急性心筋梗塞後の心不全発症メカニズムを解明

急性心筋梗塞後の心不全発症メカニズムを解明

慢性期の心不全発症抑制実現に向けて

2015-12-8

本研究成果のポイント

■急性心筋梗塞によって心臓から分泌されるたんぱく質:ペリオスチン が、心不全を発症させることを解明
■ペリオスチンは細胞接着を阻害するため、心筋細胞がばらばらになり心不全を誘導
■急性心筋梗塞モデルにペリオスチン中和抗体を投与、心不全発症の抑制に成功
■慢性期の心不全発症抑制により、患者さんの生活の質や予後の改善、医療費の抑制につながることに期待

リリース概要

急性心筋梗塞後の心不全の発症は世界的に重大な問題となっています。大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座(森下竜一寄附講座教授)の谷山義明寄附講座准教授、眞田文博特任助教らは、心筋梗塞後の機械的伸展刺激(メカニカルストレス) により主に線維芽細胞 から分泌されるたんぱく質のペリオスチンに着目しました。その結果、ペリオスチンがもつ細胞接着阻害作用から心筋細胞をばらばらにし、心筋の収縮力低下と細胞死の誘導によって心不全を発症させることを解明しました。さらに独自に開発したペリオスチン中和抗体にて心筋梗塞後の心不全発症を抑制することに成功しました。

本研究成果により慢性期の心不全発症が抑制できれば、患者さんの生活の質や予後を改善するだけでなく、心不全医療にかかる高額な医療費を抑制することにもつながります。

本研究成果はHypertensionの電子版に2015年12月7日(月)16時(米国東部時間)に掲載されました。

研究の背景

下図 に示すように、急性心筋梗塞になると心臓にメカニカルストレスが起こり線維芽細胞からペリオスチンが分泌され心不全が誘導されますが、そのメカニズムは不明でした。一方、ペリオスチン遺伝子には、4つのスプライス・バリアント が存在しています。

谷山寄附講座准教授らは、ペリオスチン1が単独で心不全を誘導することを報告しています。一方で、ハーバード大学、シンシナティ大学、東工大などの研究から、すべてのバリアントの抑制は急性心筋梗塞後の心不全を抑制しますが、ペリオスチン2やペリオスチン4には心筋再生・血管新生や心破裂抑制などの心保護作用が報告されています。また、すべてのペリオスチン・バリアントを抑制すると心不全が抑制されますが、急性期の心破裂による死亡も上昇します。

そこで、心保護作用のあるペリオスチン2,4を抑制せず、心不全誘導作用のあるペリオスチン1のみを抑制する治療法を検討しました。ペリオスチン1特異的中和抗体を独自に作成し、急性心筋梗塞発症後に投与することによって、心破裂を伴わずに慢性期の心不全発症を抑制することに成功しました。

図 心筋梗塞後の心不全発症

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

急性心筋梗塞後の心不全発症は世界的に重要な問題ですが、心筋梗塞急性期にペリオスチン中和抗体を投与することによって慢性期の心不全発症が抑制できれば、患者さんの生活の質や予後を改善するだけでなく、心不全医療にかかる高額な医療費を抑制することにもつながります。

特記事項

本研究成果は、Hypertension電子版に2015年12月7日16時(米国東部時間)に掲載されました。

参考URL

論文掲載先(Hypertension電子版)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26644236

大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学HP
http://www.cgt.med.osaka-u.ac.jp/index.html

研究内容(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学HPより)
http://www.cgt.med.osaka-u.ac.jp/cont/norm04_d_2.html

研究グループ(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学HPより)
http://www.cgt.med.osaka-u.ac.jp/cont/norm04_ind.html

用語説明

ペリオスチン

シグナル配列を持つ分泌型蛋白質。胎生期に強く発現され、成体になると発現は抑制されているが病的状態で再度発現される。カエル・マウス・ラット・ヒトに至るまで、全長のぺリオスチン(Pn-1)の他に、アミノ酸配列に関する情報を含む核酸塩基配列(エクソン)が脱落するスプライス・バリアントPn-2~4などが存在する。

機械的伸展刺激(メカニカルストレス)

細胞に対する伸展や圧迫などの物理的刺激を機械的伸展刺激と呼んでいる。動脈硬化や心不全などへの悪化作用がある一方で、骨や皮膚、筋肉などへの良好な作用も報告されている。

線維芽細胞

結合組織を構成する細胞の1つ。線維化に関わるだけなく近年、免疫担当細胞との応答など生理的・病理的応答として様々な機能を有していることが報告されている。

スプライス・バリアント

遺伝子の中にはアミノ酸配列に関する情報を含む核酸塩基配列(エクソン)が遺伝情報を含まない配列(イントロン)によって複数に分断されている。DNAからmRNAに転写される際にエクソンが脱落することをスプライシングとし、転写生成物をスプライス・バリアントと呼んでいる。