![ヒトiPS細胞由来肝オルガノイドの高機能化に成功!](/ja/research/2025/20250204_2/@@images/9c8d530a-7b4f-48fa-8f08-85d6e6c14248.jpeg)
ヒトiPS細胞由来肝オルガノイドの高機能化に成功!
汎用性の高い肝細胞の提供で創薬研究に貢献
研究成果のポイント
- ヒトiPS細胞から肝オルガノイド(iHOs)を樹立し、高機能な肝細胞様の細胞(iHO-Heps)へと成熟化可能な技術を開発。
- これまでのヒトiPS細胞由来肝オルガノイドは、低い肝機能や利用可能な評価系の制限により創薬研究への応用は実現していなかった。
- 作製したiHO-Hepsは、ヒト初代培養肝細胞と同等以上の高い肝機能を有しており、新たな肝細胞モデルとして、安全で効率的な創薬研究への活用に期待。
概要
大阪大学大学院薬学研究科の水口裕之教授(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 招へいプロジェクトリーダー併任)らの研究グループは、ヒトiPS細胞から肝オルガノイド(iHOs)を樹立し、さらに高機能な肝細胞様の細胞(iHO-Heps)へと成熟化可能な技術を開発しました。また、iHO-Hepsが薬物代謝試験や肝毒性試験などの創薬研究に有用であることを示しました。
肝臓は、薬物の代謝、取り込み、排泄において中心的な役割を担っています。そのため、機能的なヒト肝細胞を用いた評価は、in vivo(生体内)での薬物の代謝や毒性を正確に予測するために重要です。近年、これらの試験にヒトiPS細胞から作製したヒトiPS細胞由来肝細胞を利用することが試みられてきましたが、薬物代謝能力を含む肝機能が低く、作製に一カ月程度要するなど、安定的かつ効率的な創薬研究を実施するには課題がありました。
今回、研究グループは、ヒトiPS細胞からiHOsを樹立することで増殖と維持培養を可能にしました。また、このiHOsを、単純な二次元培養下にてiHO-Hepsへと成熟化する技術を開発し、薬物代謝試験や肝毒性試験へ応用可能か検討しました。その結果、iHO-Hepsは汎用されているヒト初代培養肝細胞や従来のヒトiPS細胞由来肝細胞と同等以上の機能を有しており、薬物動態評価試験や肝毒性評価が可能であることを実証しました。
この結果は、開発したiHO-Hepsが、従来の創薬研究で用いられていた肝細胞モデルよりも有用であることを示しており、より効率的な医薬品開発に資するだけでなく、再生医療を含めた様々な分野の研究を加速することが期待されます。
本研究成果は、科学誌「Biomaterials」(オンライン)に、1月28日(火)(米国)に公開されました。
図1. 本研究の概要
研究の背景
肝臓は、薬物の代謝、取り込み、排泄において中心的な役割を担っているため、機能的なヒト肝細胞を用いた評価は、in vivoでの薬物の代謝や毒性を正確に予測するために重要です。しかし、現在利用されているヒト初代培養肝細胞はロット間差や培養に伴う肝機能低下などの課題があり、大規模な試験を実施するのは困難でした。そこで、これらの試験にヒトiPS細胞から作製したヒトiPS細胞由来肝細胞を利用することが試みられてきましたが、薬物代謝能力を含む肝機能が低く、作製に一カ月程度要するなど、安定的かつ効率的な創薬研究を実施するには課題がありました。
近年、三次元細胞クラスターであるオルガノイドが注目されており、この技術により分化細胞がその機能を維持しながら長期間in vitro(試験管内)で増殖することが可能となってきました。ヒトiPS細胞由来の肝オルガノイドは、発達した臓器構造を有したものから、単純構造の代わりに増殖能の高いものまで、様々な種類が複数の研究グループによって報告されています。しかし、ヒトiPS細胞由来肝オルガノイドにおいて細胞の増殖と機能の成熟化を両立することは依然として困難でした。また、従来の二次元培養されたヒト初代培養肝細胞とは培養形態が異なることから、その利用には限界がありました。
研究の内容
今回、研究グループはヒトiPS細胞から10継代以上維持培養可能なヒトiPS細胞由来肝オルガノイド(iHOs)を樹立し、独自開発の二次元培養プロトコルで成熟化することでオルガノイドよりも汎用性の高い肝細胞様細胞(iHO-Heps)を作製しました。
はじめにヒトiPS細胞由来肝細胞から樹立したiHOs(図2A)について、種々の検討を行いました。維持培養培地と樹立時期について最適化を行うことで、iHOsは3継代で約10万倍に増殖し(図2B)、10継代以上維持培養が可能であったことから、高い細胞増殖性を有していることが示されました。さらに、最適な条件で培養されたiHOsは、樹立元のヒトiPS細胞由来肝細胞よりも肝細胞マーカー遺伝子を高いレベルで発現していました(図2C)。
このiHOsを二次元培養プロトコルで成熟化することでiHO-Hepsを作製し(図2D)、その機能を評価しました。その結果、iHO-Hepsは肝細胞特有の敷石上の細胞形態を示し、肝細胞マーカー遺伝子についてヒト初代培養肝細胞と同等以上の高いレベルの発現を示しました。さらに、iHO-Hepsはアルブミン分泌、尿素分泌、毛細胆管形成、グリコーゲン貯蔵、トランスポーター活性などの主要な肝機能のほとんどを有していただけでなく、ヒト初代培養肝細胞と同等以上の薬物代謝酵素活性を示し(図2E)、肝毒性が報告されている薬剤(トログリタゾン)に対する感受性もヒト初代培養肝細胞に近いレベルでした(図2F)。さらに、iHO-Hepsは異なる継代数のiHOsから作製しても安定した遺伝子発現を示しました。
これらの結果から、今回開発したiHO-Hepsはヒト初代培養肝細胞と同等以上の肝機能を有しており、創薬研究において従来の系と同じ評価系を利用できる汎用性を兼ね備えているだけでなく、高い細胞増殖性を有したiHOsから作製可能であることから、大規模な試験にも適用可能であると考えられます。
図2. 本研究で得られた結果
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、創薬研究において機能的な肝細胞を用いた正確な薬物代謝試験や肝毒性試験が安定的かつ効率的に実施可能になることが期待されます。さらに、患者由来またはゲノム編集iPS細胞から樹立されたiHOsは、遺伝性肝疾患の病態解明や特異的な肝毒性の予測を可能にすると考えられます。また、iHOsは高機能な肝細胞を大量に供給できるため、将来的には肝細胞移植に応用できる可能性があります。
特記事項
本研究成果は、1月28日(火)(米国)に科学誌「Biomaterials」(オンライン)に掲載されました。
タイトル: “Two-dimensionally cultured functional hepatocytes generated from human induced pluripotent stem cell-derived hepatic organoids for pharmaceutical research”
著者名:Jumpei Inui, Yukiko Ueyama-Toba, Chiharu Imamura, Wakana Nagai, Rei Asano, Hiroyuki Mizuguchi
DOI:10.1016/j.biomaterials.2025.123148
なお、本研究は、独立行政法人日本学術振興会 科学研究費助成事業(課題番号21K18247)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)(課題番号JP24fk0310512, JP24mk0121300)、同機構 創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム事業(BINDS)(課題番号JP24ama121054)、同機構 次世代研究者挑戦的研究プログラム(課題番号JPMJSP2138)の一環として行われました。
参考URL
用語説明
- 肝オルガノイド(iHOs)
ヒトiPS細胞から分化誘導されたヒトiPS細胞由来肝細胞をゲル中に包埋・浮遊させ、各種サイトカインや増殖因子、低分子化合物などを加えた培地で培養することで樹立された三次元培養体。
- 高機能な肝細胞様の細胞(iHO-Heps)
iHOsをシングルセルに解離し、独自に開発した二次元培養プロトコルによって成熟化させた高機能な肝細胞用細胞。