高い抗腫瘍効果を示す新しい腫瘍溶解性アデノウイルスを開発
新しい抗がん剤の開発
研究成果のポイント
概要
大阪大学大学院薬学研究科の水口裕之教授、櫻井文教准教授らの研究グループは、これまで遺伝子治療やウイルス療法に広く用いられてきたアデノウイルスとは異なるタイプのアデノウイルス(35型アデノウイルス)を基本骨格とした新しい腫瘍溶解性ウイルス(がん細胞で特異的に感染増殖し、がん細胞を死滅させるウイルス)を世界で初めて開発しました。
これまで遺伝子治療やウイルス療法(腫瘍溶解性ウイルスを用いたがん治療)に用いられてきたアデノウイルスは、5型アデノウイルスを基本骨格としております。しかし、日本人を含む成人の多くは、5型アデノウイルスに対する抗体を保有しているため、抗体によって治療効果が減弱する可能性がありました。また、5型アデノウイルスの感染受容体は、悪性度の高いがん細胞をはじめとする一部のがん細胞では発現が低く、それらの細胞に効率よく感染できませんでした。
今回、水口教授、櫻井准教授らの研究グループは、5型アデノウイルスではなく、抗体を保有している人の割合が低く、多くのがん細胞で高発現しているCD46を感染受容体として感染する35型アデノウイルスを基本骨格とした新しい腫瘍溶解性アデノウイルスを開発しました(図1)。今回開発した腫瘍溶解性35型アデノウイルスは、従来の腫瘍溶解性5型アデノウイルスでは治療効果が期待できないがんに対しても高い治療効果を示すことが期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Molecular Therapy-Oncolytics」に、1月25日(月)午前1時(日本時間)に公開されました。
図1 本研究の概略
研究の背景
がん細胞を効率よく死滅させる腫瘍溶解性アデノウイルスは、新たながん治療薬として期待を集めています。これまでの腫瘍溶解性アデノウイルスは、5型アデノウイルスを基本骨格としています。日本人を含め、成人の多くは5型アデノウイルスに対する抗体を保有しているため、抗体により治療効果が減弱する可能性が指摘されていました。また、5型アデノウイルスの感染受容体は、悪性度の高いがん細胞をはじめとする一部のがん細胞では発現が低く、効率よく感染できないという課題がありました。
本研究では、35型アデノウイルスを基本骨格とした新しい腫瘍溶解性アデノウイルスを開発しました。35型アデノウイルスに対する抗体を保有している人の割合は低いことから、抗体によって治療効果が減弱する可能性は低く、腫瘍溶解性5型アデノウイルスでは困難であった静脈内投与による治療が可能になると期待されます。さらに35型アデノウイルスの感染受容体であるCD46は、ほぼ全ての細胞で発現しており、特に悪性度の高いがん細胞で高発現していることが知られています。したがって、腫瘍溶解性35型アデノウイルスは、悪性度の高いがん細胞を含む広範ながん種に対し、高い治療効果が期待できます。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
腫瘍溶解性35型アデノウイルスは、これまでの腫瘍溶解性アデノウイルスでは高い治療効果が期待できなかったがんに対しても高い治療効果を示すことから、新たな抗がん剤として期待されます。
特記事項
本研究成果は、2021年1月25日(月)午前1時(日本時間)に米国科学誌「Molecular Therapy-Oncolytics」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Efficient antitumor effects of a novel oncolytic adenovirus fully composed of species B adenovirus serotype 35”
著者名:Ryosuke Ono, Kosuke Takayama, Fuminori Sakurai and Hiroyuki Mizuguchi
なお、本研究は、独立行政法人日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究A、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム事業の一環として行われました。
参考URL
薬学研究科 分子生物学分野HP
https://www.seika.site/
用語説明
- 腫瘍溶解性ウイルス
正常細胞では感染増殖することなく、がん細胞でのみ感染増殖することでがん細胞を死滅させるウイルス
- ウイルス療法
腫瘍溶解性ウイルスを用いたがん治療