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がん細胞を死滅させる新アデノウイルスの 抗腫瘍効果メカニズムを解明

がん細胞を死滅させる新アデノウイルスの 抗腫瘍効果メカニズムを解明

難治性がんに対する35型Adベースの新薬開発に期待

2025-7-11生命科学・医学系
薬学研究科教授水口 裕之

研究成果のポイント

  • 腫瘍溶解性35型アデノウイルス(Ad)の抗腫瘍メカニズムを免疫学的な解析によりその一端を解明
  • 従来の腫瘍溶解性Adは5型Adを基本骨格としているが、成人の多くは5型Adに対する抗体を既に保有しているため、治療効果が減弱する可能性があるほか、悪性度の高いがん細胞では5型Adの受容体の発現が低く、効率よく感染できないという特徴があった
  • がん細胞内でウイルスが増殖することでがん細胞を死滅させるという腫瘍溶解性ウイルスの従来の抗腫瘍メカニズムに加えて、腫瘍溶解性35型Adが、がん免疫において重要なNK(ナチュラルキラー)細胞やCD8陽性T細胞を強力に活性化させて、抗腫瘍効果を示すことを明らかに
  • 特徴的なメカニズムにより、これまで難治性がんとされてきたがん種にも有効性を示す新規抗がん剤への活用に期待

概要

大阪大学大学院薬学研究科の水口裕之教授、櫻井文教招へい教授(近畿大学薬学部教授)らの研究グループは、がん細胞を死滅させる腫瘍溶解性35型アデノウイルス(Ad)が、がん細胞を攻撃する免疫細胞を強力に活性化させることでも抗腫瘍効果を示すことを明らかにしました。

研究グループが2021年に開発した腫瘍溶解性35型Adは、従来の腫瘍溶解性5型Adと比較し、各種がん細胞に対し同等以上の殺細胞効果を示し、成人の多くが所有している抗5型Ad抗体による阻害も受けないという特徴がありました。今回この腫瘍溶解性35型Adについて、がん細胞内でウイルスが増殖することでがん細胞を死滅させるという腫瘍溶解性ウイルスの従来の抗腫瘍メカニズムに加えて、がん免疫において重要なNK細胞やCD8陽性T細胞を強力に活性化させるという、抗腫瘍効果のメカニズムの一端を解明しました。さらに、腫瘍溶解性35型Adの抗腫瘍効果が抗ウイルス応答に主要な役割を果たすType I IFNシグナルに依存していることを明らかにしました(図1)。

本研究成果は、米国科学誌「Journal for ImmunoTherapy of Cancer」に、7月11日(金)午前8時15分(日本時間)に公開されました。

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図1. 本研究の概略

研究の背景

がん細胞に特異的に感染し、がん細胞を死滅させる腫瘍溶解性ウイルスが、新たな抗がん剤として大きな注目を集めています。特にAdを基盤とした腫瘍溶解性ウイルスは、その優れた抗腫瘍効果から活発に臨床開発が進められています。従来の腫瘍溶解性Adは、100を超えるヒトAdのなかで、C群に属する5型Adを基本骨格としております。しかし成人の多くは、5型Adに対する抗体を既に保有しているため、既存抗体により治療効果が減弱する可能性があります。また、5型Adの感染受容体(CAR;Coxsackievirus and adenovirus receptor)は、悪性度の高いがん細胞では発現が低く、5型Adはそれらのがん細胞に効率よく感染できないという特徴があります。

一方、B群に属する35型Adに関しては、35型Adに対する抗体を保有している人の割合は約20%以下と低いことから、既存抗体によって治療効果が減弱する可能性は低く、また、35型Adの感染受容体であるCD46は、ほぼ全ての細胞で発現しており、特に悪性度の高いがん細胞で高発現していることが知られています。

このような背景のもと、水口教授らのグループは2021年に、35型Adを基本骨格とした新しい腫瘍溶解性Adを開発し、抗がん剤としての有用性を実証しました(Mol. Ther. Oncolytics, 20, 399-409, 2021)。

研究の内容

本研究では、腫瘍溶解性35型Adの抗腫瘍メカニズムを免疫学的な解析によりその一端を解明しました。腫瘍溶解性35型Adは、がん細胞内でウイルスが増殖することでがん細胞を死滅させるという腫瘍溶解性ウイルスの従来の抗腫瘍メカニズムに加えて、腫瘍溶解性35型Adが、がん免疫において重要なNK細胞やCD8陽性T細胞を強力に活性化させて、抗腫瘍効果を示すことを明らかにしました。

さらに、腫瘍溶解性35型Adの抗腫瘍効果が抗ウイルス応答に主要な役割を果たすType I IFNシグナルに依存していることを明らかにしました(図1)。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

腫瘍溶解性35型Adは、腫瘍溶解性5型Ad に比べてより強力にNK細胞やCD8陽性T細胞をはじめとするがん免疫を活性化させる新たな抗がん剤として期待されます。

特記事項

本研究成果は、2025年7月11日(金)午前8時15分(日本時間)に米国科学誌「Journal for ImmunoTherapy of Cancer」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Oncolytic adenovirus serotype 35 mediated tumor growth suppression via efficient activation of antitumor immunity.”
著者名:Ryosuke Ono#, Sora Tokuoka#, Masashi Tachibana, Ken J. Ishii, Fuminori Sakurai, Hiroyuki Mizuguchi
(# equally contributed)
URL: https://jitc.bmj.com/content/13/7/e006558
DOI: https://doi.org/10.1136/jitc-2022-006558

なお、本研究は、独立行政法人日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究A、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 橋渡し研究プログラム、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム事業の一環として行われました。

用語説明

腫瘍溶解性ウイルス

正常細胞では感染増殖することなく、がん細胞でのみ感染増殖することでがん細胞を死滅させるウイルス