2014年11月11日

本研究成果のポイント

■薬物代謝能・薬物応答能の個人差を反映したヒトiPS細胞由来肝細胞パネルの作製、およびヒト肝細胞における薬物代謝能・薬物応答能の個人差を予測するための基盤技術の開発に成功
■CYP2D6活性の有無による肝毒性の出現をヒトiPS細胞由来肝細胞を用いて再現
■医薬品開発研究における新規肝毒性評価系としての活用が期待でき、安全な医薬品開発に貢献

リリース概要

大阪大学大学院薬学研究科教授の水口裕之(医薬基盤研究所招へいプロジェクトリーダー併任)らの研究グループは、ヒト肝細胞における薬物代謝能・薬物応答能の個人差を反映したヒトiPS細胞由来肝細胞パネルの作製、およびヒトiPS細胞由来肝細胞を用いてヒト肝細胞における薬物代謝能・薬物応答能の個人差を予測するための基盤技術の開発に成功しました。

ヒトiPS細胞由来肝細胞は個々人の個性に応じた薬物治療や毒性評価への応用が期待されていますが、実際にヒトiPS細胞由来肝細胞が薬物代謝能・薬物応答能の個人差を反映しているかどうかを検証した報告はありませんでした。今回の研究成果によって、ヒトiPS細胞由来肝細胞が元の肝細胞における薬物代謝能・薬物応答能の個人差を反映していることを明らかにしました。

今後、ヒトiPS細胞由来肝細胞を用いた、個人差を反映したきめの細かい毒性評価や薬効評価系への応用が期待されます。

研究の背景

肝臓は薬物の代謝を行う主要な臓器であり、薬物の肝毒性は患者の生命・健康に甚大な被害を及ぼすだけでなく、薬物の開発中止や市場撤退に繋がります。肝臓において発現する薬物代謝酵素の活性、および薬物による肝毒性の有無(程度)には極めて大きな個人差があります。そのため、薬物により肝毒性が引き起こされるリスクを創薬段階で正確に予測することは極めて難しいことが知られています。現行の医薬品開発では、肝毒性を予測するために、肝細胞の株化細胞、ヒト初代培養肝細胞、マウス、ラットなどの初代培養細胞やモデルが使用されていますが、いずれの場合もヒト肝細胞の薬物代謝酵素の活性の個人差を十分に反映していません。肝毒性を生じない安全な医薬品を効率良く開発するためには、ヒト肝細胞における薬物代謝酵素の個人差を反映した新規薬物評価系の構築が必要です。

自己複製能と多分化能を有するヒトiPS細胞はあらゆる個人から作製可能であるため、ヒトiPS細胞由来肝細胞は様々な薬物代謝酵素の発現パターンを有する個人から作製可能です。ヒトiPS細胞由来肝細胞は元の個人の肝細胞と同一のゲノム情報を有するため、元の個人の肝細胞の薬物代謝能や薬物応答能を反映しているのではないかと考えられます。しかしながら、実際にヒトiPS細胞由来肝細胞が肝細胞における薬物代謝能・薬物応答能を反映しているかどうか確かめた例はありませんでした。

このような背景のもと、今回12ドナーのヒト初代培養肝細胞からヒトiPS細胞を樹立し、そこからヒトiPS細胞由来肝細胞を作製しました。そして、全く同じ遺伝的背景を有したヒト初代培養肝細胞とヒトiPS細胞由来肝細胞の間で薬物代謝能・薬物応答能に相関が見られるかどうか確認しました(図1)。その結果、ヒト初代培養肝細胞における薬物代謝能と薬物応答能の個人差が、ヒトiPS細胞由来肝細胞においても同様に認められることが明らかとなりました。すなわち、薬物代謝酵素の活性の高いヒト初代培養肝細胞から作製されたヒトiPS細胞由来肝細胞は高い薬物代謝酵素活性を有しており、薬物代謝酵素の活性の低いヒト初代培養肝細胞から作製されたヒトiPS細胞由来肝細胞は低い薬物代謝酵素活性を有していました。したがって、ヒトiPS細胞由来肝細胞における薬物代謝能を測定することにより、元の個人の肝細胞における薬物代謝能を予測できると示唆されます。

同様に、薬物に対するヒトiPS細胞由来肝細胞の応答を調べることにより、元の個人の肝細胞における薬物応答も予測できると考えられます。さらに、薬物代謝酵素CYP2D6の活性がほぼ消失する一塩基多型(SNP)を有する個人のヒト初代培養肝細胞からヒトiPS細胞を介してヒトiPS細胞由来肝細胞を作製し、このヒトiPS細胞由来肝細胞を用いて元の個人におけるCYP2D6の活性の消失が再現できるかどうか検討しました(図2)。CYP2D6活性がほぼ消失するSNPを有する個人のヒト初代培養肝細胞から作製したヒトiPS細胞由来肝細胞は当該SNPを保持しており、ほとんどCYP2D6活性を有していませんでした。また、CYP2D6により解毒代謝されることが知られるdesipramineやperhexilineの細胞毒性が、CYP2D6活性がほぼ消失するSNPを有するヒト初代培養肝細胞、ヒトiPS細胞由来肝細胞でのみ検出されました(図3)

この結果より、ヒトiPS細胞由来肝細胞は個々人が有する薬物代謝酵素におけるSNP情報(遺伝的背景)を反映した薬物代謝能・薬物応答能を示すことが示唆されました。即ち、iPS細胞技術を利用することで、これまで安定供給が困難であった特異な薬物代謝酵素活性を有した肝細胞の安定供給が可能となり、今後のよりきめの細かい毒性評価系への応用に新たな道が開けたと言えます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

ヒトiPS細胞由来肝細胞は創薬研究における薬物の毒性スクリーニングを実施するためのツールとして期待されているだけでなく、従来の評価系では予測困難だった有害事象を予知できる新規評価系への利用も期待されています。

本研究成果により、ヒトiPS細胞由来肝細胞を用いてヒト肝細胞の薬物代謝能・薬物応答能の個人差を予測できることが示され、様々な薬物代謝酵素活性を示すヒトiPS細胞由来肝細胞パネルの作製のための基礎が構築できたと言えます。また、ヒトiPS細胞由来肝細胞を用いた個別化医療が実現できる可能性を証明する極めて意義深い成果であると考えられます。

今後は、より多様な薬物代謝酵素活性を有する集団や種々のSNPを有する集団からヒトiPS細胞由来肝細胞を作製することにより、より実用性の高いヒトiPS細胞由来肝細胞パネルの構築を目指します。

特記事項

本研究成果は、主に以下の事業によって得られました。
・厚生労働科学研究費補助金
・文部科学省特別経費『創薬プロセスの架け橋となるiPS細胞基盤技術構築プロジェクト』
・(独)科学技術振興機構 再生医療実現拠点ネットワークプログラム 技術開発個別課題

また、本研究成果はProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of Americaに11月10日(月)15時(米国東部時間)に掲載されました。

論文名

Takayama K., Morisaki Y., Kuno S., Nagamoto Y., Harada K., Furukawa N., Ohtaka M.,Nishimura K., Imagawa K., Sakurai F., Tachibana M., Sumazaki R., Noguchi E., Nakanishi M., Hirata K., Kawabata K., Mizuguchi H.
Prediction of inter-individual differences in hepatic functions and drug sensitivity by using human iPS-derived hepatocytes.

参考図

図1 12ドナーのヒト初代培養肝細胞における薬物代謝能・薬物応答能の個人差がヒトiPS細胞由来肝細胞においても確認できる

図2 CYP2D6活性がほぼ消失するSNPを有する個人から作製したヒトiPS細胞由来肝細胞はCYP2D6活性がほとんど認められない

図3 CYP2D6で解毒代謝されるdesipramineはCYP2D6活性が消失した個人由来のヒト初代培養肝細胞や分化誘導肝細胞では高い毒性を示すが,CYP2D6活性が正常値の個人由来のヒト初代培養肝細胞や分化誘導肝細胞ではあまり細胞毒性を示さない

参考URL

研究室ウェブサイト
https://sites.google.com/site/bunshiseibutugaku/

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