生命科学・医学系

2019年9月10日

研究成果のポイント

・目の動きを解析することで簡単に認知機能を評価し認知症の早期診断に繋げる新技術を開発。
・これまで、認知症の診断に必要な認知機能評価は医師との対面方式による問診検査を必要としていたが、患者に負担をかけることなく、より簡便に認知機能を評価することが可能になった。
・誰でも簡単に認知機能をチェックできる方法として、認知症予防への取り組みや高齢者による運転免許の許可など様々な形での社会実装が期待される。また、言語の介在をあまり必要としない検査法であるため、グローバル展開も予定している。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の大山茜医師、武田朱公寄附講座准教授、森下竜一寄附講座教授(臨床遺伝子治療学)らの研究グループは、目の動きを解析することで簡単に認知機能を評価する新技術を開発しました。

認知機能評価は認知症の診断を行う上で重要な要素ですが、従来使用されてきた認知機能検査法は医師との対面方式で行われる問診法であるため、検査に時間がかかり、また検査を受ける人の心理的負担が大きいことが問題となっていました。

今回、森下竜一教授、武田朱公准教授らの研究グループは、視線検出技術※1と認知機能評価映像※2を組み合わせることで、映像を眺めるだけで、その視線の動きから認知機能を簡便に評価する方法の開発に成功しました(図1)。わずか3分弱の簡単な検査で、認知機能の客観的な評価を行うことが出来ます。これによって効果的な認知症スクリーニングが可能になり、認知症の早期診断や予防に繋がる可能性が期待されます。また、目の動きを利用した客観的な認知機能検査であるため言語の介在をあまり必要とせず、言葉の壁を超えたグローバルスタンダードの認知機能検査法として発展することも期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Scientific Reports」に、9月10日(火)午後6時(日本時間)に公開されました。

図1 「目の動き」を利用した認知機能検査法
映像を眺めるだけで、その視線の動きから認知機能を簡便に評価する。

研究の背景

認知症の急増が世界各国で社会問題となっています。これまで認知症の診断は、医師との対面方式による問診法をベースにした認知機能評価をもとに行われてきました。この方法では検査に時間がかかり、また検査を受ける人の心理的負担が大きいこと等が問題となっており、より簡便に認知機能を評価できる手法の開発が重要となっていましたが、問診法以外の方法で認知機能を正確にスコア化することは難しく、効率的な認知症スクリーニングは難しいとされてきました。

本研究の成果

研究グループでは、「目の動き」を解析することで簡便かつ客観的に認知機能を評価する全く新しい検査方法の開発に成功しました。視線検出技術(Eye-tracking)と認知機能タスク映像を組み合わせ、独自に開発したアルゴリズムによって視点データから認知機能を定量的に算出します。モニターの前に座って映像を2分50秒眺めるだけの極めて簡単な検査方法であるため、高齢者でも負担なく実施することが出来ます。検査に伴う心理的ストレスも大幅に軽減されています。従来の標準的な認知機能検査法の結果とも高い相関を示すことが確認されており(図2)、データの信頼性も高いと言えます。

図2 従来の問診法(MMSE)による認知機能スコアとの相関。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、専門医師以外でも簡単に、負担なく認知機能のチェックを行うことが出来るようになると期待されます。認知症は早期に発見し予防的な取り組みを行うことで、発症予防が可能であることが最近明らかになってきています。認知症の簡便なスクリーニング検査法として、今回の新技術が役に立つ可能性が高いといえます。また、目の動きを利用した客観的な検査法であるため、言語の壁を超えたグローバルスタンダードの認知機能検査法として発展する可能性もあると考えられます。住民健診レベルでの認知機能チェックや、最近社会問題となっている高齢者の運転事故の問題解決などにも役立つことが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2019年9月10日(火)午後6時(日本時間)に米国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。
【タイトル】“Novel Method for Rapid Assessment of Cognitive Impairment Using High-Performance Eye-Tracking Technology”
【著者名】Akane Oyama1), Shuko Takeda2)*, Yuki Ito2), Tsuneo Nakajima1), Yoichi Takami1), Yasushi Takeya1), Koichi Yamamoto1), Ken Sugimoto1), Hideo Shimizu2),3), Munehisa Shimamura4), Taiichi Katayama5), Hiromi Rakugi1), Ryuichi Morishita2)*
【所属】
1)大阪大学 大学院医学系研究科 老年・総合内科学
2)大阪大学 大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学
3)大阪歯科大学 内科学
4)大阪大学 大学院医学系研究科 健康発達医学
5)大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科

用語説明

※1 視線検出技術(Eye-tracking)
赤外線カメラ等を用いることで、被検者が画面上のどこを見ているかを高精度に検出・記録する方法。

※2 認知機能評価映像
ワーキングメモリー、判断力、記憶、空間認知機能などの各認知機能を評価するためのタスク映像。各タスク映像は複数の画像などから構成され、その中の正解画像を注視した時間に基づいてスコアが算出される。

研究者のコメント(武田朱公准教授)

実際の認知症診療に携る中で、認知機能検査を行う際の患者さんの負担を何とか軽減出来ないかと考えてきました。今回の開発には、多くの認知症患者さんのご協力を頂いています。「目の動き」を利用した簡便な認知機能検査法によって、認知症の早期発見や効果的な予防に繋げていけるのではないかと期待しています。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学HP
http://www.cgt.med.osaka-u.ac.jp/index.html

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