オートファジーによるゴルジ体分解の 新規受容体を発見

オートファジーによるゴルジ体分解の 新規受容体を発見

ゴルジファジーの新規評価系を開発

2024-7-9生命科学・医学系
医学系研究科特任教授吉森保

研究成果のポイント

  • オートファジーによる選択的なゴルジ体分解(ゴルジファジー)について、新たな評価系を開発し、定量的評価を行った。
  • YIPF3-YIPF4複合体がゴルジファジーにおけるゴルジ体の認識に働くことが明らかとなり、リン酸化により制御されている可能性が示唆された。
  • 新規評価系を用いることでゴルジファジーの分子機構やその生理的重要性の理解が進むことが期待される。

概要

大阪大学大学院医学系研究科 大学院生の橘田真理さん(博士課程)、久万亜紀子 特任准教授(常勤)、吉森保 特任教授 (研究当時:教授 遺伝学/大学院生命機能研究科、現所属:保健学専攻)のグループは、オートファジーによる選択的なゴルジ体分解(ゴルジファジー)の活性を評価するプローブを作製し、これを活用してゴルジファジーの新規受容体を発見しました。

オートファジーによるオルガネラ(細胞小器官)の分解は、細胞の恒常性維持に不可欠であると考えられています。最近、オルガネラの1つであるゴルジ体がオートファジーによって分解されることが報告されましたが、形成される隔離膜/オートファゴソームによってゴルジ体がどのように認識されるかについてはほとんど解明されていませんでした。

今回、研究グループは、オートファジー活性評価に用いられるプローブを応用し、ゴルジファジー活性を簡便かつ特異的にモニターできる評価系を開発しました。また、この評価系を用いて、独自のスクリーニングにより同定した因子であるYIPF3/YIPF4がゴルジファジーに必要であり、オートファジー因子との結合によりゴルジ体が基質として認識されることを証明しました。さらに、その結合にはリン酸化が重要である可能性を見出し、その制御機構の一端を明らかにしました(図1)。

これらの成果は、ゴルジファジーの分子機構の理解を進めるだけでなく、今後は開発した新規評価系によりゴルジファジー研究の促進とその生理的意義やその破綻による病気との関連の解明につながることが期待されます。

本研究成果は、国際科学誌「The EMBO Journal」に、5月31日(金)に公開されました。

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図1. 新規評価系を用いた本研究成果の概略

研究の背景

オルガネラのターンオーバーは細胞の恒常性にとって不可欠であり、特にオルガネラが損傷を受けたときに重要です。そのようなオルガネラを除去する方法の一つが、オートファジーです。

オートファジーは、かつては分解するものをいちいち見分けずまとめて分解する(バルク分解)と考えられていましたが、現在では基質を選択的に分解することも知られています。ミトコンドリア、小胞体、リソソーム、ペルオキシソームなどのオルガネラが、飢餓やその他のストレスに応答して、その質や量を維持するために、選択的にオートファゴソームに排除されることが知られています。さらに最近、オートファジーによるゴルジ体の選択的分解(ゴルジファジー)が、哺乳類やハエで報告されました。しかし、ゴルジファジーは他のオルガネラ選択的オートファジーに比べてほとんど研究されておらず、そのメカニズムや生理学的・病理学的意義はほとんどわかっていませんでした。

研究の内容

本研究グループは、オートファジー遺伝子欠損マウス組織のプロテオーム解析を行い、オートファジー関連候補因子としてゴルジ体の膜タンパク質YIPF3とYIPF4を同定しました。YIPF3-YIPF4複合体は飢餓条件下でオートファジーにより分解されました。YIPF3は、オートファジー受容体に共通する特徴的配列(LIRモチーフ)を持つことから、ゴルジ体選択的オートファジーの受容体として働く可能性が考えられました。

これを検証するために、本研究ではRFP- GFP(図2)またはHalo- GFP(図3)をゴルジ局在ペプチドと融合させることで、ゴルジファジーを解析するための2つのレポーターを開発しました。これにより、イメージングおよび生化学的にゴルジファジーの活性を簡便かつ特異的に定量化することが可能となりました。これらの評価系を用いて解析を行ったところ、YIPF3およびYIPF4を欠損させた細胞ではゴルジ体のオートファジーによる分解が顕著に抑制されました(図2、3)。また、YIPF3がLIRモチーフを介してオートファジー因子との結合することがゴルジファジーに重要性であることを示し、YIKPF3-YIPF4複合体がオートファジー受容体であることを明らかにしました。さらに、その結合にはLIRモチーフ上流のセリン残基のリン酸化が重要である可能性を見出し、その制御機構の一端を明らかにしました。

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図2. RFP-GFP-Golgiプローブによるイメージング解析:YIPF3およびYIPF4欠損によりリソソームに運ばれるゴルジ体の数は減少する
右) RFP- GFPをゴルジ局在ペプチド(Golgiと表記)と融合させたプローブ。リソソームの酸性環境ではGFPの安定性がRFPに比べて低い特性を利用して、ゴルジ体に局在する本プローブがオートファゴソームに輸送されるとRFPのみのシグナルとして検出され、ゴルジファジー活性として見積もることが可能である。左) RFP-GFP-Golgiを用いたイメージング解析においてYIPF3およびYIPF4欠損細胞ではマゼンタのドット構造(RFPのみのシグナル)の数が減少した。GFP; 緑、RFP; マゼンタ。

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図3. Halo-GFP-Golgiプローブによる生化学的解析:YIPF3およびYIPF4欠損によりオートファジーによるゴルジ体分解が抑制される
右) Halo-GFPをゴルジ局在ペプチド(Golgiと表記)と融合させたプローブ。リソソーム内ではリガンドが結合したHaloは分解されない特性のため、ゴルジ体に局在する本プローブがオートファゴソームに輸送されるとHaloのみのバンドとして検出される。その量によってゴルジファジー活性として見積もることが可能である。左) Halo-GFP-Golgiを用いた生化学的解析においてYIPF3およびYIPF4欠損細胞ではHalo-GFP-Golgi の切断で生じるHaloバンド(ゴルジファジー活性)が減少する。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

ゴルジ体の断片化は、飢餓だけではなく、有糸分裂期、感染症、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、がんなどの様々な状態において起きることが報告されています。このようなゴルジ体の形態変化を引き起こすようなストレス条件下では、断片化したゴルジ体がオートファジーによって分解される可能性があります。ゴルジファジーの生理的意義はまだ明らかではありませんが、本研究成果による簡便かつ特異的なオートファジーによるゴルジ体分解の新規評価系の開発により、ゴルジファジーの分子機構、生理的重要性、疾病との関連性などの解明につながることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、国際科学誌「The EMBO Journal」に、5月31日(金)に公開されました。

タイトル:“YIPF3 and YIPF4 regulate autophagic turnover of the Golgi apparatus”
著者名: Shinri Kitta1, Tatsuya Kaminishi1,2, Momoko Higashi3, Takayuki Shima1, Kohei Nishino4, Nobuhiro Nakamura5, Hidetaka Kosako4, Tamotsu Yoshimori1,2,3*, Akiko Kuma1,6*(*責任著者)
所属:
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 遺伝学
2. 大阪大学 先導的学際研究機構(OTRI) 生命医科学融合フロンティア研究部門
3. 大阪大学 大学院生命機能研究科 細胞内膜動態研究室
4. 徳島大学 先端酵素学研究所
5. 京都産業大学 生命科学部 先端生命科学科
6. 東京大学 医学部・大学院医学系研究科 分子細胞生物学
DOI:https://doi.org/10.1038/s44318-024-00131-3

なお、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)研究開発領域「プロテオスタシスの理解と革新的医療の創出」における研究課題「細胞内膜動態によるプロテオスタシス制御の理解:健康長寿の実現に向けて」(研究代表者:吉森保)「JP22gm1410014」、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST研究領域「細胞外微粒子に起因する生命現象の解明とその制御に向けた基盤技術の創出」における研究課題「オートファジーによる細胞外微粒子応答と形成」(研究代表者:吉森保)「JPMJCR17H6」、日本学術振興会(JSPS)科研費 基盤研究S(研究代表者:吉森保)「22H04982」、基盤C(研究代表者:久万亜紀子)「22KJ2105」「23K05764」、新学術領域研究「オートファジーの集学的研究:分子基盤から疾患まで」における研究科題「オートファジーの生理・病態生理学的意義とその分子基盤」(研究代表者:水島昇)「25111005」の一環として行われました。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 保健学専攻/遺伝学/生命機能研究科 細胞内膜動態学
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/yoshimori/jp/

用語説明

オートファジー

主要な細胞内の分解システムの一つ。隔離膜と呼ばれる膜が細胞質やオルガネラの一部を取り囲みオートファゴソームとなり、そこにリソソームが融合してオートリソソームを形成後、取り込まれた内容物が分解される。非選択的に細胞質成分を分解する場合と、オルガネラなどを選択的に分解する場合がある。