新開発
研究成果のポイント
- 脊椎関節炎に対するペプチド治療ワクチンを開発し、疾患動物モデルにおいて症状を軽減させる作用があることを明らかにした。この成果をもとに医師主導治験を進めている。
- 脊椎関節炎は代表的なものの一つに強直性脊椎炎(指定難病)などが知られており、脊椎、骨盤や四肢の関節における慢性進行性の炎症性疾患である。病態に関与すると考えられているインターロイキンIL-17A (IL17A)に対する抗体療法が行われているが、非常に高価であり経済的な負担も大きい。
- 抗体療法は効果がある反面、非常に高価であり、度重なる来院が必要となり患者さんやその家族への負担が大きい。ペプチド治療ワクチンは抗体療法と比べ安価であり、患者さんの体内で長期的に治療抗体が産生されることから経済的身体的負担の軽減が期待される。
概要
大阪大学大学院医学系研究科の林宏樹 寄附講座講師、中神啓徳 寄附講座教授(健康発達医学寄附講座)、森ノ宮医療大学大学院の冨田哲也教授(看護学)らの研究グループは、インターロイキン-17A(IL17A)を標的としたペプチド治療ワクチンを開発し、脊椎関節炎モデル動物において症状を抑制する作用があることを明らかにしました(図1)。
脊椎関節炎は現在効果的な治療法の一つにIL17Aに対する抗体療法があり、非常に高価であり度重なる投与が必要であることから経済的にも身体的にも非常に負担の大きいことが知られている。
今回、研究グループはIL17Aに対するペプチド治療ワクチンを開発し、脊椎関節炎の疾患モデルラットに投与したところ、IL17Aに対する抗体が産生され炎症などの症状が軽減されていることが明らかになりました。これによりIL17Aペプチド治療ワクチンが新たな治療選択肢となることが期待されます。現在、今回の研究結果をもとに、株式会社ファンペップとの共同研究を継続しており、医師主導治験が進行中です。
本研究成果は、2023年2月3日(金)(日本時間)に英国科学誌「RMD Open」(オンライン)に掲載されました。
図1. ペプチド治療ワクチンにより足関節の炎症(腫脹)が抑制されている。
研究の背景
脊椎関節炎は脊椎、骨盤や四肢の関節における慢性進行性の炎症性疾患であり、代表的なものの一つに強直性脊椎炎(指定難病)などが知られています。近年病態メカニズムが少しずつ解明され、インターロイキン-17A(IL17A)が関与していることがわかってきました。現在、強直性脊椎炎などの体軸性脊椎炎に対してIL17Aを標的とした抗体療法が行われています。しかし、抗体療法は効果がある反面、非常に高価で、頻繁に投与を行う必要があり、患者さんやそのご家族にかかる経済的、身体的な負担は大きいことが知られており、新規治療法の開発が期待されています。
研究の内容
研究グループでは、IL17Aに対するペプチド治療ワクチンを開発し、脊椎関節炎の疾患モデルラットに投与しました。その結果、IL17Aに対する抗体が産生され、関節炎症状が軽減されていることが明らかになりました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、強直性脊椎炎などの体軸性脊椎関節炎に対する新規治療法の可能性が示唆され、患者さんの経済的身体的負担の軽減につながることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、2023年2月3日(金)(日本時間)に英国科学誌「RMD Open」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Peptide-based vaccine targeting IL17A attenuates experimental spondyloarthritis in HLA-B27 transgenic rats”
著者名:Hiroki Hayashi1*, Jiao Sun1, Yuka Yanagida1, Shota Yoshida1,2, Satoshi Baba1,2, Akiko Tenma3, Masayoshi Toyoura3, Sotaro Kawabata3, Takako Ehara3, Ryoko Asaki3, Makoto Sakaguchi3, Hideki Tomioka3, Munehisa Shimamura1,4, Ryuichi Morishita5, Hiromi Rakugi2, Tetsuya Tomita6, and Hironori Nakagami1*(*責任著者)
所属:
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 健康発達医学寄附講座
2. 大阪大学 大学院医学系研究科 老年・総合内科学講座
3. 株式会社ファンペップ
4. 大阪大学 大学院医学系研究科 神経内科学講座
5. 大阪大学 大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学寄附講座
6. 森ノ宮医療大学大学院 保健医療学研究科 看護学
DOI:http://dx.doi.org/10.1136/rmdopen-2022-002851
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の難治性疾患実用化研究事業「脊椎関節炎を標的としたIL-17Aワクチンの開発」の支援を得て行われました。
参考URL
林 宏樹 寄附講座講師 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/13ac2a876e4a7bc8.html?k=%E6%9E%97%E5%AE%8F%E6%A8%B9
中神 啓徳 寄附講座教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/0550ecffa3d531c9.html
用語説明
- 脊椎関節炎
代表的なものの一つに強直性脊椎炎(指定難病)などが知られており、脊椎、骨盤や四肢の関節における免疫の異常から生じる慢性進行性の炎症性疾患である。アキレス腱や身体各所の靭帯付着部の炎症症状(疼痛、腫脹)がみられる。進行すると脊椎の強直や四肢大関節の破壊などの症状で運動制限も生じ、日常生活が大きく制限される。これまでヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen; HLA)-B27と関連があることがわかっている。近年の研究からIL23/IL17の経路が着目され、多くの抗体療法の開発が進んでいる。
- ペプチド治療ワクチン
ペプチドワクチンは標的となるタンパク質のアミノ酸配列で抗体が作られやすく、かつ効果の期待できる部分(エピトープ)を選択して、その部分(ペプチド)に対する抗体を誘導する。
感染症と違い、疾患において原因となるまたは大きく影響しているタンパク質に対し、治療抗体を誘導し治療目的としていることからペプチド治療ワクチンとしている。
- インターロイキンIL-17(IL17A)
インターロイキンは主に免疫系細胞より分泌されるサイトカインであり、それらの細胞にとって非常に重要な分子である。IL17Aは炎症性サイトカインの一つとして知られており、IL23/IL17A経路は脊椎関節炎の病態発症には大きく関与していることがわかっている。これまでIL17Aに対する治療用抗体として、コセンティクス(セクキヌマブ)やトルツ(イキセキズマブ)などが使用されている。