“血液一滴”でCOVID-19難治化を予測!

“血液一滴”でCOVID-19難治化を予測!

COVID-19の新規バイオマーカーを同定

2022-12-9生命科学・医学系
免疫学フロンティア研究センター特任助教(常勤)川﨑貴裕

研究成果のポイント

  • わが国が第8波に見舞われている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)において、血中を流れる細胞外小胞(エクソソーム)プロテオミクス(蛋白網羅的解析)と、シングルセル解析(一細胞レベルの遺伝子発現解析)により、難治化を予測する有効なバイオマーカー、かつ病態に関わる重要分子を同定した。
  • ワクチン接種や新薬がありながらも、治療抵抗例は一定数存在する。医療がひっ迫する中、簡便にそれを予測するバイオマーカーの開発が求められていた。
  • 今回同定したバイオマーカーにより、血液を用いた簡便な難治化予測が可能になれば、ハイリスク患者の層別化ができる。また、新薬開発のターゲットになる可能性もある。

概要

大阪大学免疫学フロンティア研究センターの川﨑貴裕 特任助教(常勤)(感染病態)と大阪大学大学院医学系研究科の武田吉人 准教授(呼吸器・免疫内科学)らの研究グループは、COVID-19において、MACROH2A1を新規の難治化予測バイオマーカーとして同定しました。

COVID-19は全世界で蔓延し、わが国も第8波に見舞われています。依然として300~400例もの重症患者が存在し、1日あたり100~200例が死亡することが問題になっています。適切に治療しても病気が進行する「難治化」を予測し、早期に重点的な対応を行う必要がありますが、これまで臨床現場で簡便に検査できるバイオマーカーは乏しく、課題となっていました。

今回、研究グループは、血中を流れるエクソソームが、細胞や組織間コミュニケーション手段として機能し、がんの診断や治療への応用が注目されていたことから、血清中のエクソソームに着目し、プロテオミクス(蛋白網羅的解析)から新規COVID-19難治化バイオマーカーとしてMACROH2A1を発見しました(図1)。さらに、血中の免疫細胞、および肺組織におけるシングルセル解析を加えることで、同分子がバイオマーカーとしてのみならず、重症COVID-19肺炎の病態に深く関わっていることが明らかになりました。これにより、治療に難渋するCOVID-19難治化の予測が血液1滴で可能となることが期待されます。さらに、COVID-19肺炎のメカニズムに関わることから新薬開発のターゲットになることも期待されます。

本研究成果は、日本炎症・再生医学会誌「Inflammation and Regeneration」に、11月30日(水)22時(日本時間)に公開されました。

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図1

研究の背景

全世界で猛威をふるっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、わが国でも第8波の真っただ中にあります。通常、重症肺炎に対してはステロイドなど抗炎症治療が行われますが、適切な治療を行っても病気が進行する「難治化」ケースが依然存在します。このような患者を早期に予測することは、救命のため、また医療資源の適切な配分のため喫緊の課題でした。

血液(血清)は最も簡単に採取できるサンプルですが、アルブミンなど夾雑物が大量に含まれるために未知の分子を探索する網羅的解析には不利でした。最近、血中を流れるエクソソームが、細胞や組織間コミュニケーション手段として機能しており、がんの早期発見や治療への応用が注目されていました。とりわけ、脂質二重膜で囲まれたメッセージカプセルであるエクソソームは、プロテオミクス(蛋白網羅的解析)に有利な理想的サンプル(リキッドバイオプシー)とみなされることから、研究グループは血清エクソソームに着目し、新規バイオマーカーの探索を試みました。

研究の内容

研究グループは、COVID-19患者の血清エクソソームの最新のプロテオミクス(蛋白網羅的解析)を駆使したアプローチにより、3046種類の蛋白の中から新規バイオマーカーの同定に成功しました。中でも、DNAを核内に折りたたむヒストン蛋白の一種MACROH2A1はステロイド治療抵抗例を予測する診断能があることが分かりました。さらに、血中の免疫細胞、および肺組織中の種々の細胞におけるシングルセル解析(一細胞レベルの遺伝子発現解析)を行ったところ、抗ウイルス免疫で重要な単球において、同分子が顕著に増加していました。これらプロテオミクスとシングルセル解析の統合解析から、重症COVID-19の病態に対して、肺および血液に含まれる単球でのMACROH2A1の働きが関与している可能性が考えられ、増加したMACROH2A1が血中のエクソソームで捉えられることが示唆されました。

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図2

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、治療抵抗性となるCOVID-19難治化を、血液サンプルから簡便に予測できることが期待されます。これにより、そのようなハイリスク患者に対して早期に重点的な治療、監視を行うことが可能になり、重症患者の救命に役立ちます。さらに、本発見から見出された新規バイオマーカーは、重症COVID-19病態形成と密接に関わるため、新規治療薬開発に繋がることも期待されます。

特記事項

本研究成果は、日本炎症・再生医学会誌「Inflammation and Regeneration」に、11月30日(水)に公開されました。

タイトル:“Next‑generation proteomics of serum extracellular vesicles combined with single‑cell RNA sequencing identifies MACROH2A1 associated with refractory COVID‑19”
著者名:Takahiro Kawasaki1, 2, Yoshito Takeda1, 7*, Ryuya Edahiro1, 3, Yuya Shirai1, 3, Mari Nogami-Itoh4, Takanori Matsuki5, Hiroshi Kida5, Takatoshi Enomoto1, Reina Hara1, Yoshimi Noda1, Yuichi Adachi1, Takayuki Niitsu1, Saori Amiya1, Yuta Yamaguchi1, Teruaki Murakami1, Yasuhiro Kato1, Takayoshi Morita1, Hanako Yoshimura1, Makoto Yamamoto1, Daisuke Nakatsubo1, Kotaro Miyake1, Takayuki Shiroyama1, Haruhiko Hirata1, Jun Adachi6, Yukinori Okada3, 7, Atsushi Kumanogoh1, 2, 7, 8, 9, 1
(*責任著者)
所属:
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
2. 大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC) 感染病態分野
3. 大阪大学大学院医学系研究科 遺伝統計学
4. 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 バイオインフォマティクスプロジェクト
5. 国立病院機構 大阪刀根山センター 呼吸器内科
6. 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 プロテオームリサーチプロジェクト
7. 大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)
8. 大阪大学先導的学際研究機構(OTRI)生命医科学融合フロンティア研究部門
9. 日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業 AMED-CREST
10. 大阪大学ワクチン開発拠点 先端モダリティ・DDS研究センター(CAMaD)
DOI:https://doi.org/10.1186/s41232-022-00243-5

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業、日本医療研究開発機構(AMED)の支援を得て行われました。

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図3

参考URL

川﨑 貴裕 特任助教(常勤)研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/f9f7a6101ce04556.html

用語説明

細胞外小胞(エクソソーム)

エクソソーム(Exosome)は細胞から分泌される直径50-150 nmの細胞外小胞であり、その表面は細胞膜由来の脂質、タンパク質を含み、内部には核酸、タンパク質や脂質などを含んでいる。(図3)

プロテオミクス(蛋白網羅的解析)

質量分析などの手法により、網羅的に蛋白を分離検出し、定性、定量する解析。本研究では、次世代プロテオミクスと呼ばれる最新の手法である、データ非依存的取得法 (Data-independent acquisition, DIA)を用い、きわめて蛋白の同定網羅性の高い解析を行った。

シングルセル解析(1細胞レベルの遺伝子発現解析)

1細胞ごとに含まれるRNAを解読することで、遺伝子発現を網羅的に定量する手法。

MACROH2A1

DNAを核内に折りたたむヒストン蛋白の一種。シグナル誘導性の遺伝子活性化、腫瘍抑制効果など様々な機能が知られている。

単球

自然免疫細胞の一つで、ウイルス感染に際してインターフェロン産生など重要な役割を果たす。